ここでは、「ボラティリティ調整(VA)」における「一般適用比率」についての検討内容及びその助言内容について、報告する。
1|関連法規
ソルベンシーII指令第77d条第3項は、ボラティリティ調整(VA)はリスク修正後の通貨スプレッドの65%に相当すると規定している。
今回のCPでは、このファクターを一般適用比率(GAR)と呼んでいる。この表記は、VA改革の議論において、GARを新しい適用比率(AR)の提案と区別するために使用しているが、様々なカテゴリーに基づいて異なり、ARは一般的に会社固有である。
2|以前の助言内容
長期保証評価(LTGA)に関する技術的知見において、EIOPAはボラティリティ調整メカニズム(ボラティリティ・バランサー(VB))の導入を勧告した。EIOPAはVBに関連するリスクについて次のような見解を示した。
「この措置の実施に伴う主なリスクは、スプレッドに影響を与える「人工ボラティリティ」の過大評価であることは間違いない。資産の利回りとリスクフリーレートのスプレッドの合計には、実際には多くの要素が含まれている。CCP(カウンター・シクリカル・プレミアム)の現在の調整では、デフォルト確率、その確率のボラティリティ、ダウングレードのコストに関連する信用リスクのみが認識される。信用リスクだけでなく、スプレッドには、管理費用リスク、税金、市場不完全性のコストなどの重要な情報も含まれる。また、「バイ・アンド・ホールド」の原則は、ボラティリティ・バランサーの要件ではなく、また、保険負債は非流動的なものである必要はないことから、流動性リスクは、スプレッドの構成要素であり、水準調整において考慮されるべきである。したがって、計算されたスプレッドは、現時点では(CCP手法に基づいて)デフォルト・リスクにリンクしている部分のみを除外しているが、スプレッドの他の客観的な市場パラメータを考慮して調整する必要がある。」
この評価に基づき、EIOPAはVBの算出スプレッドは調整の実施に伴うリスクを考慮して調整されるべきであると勧告した。この調整は、20%の適用比率を導入することによって達成されるべきであり、これは、決定されたスプレッドの完全な適用ではなく、20%の適用のみをもたらす効果がある、とした。
ただし、ソルベンシーII導入前の政治的合意の一環として、EIOPAが提案した適用係数の概念は維持されたが、その値は65%に増加した。
3|問題の所在
GARの調整は、算出されたVAの水準、その結果、VAの効率的な機能に直接的な影響を及ぼす。GARの設定が高すぎる場合、オーバーシュート効果に寄与する可能性があり、VAの設定が高すぎると負債の価値が低すぎて過小評価されるリスクがある。他方、GARが過度に慎重に設定されている場合には、金融市場における景気循環促進行動を防止し、債券スプレッドの拡大の影響を緩和するメカニズムとしてのVAの機能を阻害する可能性がある。
EIOPAは現行の65%のGAR係数を変更すべきかどうか、変更する場合にはどの程度変更すべきかを検討した。
4|分析
EIOPAは、LTGAに関連した前回の調査結果に沿って、VAは、VAに固有の以下のリスクを考慮するために、引き続きGARの対象となるべきであると考えている。
a) 会社が実際にVAを獲得できないリスク
b) 会社が実際に債券スプレッドの拡大にさらされているかどうか、及び負債が強制売却に耐え、これらの債券スプレッドの拡大による損失の実現を防ぐのに十分な流動性がないかどうかにかかわらず、VAが広範囲の負債に等しく適用されるという制限
c) 債券スプレッドの誇張の測定やリスクフリー部分の特定に関して、不可避的な推定の不確実性のために生じるVAの決定の虚偽表示のリスク
さらに、(
前回のレポートで報告した)VAの設計を変更する提案は、VAに関連するいくつかのリスクに影響を与える。
1) オプション1は、会社のポートフォリオと参照ポートフォリオの間のベーシス・リスクを低減し、それによって実際にVAを得ることができるリスクを低減する。
2) オプション4は、会社の資産・負債のデュレーションとエクスポージャーとの差異に起因するオーバーシュートのリスクを低減する新たな適用比率を導入する。
3) オプション5は、会社の負債がどれだけ非流動的であるかに応じてVAを変化させる新しい適用比率を導入し、それによって強制売却及び債券スプレッドの拡大による損失の実現に耐えることができないVA適用のリスクを低減する。
4) オプション6は、「予想外の信用リスク及びその他のリスク」 をより適切に捕捉するようにリスク修正を変更する。
5|検討される政策オプションとその評価
EIOPAは、GARの決定に関する以下の政策オプションを検討した。
· オプション1:変更なし(すなわち、GARを65%に維持する)
· オプション2:GARを100%に増やす。
· オプション3:GARを65%から100%の間の値に変更する。
VAの現在の設計に伴うリスクは、VAの改良された設計によってある程度軽減できるが、これはリスクの低減につながるだけで、リスクの除去にはつながらないので、オプション2は適切でない。
オプション3の下では、GARの現在の値は65%から100%の間の値に増加する。このような増加は、GARが対処すべきリスクの一部がVAの改良設計によって軽減されるという期待から生じた可能性があるが、一方でより洗練されたVA設計によって導入されるであろう追加的な複雑さは、VAの定量化における追加的なリスクと不確実性をもたらす可能性もある。また、EIOPAは、GARの現在のレベルは、20%という以前のEIOPAの勧告よりも既にかなり高いと指摘していることから、GARの値の増加を正当化する十分な証拠はないと考える。
したがって、EIOPAは、「オプション1(GARの変更なし)」を選択している。
これに対して、利害関係者に対して、「一般適用比率についての考え」や「VA設計に対するアプローチ1又はアプローチ2が採用された場合、一般適用比率が変更されるべきか」という質問を投げかけている。
3―「ボラティリティ調整(VA)」-標準式における動的VA-