<都市部・市街地の一般道の優先・専用レーンでの走行>
都市部や中心市街地の一般道は、前述の通り、最も複雑な道路・走行環境ではあるが、ここに自動運転車の優先レーンさらには専用レーンを設ければ、他の交通参加者との接点を減らすことができ、専用空間に近い比較的狭いODDを設定することができるだろう。このような空間では、自家用車の自動走行だけでなく、低速走行のレベル4相当の自動運転バスや自動運転タクシーなどを活用した、新たな都市のモビリティサービスを展開することも考え得るだろう。
<先進的スマートシティでの先行的な社会実装>
人口減少・少子高齢化、環境・エネルギー、防災減災・インフラ、交通・モビリティ・物流、流通小売・電子決済、健康・医療・福祉、教育、情報セキュリティ、地域・都市の再生・活性化など、複合化した多様な社会課題を解決するために地域・都市に新たに構築される、先進的な「分野横断型スマートシティ」
15では、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI、ロボット、自動運転など最先端テクノロジーの社会実装が極めて重要なポイントとなる
16。その際に、建物やインフラなど地域・都市のあらゆる構成要素・機能に各種センサーや高精細カメラなどのIoTデバイスが搭載され、街全体が通信ネットワークでつながる「コネクテッドシティ(つながる街)」へと進化していくことが欠かせない。
地域・都市というフィジカル空間(実世界)で生み出されるビッグデータを、個人情報保護に十分に留意しつつ、サイバー空間(仮想空間)でAIにより解析し、地域・都市で活動する産学官の多様な主体が、この解析結果を地域・都市のあらゆる構成要素・機能・サービスの管理・運営の効率化・高度化に活かすことができれば、地域・都市全体の最適化が図られ、多様な社会課題は解決に向かうだろう。
最先端テクノロジーを活用して社会課題を解決する、第4 次産業革命やSociety5.0の本質は、サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合・連動するCPS(Cyber Physical Systems)にあるが、先進的なスマートシティは、「CPSを先行的に街まるごとで応用・実践できる絶好のフィールド」である、と言えよう。また、自動運転自体の構造もCPSそのものであり、スマートシティの重要なパーツの1つとなる。このため、従来はサイバー空間でのビジネスをメインとしてきた巨大デジタル・プラットフォーマーが、自動運転技術の開発とともに、フィジカル空間での街づくりにも積極的に乗り出してくることがあっても、まったく不思議ではない。
このように、「最先端テクノロジーの実装により多様な社会課題を解決するコネクテッドシティ」である先進的なスマートシティは、街全体が閉じたODDと捉えることもでき、コネクテッドカー(インターネットでつながる車)の要素も併せ持つ自動運転車の社会実装との親和性は、非常に高い。とりわけ先端テクノロジーのスピーディな社会実装を進めやすい、グリーンフィールド(新規開発)型のスマートシティは、最先端の自動運転技術の「先行的な実装フィールド」である、と考えられる。このため、世界の先進的なスマートシティの開発では、自動運転技術の実装は、交通事故・交通渋滞、高齢者などの移動弱者問題、トラック・タクシー・バスのドライバー不足、気候変動問題など、現代のモビリティ社会が抱える課題の解決に資する、次世代の先進モビリティとして、必要不可欠な重要な構成要素となってきている。レベル4の自動運転車を活用した、ライドシェア、カーシェア、ラストワンマイルサービスなどの新しいモビリティサービス事業の育成、さらにはクルマ以外の多様な交通モードも組み合わせたMaaSの推進・展開へとつなげることが想定されている、とみられる。
例えば、米アルファベット(グーグルを傘下に持つ持株会社)は、子会社ウェイモを通じて自動運転技術の研究開発で先行する一方、カナダ・トロント市のウオーターフロント地域でカナダ政府やトロント市が推進するスマートシティ開発プロジェクトに子会社サイドウォーク・ラボを通じて参画している。ウオーターフロント地域全体の敷地面積は約325万㎡だが、そのうち4.9万m
2のキーサイド地区から開発をスタートさせ、多様な社会課題を解決するスマートシティを建設する
17。「IDEA」と名付けられた対象エリアでは、持続可能な都市を目指し、先端技術とデータを駆使して、自動運転など新たな移動手段、モジュール化した木造建築、ゴミの自動収集などに取り組む。アルファベットは、巨大デジタル・プラットフォーマーが自動運転と街づくりの両方の領域への新規参入を試みる、代表的な先進事例だ。
また、中国・河北省雄安新区では、2017年から国家主導による大型都市開発が進行中だ。雄安新区は、深セン経済特区や上海浦東新区に続く、壮大な国家プロジェクトであり、習近平国家主席肝煎りの「千年の大計」と位置付けられている。全体の対象エリアは1,770 km²と広大だ。典型的なグリーンフィールド型のプロジェクトであり、これから建設が本格化するが、一部竣工済みの地区で、AIやロボットを導入し、自動運転バスや無人スーパーの実証実験が始まっている。中国の3大IT企業BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)は、いち早く雄安に拠点を設けて集結している。この中で自動運転の社会実装は、バイドゥがけん引する。
15 日本政府が推進する複数の規制改革を一体的に進める総合的な「まるごと未来都市」、いわゆる「スーパーシティ」構想とほぼ同様の考え方であると思われる。
16 先進的スマートシティの構築における最先端テクノロジー実装の重要性については、拙稿「エコノミストリポート/カナダ、中国でスマートシティー グーグル系も街づくりに本格参入 データ連携基盤の構築がカギ」毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2019年10月29日号、同「地域活性化に向けた不動産の利活用─国土交通省『企業による不動産の利活用ハンドブック』へ寄稿」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2019年7月11日、同「寄稿 ハンドブック発刊によせて/地域活性化に向けた不動産の利活用」国土交通省土地・建設産業局『企業による不動産の利活用ハンドブック』2019年5月24日を参照されたい。
17 プライバシー保護やデータ管理に対する懸念が市民や関係者から示されており、現時点で未着工である。