2|「合意なき離脱」とは何か
「合意なき離脱」の場合、「移行期間」がなく、離脱日をもってEU法の英国への適用が停止、EU法上の地位は「加盟国」から「第3国」となる。
離脱日直前に法的効力を有するEU法の内容は、18年6月に「EU離脱法2018」によって、離脱後も英国国内法として維持されるが、新たな法の採択や改正があれば、乖離が始まる。
英国が単一市場、関税同盟の圏外となるため、国境では、関税の適用、衛生および植物検査などを実施する必要が生じる。
通商交渉の権限を回復し、協定の発効も可能になるが、EU加盟国として第3国と締結した協定は、離脱日までに再締結作業が終わっていない場合は失効する。
離脱協定で約束した「英国におけるEU市民の地位、EUにおける英国市民の地位を保全する取り決め」がない状態となる。
離脱清算金が払われないことで、2020年までのEUの中期予算にも不足が生じるが、英国がEUの予算からの受け取っていた低所得地域支援のための「構造基金」も停止される。
アイルランドの国境管理の厳格な管理を回避する方策は、「合意あり離脱」であれば、少なくとも20年末の「移行期間」の終了まで、それが難しい場合は、22年末の「延長後の移行期間終了」までに見出せば良いはずだが、「合意なき離脱」の場合は、即時、対応が必要になる。
EUとの将来の関係についての「政治合意」は白紙化するため、EUとFTA締結を望むのであれば、英国は改めて協議を要請する必要がある。
「合意なき離脱」で、EUから見た英国の法的地位が加盟国から「第3国」、それもFTAなど特別な取り決めのない「第3国」へと一気に変わる影響は広範な分野に及ぶ。
財市場では、食品、化学品、医薬品、自動車など一律のEUルールが適用され、認証手続きなどが行われてきた。規制の乖離が生じることで英国とEUで別々の手続きが必要になることに伴うコストは、関税の負担以上に大きいとされる
2。
金融サービス分野の場合、様々な業務について規制当局からの単一の承認により、国内での自由なサービスの提供を認める「単一パスポート」の圏外となり、単一市場での業務の提供には新たな免許が必要になる。離脱時点の英国は、EUが日本など第3国に対して適用する個別の法令ごとに規制や監督体制の同等性を認め、単一市場へのサービスの提供を認可する「同等性評価」もない状態となる
3。
「欧州⼀般データ保護規則(GDPR)」では、個人データについては域内での完全な自由流通を確保しているが、「合意なき離脱」した英国は、欧州委員会から個人データの「十分な保護水準」を有するという「十分性認定(adequacy decision)」を受けていない第3国となるため、個人データの移転の原則禁止の対象となる
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3―「合意なき離脱」への英国とEUの対策