2――調査の概要
本分析には、ニッセイ基礎研究所が2020年と2021年に行った独自のWEB アンケート調査のデータを用いた
1。各アンケート調査の回答は、全国の 18~64 歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女を対象に、全国 6 地区、性別、年齢階層別(10 歳ごと)の分布を、 2015 年の国勢調査の分布に合わせて収集した。
2020年に実施した調査の回答の回収期間は、2020年2月28日~2021年3月29日で、回答件数は、6,485件である。2021年に実施した調査の回答の回収期間は、2021年2月27日~2021年3月25日で、回答件数は 5,808 件である。2021年の調査では、2020年の調査の回答者から優先的に回収した。そして、本稿で紹介する分析では、2020年から2021年の間の状況の変化に注目するため、2020年と2021年の調査の両方の回答がある4,451件の情報を用いた。
1 「2021年被用者の働き方と健康に関する調査」及び「2020年被用者の働き方と健康に関する調査」
3――テレワークの頻度は増加している
図2のように、全体(n=4,451)では、2020年と2021年の間で、K6が9点以上の人の割合はほとんど変わっていない。「全体(週2日以下→週2日以下)」は、全体の中で、2020年2月時点のテレワーク頻度が週2日以内(全く無しを含む)であり、2021年2月時点でも同様に週2日以内の人を示している(n=3,789)。これに当てはまる人も、全体の傾向と同じで、2020年から2021年の間で、K6が9点以上の人の割合にほとんど変化が無い。
「全体(週2日以下→週3日以上)」は、2020年2月時点のテレワークの頻度は、週2日以内(全く無しを含む)であったが、2021年2月時点では週3日以上になった人を示す(n=443)。これに当てはまる人は、2020年と2021年ともに、それ以外の人々に比べて、K6が9点以上の人の割合が低い。これは、もともと年収等の待遇が良いと考えられる大企業でテレワークが取り入れられる場合が多いこと
6を反映していると考えられる。しかし、全体では、テレワークの頻度が増えた人の間でも、2020年から2021年の間で、K6が9点以上の人の割合にはほとんど変化が見られない。
では、12歳以下の子がいる人といない人を比較した場合はどうだろうか。まず、12歳以下の子がいない人(n=3,678)の傾向は、「12歳以下の子無(週2日以下→週2日以下)」(n=3,144)の場合も、「12歳以下の子無(週2日以下→週3日以上)」(n=354)の場合も、全体の傾向と変わらず、2020年から2021年の間で、K6が9点以上の人の割合に、ほとんど変化が見られない。
一方、12歳以下の子がいる人(n=773)の分布をみると、まず、12歳以下の子がいない人よりも全体として、K6が9点以上の人の割合が高い傾向がみられる。これは、両回答者グループの年代差によるストレスの違いによるものである可能性が考えられる
7。そして、テレワークの拡大状況別にみると、「12歳以下の子有(週2日以下→週2日以下)」(n=645)の場合は、2020年から2021年の間でほとんど変化がない。一方で、「12歳以下の子有(週2日以下→週3日以上)」(n=89)の場合は、2020年から2021年の間で、K6が9点以上の人の割合が大きく減少していることが分かる(約35%から約25%へ10ポイント程度減少)
8。
これは、12歳以下の子がいる人は、週3日以上のテレワークを行うようになると、こころの健康状態が改善する傾向があることを示唆している。参考資料に掲載したさらに詳細な分析
9でも、12歳以下の子がいて、テレワークが拡大した人のこころの健康が改善する傾向が、統計的に有意であることが確認された。
3 Kessler et al.(2002)、Furukawa et al.(2008)、古川ほか(2003)
4 「一般住民におけるトラウマ被害の精神影響の調査手法 マニュアル (2015 年 2 月版) 」
http://plaza.umin.ac.jp/~heart/pdf/151026.pdf(2021年8月26日アクセス)
5 2021年の調査時点での12歳以下の子の有無
6 本調査では、従業員数1000人以上の企業に勤める人で、2020年の2月時点ではテレワークが週2日以内であった人のうち、2021年2月時点で週3日以上となった人の割合は、約18%であった。一方、従業員数1000人未満の企業に勤める人で、2020年の2月時点ではテレワークが週2日以内であった人のうち、2021年2月時点ではテレワークが週3日以上となった人の割合は、約7%であった。
7 本調査では、2019年の調査でも、2020年の調査でも回答者の年齢が高いほど、K6が9点以上の人の割合が低い傾向があり、12歳以下の子がいない人の方が12歳以下の子がいる人に比べて年代が低い傾向があること(12歳以下の子がいない人の平均年齢は44.5歳、12歳以下の子がいる人の平均年齢は40.6歳)を反映している可能性が考えられる。
8 男女別に見ると、12歳以下の子がいて、テレワークが週2日以内から週3日以上に拡大した女性のサンプルサイズが小さいものの(n=20)、男女共に12歳の子がいる人でテレワークが拡大した人のこころの健康が改善する傾向が見られた。
