特措法のまん延防止等重点措置に基づく措置命令違反、および緊急事態宣言に基づく措置命令違反に対しては、提案時点でも行政罰である過料とされていた。ただし、過料の上限金額はそれぞれ30万円から20万円に、50万円から30万円に引き下げられた。
他方、感染症法の入院拒否に対しては、刑事罰として1年以下または100万円以下の罰金を科すとの原案となっていた。これについては、刑事罰から行政罰へと修正され、50万円以下の過料を課すこととされた。
過料は、行政上の義務違反について金銭的な負担を課すというペナルティであり、一般には社会的な非難の意味合いを持たない。他方、刑事罰は、社会的に非難される行為を行ったことに対するペナルティであり、前科もつくこととなる。
単純に理屈として考えると、特措法の規定はまん延を防止するためといった、社会的な予防的措置である。単に営業を継続したということが、刑事罰を科すことをもってまでして禁圧すべき問題であるのかと考えれば、それは行き過ぎであるという考え方は首肯できる。
他方、感染症法の入院拒否は、感染者が現実に存在していて、その感染者が自由に外出することで更なる感染者を生じせしめるという危険を具体的に生じさせうる。この点、本稿では触れてこなかったが、検疫法では、感染地域から来航し、汚染のおそれがある船舶に乗船していた新型コロナの患者を隔離し、あるいは感染したおそれのある者を停留することとされている(検疫法第14条第1項第1号、第2号)。停留・隔離から逃げ出した者には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される(検疫法第35条)。このこととのバランスをどう考えるかという問題もある。ただ、検疫法は、水際対策として国内での感染病発生そのものを食い止めるという切迫した問題に対処するものであると捉えると、感染症法の罰則を必ずしも検疫法と同程度にしなくてもよいとは思われる。
ところで、重症者が自由に外出することは考えにくいため、入院拒否へのペナルティを課すべき場面としては、たとえば軽症者や無症状病原体保有者が、自宅・宿泊療養先から外出し、飲食店や温浴施設など各種施設に訪問する場合が想定されよう。ここで、患者が飲食店等に行ったような場合は、飲食店等は営業を停止し、消毒作業を行わなければならず、そのため患者は業務妨害として罪に問われうる。ただし、患者が自発的に訪問先を申告するとは限らない。
そうすると、軽症者あるいは無症状病原体保有者が自宅療養や宿泊療養に従わず、さらに入院勧告まで拒否することは、感染を社会に拡散させる危険のある行為であって社会的に非難されうる行為と言えるのではないだろうか。そしてそのような行為と捉えれば、刑事罰を科すことは十分に考えられた。
刑事罰は、検察が裁判所に起訴することにより手続きが進められる。一方、過料は、地方裁判所が検察の意見を聴取しながら手続きが進められる(非訟事件手続法第119条、第120条)。しかしながら、いずれにせよ、医療機関や自治体、保健所など関係各所の協力が必要となる。保健所等が新型コロナ対応に忙殺されている中で、罰金であるか過料であるかにかかわらず、実際にペナルティを課すことは難しいであろう。伝家の宝刀、あるいは一罰百戒的な使い方しかできないものだとすると、懲役刑はともかく、過料ではなく、より重い罰金とすることの議論の余地もあったのではないかと考える。仮に最終的に過料で決着するとしても、このあたりの議論がもっとなされてもよかったのではないだろうか。
5――おわりに