正接定理
「余弦定理」と「正弦定理」と来れば、当然にtan(tangent)を意味する「正接」に由来する「正接定理」があるのではないかということになる。
「正接定理」は、三角形の2つの角と2つの辺の関係を示した定理で、以下の算式が成り立つというものである。
これにより、三角形の2つの角と2辺の長さのうちどれか1つが不明の場合に、正弦定理の代わりにこの定理を使用しても残りの値を求めることができる。
実は、「余弦定理」と「正弦定理」についてはお聞き及びの方も多いと思われ、そういえばそんな定理を学んだよな、と思われるかもしれないが、「正接定理」については、そんなものあったかな、と思われる人が多いのではないかと思われる。実は、この「正接定理」は、「余弦定理」や「正弦定理」と比べて、一般的にはあまり利用されていない。このため、高校の数学等でも習わないようであり、馴染みが薄いものとなっている。
この「正接定理」は、以下のように証明される。
「正弦定理」より、
とすると、
a=d sinα b=d sinβ
となることから、
ここで、次回に述べる加法定理を用いると、
となる。
この「正接定理」により、三角形の2辺の長さとその間の角度γが与えられている場合に、
から、α-βを求めることができ、α+β(=180°―γ)も分かるので、αとβを求めることができることになる。
三角法
今回説明した三角関数の正弦定理や余弦定理は、いわゆる「三角法」と呼ばれる学問領域において、重要な役割を果たしている。「三角法」では、三角形の辺の長さや角の大きさの間の関係に基づいて、幾何学的図形の各要素の間の関係やそれらの利用・応用を研究している。
この「三角法」が利用されている分野として、例えば先に述べた「三角測量」が挙げられ、地図の作成や土地の位置・状態調査などを行う「測量」や天文学における「天文計算」に使用される。さらに、歴史的には、大洋における自らの船の位置を確認するための「航海術」としても利用されてきた。
光学的測距技術やGPS(全地球測位システム)等の各種技術の向上によって、こうした三角法の直接的利用は後退しているが、今日でも、三角法の考え方自体は、引き続き、測量、天文学、航海、計量学、兵器の照準等といった多くの目的に使用されている。
(参考)三角形の合同条件
三角形の辺や角に関する情報が与えられた時に、上記の定理を用いて、他の辺や角に関する情報を得ることができる。2つの三角形が「合同」であるとは、平行移動や回転や鏡映によって、一方の三角形が他方の三角形に重ね合わせることができる場合をいう。三角形の合同条件としては、以下の3つのケースが考えられる
①「三辺相等」:対応する3辺が等しい。
②「二辺挟角相等」: 2辺とその挟む角が等しい。
③「二角挟辺相等」:1辺とその両端の角が等しい。
これらに加えて、④「一辺二角相等」ということで、2つの角とその間にない1辺が等しい場合も挙げられるが、三角形の内角の和が180°であることを考えれば、これは③に帰着するということもできる。
これを今回の定理との関係でみてみると、以下の通りとなる。
①の場合、「余弦定理」から3つの角度が求められる。
②の場合、「余弦定理」から、他の1辺が、さらに「余弦定理」から他の2つの角が求められる。
③の場合、三角形の内角の和が180°であることから、他の角が求まり、「正弦定理」から、他の2辺も求められる。
このように、基本的には、3つの独立した情報が与えられれば、三角形を(合同ベースで一意に)決定することができることになる。ただし、例えば、3つの独立した情報であっても、「④2辺と(その2辺に挟まれない)1つの角が与えられる場合」には、以下のように2通りの可能性が出てくる。
なお、外接円の半径Rを含めて考える場合には、正弦定理により、「⑤二角と外接円半径」が分かれば、下の左図のように1つの三角形を決定することができることになる。
ただし、「⑥二辺と外接円半径」が与えられる場合には、上記の④のケースと同様に上の右図のように2通りの可能性が出てくる。
まとめ
以上、今回は「三角関数の性質」として、高校時代に学んだいくつかの公式や定理等のうち、「余弦定理」、「正弦定理」及び「正接定理」等の基本的な定理について、その有用性を含めて、紹介した。
次回の研究員の眼では、「三角関数の性質」として、高校時代に学んだいくつかの公式や定理等のうち、「加法定理」、「二倍角、三倍角、半角の公式」、「合成公式」、「和と積の変換公式」等について、その有用性とともに紹介したいと思う。