9 参考資料にある「線形回帰モデルの推定結果」の表の1列目に推定結果が示されている。被説明変数は、2021年の調査時点で、K6が9点以上の場合に1をとり、それ以外の場合は0をとるダミー変数。説明変数は、2020年の調査時点でのK6が9点以上の場合に1をとり、それ以外の場合は0をとるダミー変数、2021年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の場合に1をとるダミー変数、2021年時点で12歳以下の子を持っている場合に1をとるダミー変数、2021年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の場合に1をとるダミー変数と2021年時点で12歳以下の子がいる場合に1をとるダミー変数の交差項が含まれる。表に係数は掲載されていないが、その他にも、表に係数2020年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の人のダミー、2020年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の人のダミーと2021年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の人のダミーの交差項、2020年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の人のダミーと2021年時点で12歳以下の子がいるダミーの交差項、2020年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の人のダミーと2021年時点で12歳以下の子がいるダミーと2021年時点で12歳以下の子がいる場合に1をとるダミーの交差項が含まれる。さらにコントロール変数として、年齢、女性ダミー、在住都道府県ダミー、働く企業の従業員数ダミー、婚姻状態ダミー、年収ダミーが含まれている。このモデルの推定結果で、2021年時点でのテレワーク頻度が週3日以上の場合に1をとるダミー変数と2021年時点で12歳以下の子がいる場合に1をとるダミー変数の交差項が負に有意であることが、12歳以下の子がいてテレワークが週3日以上になると、K6が低くなる(こころの健康状態が改善する)傾向があることを示している。
5――テレワークの頻度の変化と幸福度の変化
5――テレワークの頻度の変化と幸福度の変化
12歳以下の子がいる人は、K6で計測されるこころの健康が、テレワークの拡大によって改善する可能性が示されたが、幸福度についてはどうだろうか。図3は、幸福度の平均点の分布を、テレワーク頻度の変化及び12歳の子の有無別
10に示したものである。幸福度は、「現在、あなたはどの程度幸せですか。「とても幸せ」を10点、「とても不幸」を0点とすると、何点くらいになると思いますか。」という質問を用いて、11 件法で尋ねたものである。
図3を見ると、全体としては、K6が9点以上の人の割合が、2020年から2021年にかけて変化が見られなかったのと同様に、幸福度の平均値についても、全体としては、2020年から2021年で、ほとんど変化が見られない。テレワークが週2日以下から週3日以上に増えた人の幸福度がもともと高い傾向があるのも、K6の分布で見られた傾向と同じであり、こうした人々は大企業等のもともと待遇の比較的良いと考えられる企業等に勤めていることを反映している可能性がある。
12歳以下の子がいる人といない人で比較をすると、12歳以下の子がいる人の方が、全体的に幸福度が高いことが分かる。K6の分布では12歳以下の子がいる人の方がストレスが大きい傾向が示されていたが、幸福度は高い傾向がみられており、こころの健康と幸福度の傾向が必ずしも一致しないことを示唆している。そして、12歳以下の子がいる人の間でも、テレワークがあまり拡大しなかった人(週2日以下→週2日以下)については、2020年から2021年の間に幸福度に大きな変化は見られないが、12歳以下の子がいる人で、テレワークが拡大した人(週2日以下→週3日以上)については、幸福度が高まった傾向がみられる
11。
これは、12歳以下の子がいる人は、週3日以上のテレワークを行うようになると、こころの健康状態が改善するだけでなく、幸福度も高まる傾向を示唆している。参考資料に掲載した、より詳細な分析
12においても、12歳以下の子がいる人の間では、テレワークの拡大によって、幸福度が高まるという傾向が、統計的に有意であることが確認された。
参考文献
古川壽亮・大野裕・宇田英典・中根允文(2003)「心の健康問題と対策基盤の実態に関する研究」平成14 年度分担報告書、厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業
Furukawa, T. A., Kawakami, N., Saitoh, M., Ono, Y., Nakane, Y., Nakamura, Y., Tachimori, H., Iwata, N., Uda,H., Nakane, H., Watanabe, M., Naganuma, Y., Hata, Y., Kobayashi, M., Miyake, Y., Takeshima, T. and Kikkawa, T.(2008)"The Performance of the Japanese Version of the K6 and K10 in the World Mental Health Survey Japan," International Journal of Methods in Psychiatric Research, 17(3): 152-158.
Kessler, R. C., Andrews, G., Colpe, L. J., Hiripi, E., Mroczek, D. K., Normand, S. L., Walters, E. E. and Zaslavsky, A. M.(2002)"Short Screening Scales to Monitor Population Prevalences and Trends in Non-Specific Psychological Distress," Psychological Medicine, 32(6): 959-976.