(2)新たな移動手段の制度化と促進
従来型の鉄道・バス等による公共交通維持が困難になる中で、それらを補う手段として、2006年に創設されたのが、マイカーによる輸送を認める「自家用有償旅客運送」制度である。道路運送法では、自家用車を用いて、他人を有償で輸送することは禁止されているが、公共交通が成り立たない公共交通空白地域において、例外的に、地域住民等を輸送することを認める制度である。元々は地域限定で規制を緩和・撤廃する「構造改革特区」の枠組みでスタートした後、全国化された。運営主体は市町村やNPOなどで、セダン型やバス型など様々な車両が用いられている。
このパターンとは別に、公共交通空白地域ではなくても、一人で電車やバスに乗降することが難しい身体障害者や要介護、要支援認定者等を対象に、自家用車による輸送を認める福祉運送のパターンもある。福祉の場合は、寝台車や車いす車、セダン型などの車両が用いられている。
いずれのパターンでも、第2種免許を持っているプロのドライバーだけではなく、地域住民も、第1種免許の他に、大臣認定講習を受講すれば、ドライバーとなることができる。ドライバーが受け取ることができる対価は、燃料費など実費の範囲内とされている。
ただし、自家用有償旅客運送を新たに導入する際には、自治体と地域の交通事業者、住民らで組織する「地域公共交通会議」や「運営協議会」で協議が整うことが条件とされている。そのため、これまでは、市町村が導入を検討しても、タクシーよりも利用料が安いことなどから、地域の交通事業者が反対して頓挫するケースもあった。
しかし、従来型の交通事業だけでは移動手段の確保が困難になっていることから、地域住民の力を借りた自家用有償旅客運送を拡充しようと、政府は2019年に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太方針)の中で、市町村等が交通事業者等に運行管理を委託する「協力型」の制度を整備することを盛り込んだ。交通事業者にも導入のメリットを持たせることで、地域公共交通会議等での反対を防ぐと同時に、輸送の安全性も高めようというものである。さらに、観光客も利用できることを明確化する方針を打ち出した。これを受けて2020年に道路運送法が改正され、ドライバーの対価についても「タクシーの半額を目安」という規定が廃止された
18。
国はその他、後述するように、市町村が運営主体となる「コミュニティバス」や「デマンド交通」など、多様な移動手段を活用して、地域の公共交通ネットワークを維持するようにを促している
19。2020年法改正により市町村の策定が努力義務とされた「地域公共交通計画」においても、自家用有償旅客運送やスクールバス、福祉輸送など、多様な移動手段についても必要に応じて盛り込み、地域の持続可能な旅客運送サービスを確保するように求めている。
さらに、近年注目が高まっているMaaS(Mobility as a Service)
20について、地域の交通サービスの利便性を向上し、高齢者等の移動手段確保につながる可能性があるとして、普及を促進している。具体策として、地域の複数の交通事業者が連携して運賃設定を行う場合などに、各事業者から運輸局に許可申請しなくても、ワンストップで手続きできるようにする特例措置などが設けられた。
18 国土交通省「交通空白地有償運送の登録に関する処理方針について」(令和2年11月27日公示第67号)
19 例えば国が2015年に策定した「交通政策基本計画」では、デマンド交通の導入数を2013年度の311市町村から、2020年度700市町村に増やす目標が掲げられている。
20 国土交通省は、「スマホアプリ又はwebサービスにより、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて経路検索・予約・決済等を一括で行うサービス」と定義している。