人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(中)-女性人口エリアシャッフル、その9割を東京グループが吸収-

2019年07月16日

(天野 馨南子) 子ども・子育て支援

流出入差で女性が純増した実数ベースで見ると、1位の東京都は年間4万8千人もの女性を他のエリアとの流出入差で増加させ、実数ベースでの女性吸引力の高さで東京都を追随する神奈川県や埼玉県の3.9倍、千葉県の6.2倍、西日本を代表する大都市をもつ大阪府の11.7倍、福岡県の26.2倍、愛知県の42.9倍という「圧倒的な女性吸引力」を示す結果となった(図表4)。
さらに、このような東京都における男性を大きく超える女性の社会増加状況は、2018年に始まったことではない(図表5)。
推移データから読み取れることとして、東京都は1987年から1995年までは男女とも流出超過の人口社会減の状況であった。しかし、1996年にまずは女性が流入超過に転じ、その後1997年には男女とも流入超過の社会増エリアへと変化する。2009年以降は女性が男性を超えて社会増加する状況が続いている。そしてその男女数の純増数格差は拡大傾向にある、ということもみてとれる。
東京都はこの10年ですっかり「男性よりも特に女性の社会増加に強い」エリアへと変貌を遂げたのである。
 

3――「地方創生」対策効果を揺るがす、女性人口の一極集中

3――「地方創生」対策効果を揺るがす、女性人口の一極集中

東京都が男性よりも女性人口をより多く増加させることとなったスタート年の2009年以降2018年までの10年間に社会増加させた女性人口純増数は、実に37万2千人にのぼる。
この37万人という数字は2019年6月ベースで見て、長野県の県庁所在地である長野市、大阪府吹田市、愛知県豊橋市の総人口にほぼ匹敵する規模である。
わずか10年で県庁所在地都市レベルの女性人口が、現地の出生率に関係なく社会流出入だけで増加したことになる。わかりやすく言うと、10年間の女性純増数だけで、1つの市が東京都にできる勢いという状況である。この10年間の東京都の女性人口吸引力は驚異的といわざるを得ない。
 
地方創生では様々な視点で政策が講じられているとは思うものの、もしそれが昭和型の男性吸引力増強志向に立脚した
 
「男性に仕事を与えれば、それに嫁がついてくる」
「男性に仕事があれば子育て世帯が誘致できる」
 
という考え方では、女性社会人口増加が強相関をもつ(本レポートの(上)参照)子ども人口を増加させることは難しく、30年後人口(推計値)を増加に転じさせることに成功した東京都のこの10年間の姿とは統計的に見事なまでの逆張り政策となる。
ここでもう一度、(上)で示した下の図を見てみたい(図表6)。
この図表から、そもそも女性人口の定着なくしてはそのエリアの子ども人口の未来はないことがわかる((上)でも解説したが、出生率はあくまでも「エリア残留した女性」の出生力を示すものであり、それだけでは子ども人口増加の未来を保証しないことに注意したい)。
そして人口移動のグロスデータとネットデータの差からは、男性より少なく転出し、「関所」目線で見れば動いていないかに見える女性たちは、その転出入差という視点で見てみると、男性よりも「1度出て行ったら容易には戻ってこない」という性質をみせていることを、地方創生や少子化政策策定において十分に考慮に入れなくてはならない。
 
次回レポートでは、女性人口が何をキーにして動くのか、について分析結果を紹介したい。
【参考文献一覧】
 
総務省.「住民基本台帳人口移動報告」
 
東京都.「東京都住民基本台帳人口移動報告 平成30年」
 
国立社会保障人口問題研究所.「出生動向基本調査」
 
厚生労働省.「人口動態調査」
 
国立社会保障・人口問題研究所. 「人口統計資料集」
 
総務省総計局. 「国勢調査」
 
国立社会保障人口問題研究所.「日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)」
 

天野 馨南子."人口減少社会データ解説「なぜ東京都の子ども人口だけが増加するのか」(上)-10年間エリア子ども人口の増減、都道府県出生率と相関ならず-"ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年6月10日号
 
天野 馨南子."データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(上・流入編)-地方の人口流出は阻止されるのか-"ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月6日号
 
天野 馨南子."データで見る「東京一極集中」東京と地方の人口の動きを探る(下・流出編)-人口デッドエンド化する東京の姿-" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2018年8月13日号
 
天野 馨南子."データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴-超少子化社会データ解説-エリアKGI/KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」" ニッセイ基礎研究所「基礎研レポート」2019年4月22日号
 
天野 馨南子."データで知る、「本当の少子化」の震源地-47都道府県 子ども人口の推移(1)~子ども人口シリーズ 戦後65年・超長期でみた真の勝ち組エリアとは?" ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2019年4月26日
 
天野 馨南子."データで知る、「本当の少子化」の震源地-47都道府県 子ども人口の推移(2)~子ども人口シリーズ 四半世紀・25年間でみた子ども人口の推移" ニッセイ基礎研究所「研究員の眼」2019年5月13日

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子(あまの かなこ)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴

プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は就任順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー

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