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若者は貯蓄志向が強く堅実な消費者へ
平成が始まったバブル景気の真っ只中の頃は、休暇のたびに海外旅行を楽しみ、海外の有名ブランド品を求める若いOLの姿や、ローンを組んで新車を買う新入社員の男性の姿などが見られた。若者は消費意欲が旺盛で、流行を牽引する存在であった。しかし、バブルは崩壊し、失われた10年、20年を経て、若者は貯蓄志向が高く、地に足のついた堅実な消費者へと姿を変えている。この様子を見て、バブル期に消費を謳歌した世代は、「今の若者はお金がなくてかわいそう」「お金を使えなくてかわいそう」と思うのかもしれない。
しかし、今の日本では、若者ほど生活満足度は高く、20代以下は8割を越える(図表4-1)。若い世代ほど経済状況が厳しいようだが、30代の所得・収入や資産・貯蓄の満足度は、バブル世代が含まれる50代を越えている(図表4-2)。このギャップには何があるのだろうか。
3章では、「若者」に注目して、この30年の暮らしや消費、価値観の変化を捉える。なお、本稿では「若者」をおおむね35歳未満の未婚者とする。
2|今の若者の価値観が形成された時代背景~景気低迷・技術革新・デフレ・ライフスタイルの多様化
今の若者は、どのような時代に生まれ育ってきたのか。改めて振り返ってみたい。図表4-3は、日経平均株価と流行語の推移を見たものだ。平成元年(1989年)生まれの今年30歳を追っていくと、生まれた直後にバブルが崩壊し、株価は大きく値を下げた。流行語には「カード破産」「複合不況」「就職氷河期」などが並んだ。失われた10年を過ぎると、さらに状況は厳しくなり、「年収300万円」「格差社会」「ネットカフェ難民」「派遣切り」「年金パラサイト」が並んだ。2008年にはリーマンショックが、2011年には東日本大震災が日本を襲った。一方で「アベノミクス」以降は株価が上向き、日本人の消費ではないが「爆買い」「インバウンド」という力強い言葉も並ぶようになった。
一貫して進化し続けたのは情報通信領域だ。「インターネット」「iモード」「ブロードバンド」「iPad」「スマホ」「ソーシャルメディア」「AIスピーカー」と進み、現在でも技術革新は続いている。
若者を中心にライフスタイルも変化した。2000年代は未婚化が進む中で「負け犬」や「婚活」という言葉が登場した。「草食男子」「歴女」「イクメン」「日傘男子」など、男女のライフスタイルのボーダーレス化も進んだ。また、若者の競争意識や消費欲が低下している様子や堅実志向が高まる様子は、「ゆとり世代」「さとり世代」「マイルドヤンキー」と称された。
「バブル世代は消費意欲が旺盛」という印象があるように、消費行動に関わる価値観は、アルバイト代やお小遣いで消費の楽しさを知り始めた学生時代、あるいは、社会人になり自由になるお金が増えた時期の社会環境に影響される傾向がある。
平成元年生まれの価値観が形成されたのは、景気低迷が続く一方、技術革新で世の中が格段に便利になった時期だ。また、デフレが進行し、ファストフードやファストファッションなど、安くて良いモノやサービスが流通した時期でもある。このような中で、今の若者では、節約志向が根底にありながらも、「お金を使わなくても楽しめる」「お金を使うことが必ずしもすごいことではない」という価値観が形成されていったのではないだろうか。