3|「公正中立性」が損なわれていることを示す事実
では、ケアマネジャーの公正中立性を巡る実態はどうなっているのだろうか。実は、公正中立性が失われていることを示す明確な根拠は見当たらない。例えば、特定事業集中減算の適用を受けている事業所も全体の7.6%に相当する2,987事業所
43であり、決して多いとは言えない。
さらに、ケアマネジャーに関する過去の実態調査を見ても、どこまで事業所からプレッシャーを受けているのか読み取れない。例えば、2015年度に実施されたケアマネジャーに対する実態調査を見ると、「勤務上の悩み」を答えさせる設問項目(複数回答可)で、「事業所や法人からのノルマや課題、営業目標が厳しい」という回答項目を選んだ人は7.9%にとどまる
44。2014年度の調査でも「現在抱えている困難点・悩み」を問う設問項目(複数回答可)があり、「事業所から無理な課題・営業目標等を提示される」と答えたケアマネジャーは4.3%だった
45。同じ設問は2003年以降、2年ごとの調査でも3%台後半から4%台の前半に収まっていた。
このほか、2016年度と2018年度に実施された調査研究事業の報告書
46を見ても、「自法人の系列のサービスの利用を必要性を超えて推奨したことの有無」を尋ねており、「ある」と答えたケアマネジャーは2016年度で12.4%、2018年度で8.1%となっており、いずれも多数を占めているとは言えない。
一方、公正中立性を疑わせる結果も少なくない。2016年度と2018年度に実施された調査研究事業の報告書
47を見ても、「ケアマネジャーが特定のサービスや事業所をケアプランに位置づけることの有無」を事業所に尋ねた質問では、「ある」と答えた事業所は2016年度で28.1%、2018年度で18.6%になっている。以上のように考えると、一定程度の囲い込みが存在することは間違いないだろう
48。
筆者自身、「営業が始まったばかりの通所介護をケアマネジャーに薦められたので、調べてみたら担当ケアマネジャーと同じ系列の事業所だった」といった話を利用者から、「ケアマネジャーごとに系列事業者への誘導率が示され、管理職から営業するように求められた」「居宅介護支援事業所だけでは赤字なので、併設事業所の収入を増やす配慮が求められる」といった経験をケアマネジャーから、それぞれ耳にしている。
この問題では、会計検査院も2016年3月に取りまとめた意見書で、制度改正を促した。具体的には、特定事業所集中減算を回避するための調整が実施されているとして、特定事業所集中減算の見直しも含めて、「公正・中立を確保するための合理的で有効な施策の在り方」を検討するよう要請した
49。筆者自身もケアマネジャーから「居宅介護支援事業所の間で、利用者を『トレード』することで、特定事業所集中減算の対象である80%を上回らないようにする調整が実施されている」という話を耳にしたことがあり、減算逃れの動きは現に存在しているようだ。
以上の点を踏まえると、ケアマネジャーの「公正中立性問題」は古くて新しく、かつ水面下で把握しにくいところで起きていると言えるのかもしれない。
43 2017年7月5日第142回社会保障審議会介護給付費分科会資料を参照。2016年5月審査分。
44 「居宅介護支援事業所および介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業報告書」(2015年度調査)を参照。有効回答数は4,772人。調査研究事業は三菱総合研究所の運営。
45 三菱総合研究所(2014)「居宅介護支援事業所及び介護支援専門員業務の実態に関する調査報告書」(老人保健事業推進費等補助金)を参照。有効回答数は2,132人。
46 「居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業報告書」(2018年度調査)を参照。有効回答数は2016年度で4,682人、2018年度で3,489人。2016年度のデータは2018年度調査報告書から引用した。調査研究事業はエム・アール・アイリサーチアソシエイツの運営。
47 同上を参照。有効回答数は2016年度で1,572事業所、2018年度で1,288事業所。2016年度のデータは2018年度調査報告書から引用した。
48 特定事業所集中減算が創設される2006年度以前の調査としては、2004年3月に公表された東京都の「都内の居宅介護支援事業所の運営及び介護支援専門員の現状についての実態調査」(有効回答数は1,716人)では、「ケアプラン作成時に、所属事務所による経営的な観点からの条件提示や指示が行われていますか」という問いに対し、「ほとんどの場合に行われる」「行われる場合もある」の合計は36.2%だった。2004年3月に公表された全国介護支援専門員連絡協議会(現在の日本介護支援専門員協会)の「介護支援専門員の業務実態と意識に関する調査」でも公正中立性問題に関して、「話し合いがしやすいので、ついつい同じ所にしてしまう」「どうしてもひも付きケアプランになってしまう」といった自由記述が見られる。
49 会計検査院が2016年3月25日に公表した「介護保険制度の実施状況に関する会計検査の結果についての報告書」を参照。