注目のメディケア・フォー・オール-民主党大統領候補者選定の主要な争点。財源問題も含めた議論が本格化へ

2019年11月22日

(窪谷 浩) 米国経済

■要旨
  1. 20年の大統領選挙に向けて有権者の関心事項は「医療保険」が最も高い。民主党の大統領候補者指名争いでも、医療保険制度改革が主要な争点となっている。
     
  2. 民主党の候補者は、無保険者を減少させるとの目標では一致しているものの、医療保険制度についての考え方には幅がある。サンダース候補とウォーレン候補が実現を目指すメディケア・フォー・オールは、65歳以上が対象の公的医療保険制度であるメディケアを拡充し、連邦政府が単一の保険提供者となって国民皆保険を達成する制度設計となっている。実現すれば民間医療保険の廃止など現在の医療保険制度からは大転換となる。
     
  3. メディケア・フォー・オールでは、国民のおよそ1割弱を占める無保険者の解消が期待されるほか、治療費や保険管理手数料の抑制が期待されている。
     
  4. 一方、メディケア・フォー・オール実現に必要なコストは、保険適用範囲などの制度設計によって幅があるものの、民間保険からの移行や保険加入者の増加に伴い、連邦政府負担が今後10年間で30兆ドル以上増加するとの試算もされている(図表1)。このため、制度設計と併せてどのように財源を確保するのかが議論の中心となる。
     
  5. 現状、有権者は無保険者を減少させることへの支持は高いものの、政府が運営する国民皆保険に対する評価は分かれている。20年の大統領選挙に向けて、今後医療制度改革議論が深まる中で、メディケア・フォー・オールの支持が拡大するのか注目される。
■目次

1.はじめに
2.米医療保険制度と課題
  (医療保険の加入状況):雇用主提供を中心に民間保険の加入率が高い
  (医療関連支出の状況):医療関連支出の増加基調が持続、国際比較では米国が突出
  (無保険者数の状況):ACAの効果もあって減少も、人口の1割弱が無保険者
  (大統領選挙の争点):医療保険が最大の関心事項
3.メディケア・フォー・オールの概要と実現に向けた課題
  (概要)
   :メディケアの対象を拡大し、連邦政府が単一の保険提供者(single-payer)となる制度
  (連邦政府負担)
   :国民皆保険、保険対象の拡大で連邦政府の負担は今後10年間で34兆ドル増加
  (財源問題)
   :歳入からの調達では大幅な増税は不可避、制度設計も含めた現実的な議論が必要
4.まとめ

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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