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地域医療連携推進法人の現状と今後を考える-「連携以上、統合未満」で協力する形態、その将来像は?

2025年10月28日

(三原 岳) 医療

1――はじめに~地域医療連携推進法人の現状と今後を考える~

病床融通や共同での物品購入、人材確保・研修、人材派遣などについて、複数の医療法人が協力する「地域医療連携推進法人」の数が累計で50を超え、ジワジワと広がっている。これは2015年改正医療法で創設された仕組みであり、ホールディングカンパニー(持株会社)のような組織形態の下、複数の医療法人が「連携以上、統合未満」で協力し合うことが重視されている。

主な目的は病床再編などを目指す「地域医療構想」の推進とされているものの、制度創設から10年が過ぎる中、医師不足の解消など幅広い目的で活用されている形だ。さらに近年の医療機関再編では、同法人の設立がセットで議論される機会も増えている。

そこで、本稿では制度創設から10年が過ぎた地域医療連携推進法人の現状を整理した上で、今後の論点や制度改正の可能性を検討したい。その際には、これまでの「2025年」に代わる新たな医療改革の年次目標として意識されている「2040年」を見据えた観点も加える。

2――地域医療連携推進法人とは何か?

2――地域医療連携推進法人とは何か?

1|制度の概要
まず、地域医療連携推進法人の概要を検討する。制度のイメージは図表1の通りであり、厚生労働省は「地域において良質かつ適切な医療を効率的に提供するため、病院等に係る業務の連携を推進するための方針(医療連携推進方針)を定め、医療連携推進業務を行う一般社団法人を都道府県知事が認定(医療連携推進認定)する制度」と説明している。

少し分かりやすく言うと、ホールディングカンパニー(いわゆる持株会社)のような組織形態の下、複数の医療機関が「連携以上、統合未満」の形で、病床融通や共同での物品購入、人材確保・研修、人材派遣などで協力することで、効率的かつ効果的な医療サービスの提供が目指されている。

その際には、原則として概ね人口20万人単位で区切られる「構想区域」(ほぼ2次医療圏と同じ)をベースとすることが想定されているが、区域を超えた範囲でも設定できる。設立には都道府県知事の認可が必要であり、2025年7月までに認可を受けた法人は末尾の参考資料の通り、累計で57法人である1。厚生労働省は「数の目標を設けているわけではない」2としているものの、制度スタートから10年近い歳月を経る中で、ジワジワと広がっている形だ。
 
1 病院統合終了後、2022年5月に解散した「はりま姫路総合医療センター整備推進機構」も含む。
2 『日経ヘルスケア』2023年8月号の厚生労働省医政局医療経営支援課・医療法人支援室の加藤光洋室長補佐のコメント。
2|制度創設の経緯
次に、地域医療連携推進法人が創設されるまでの経緯を振り返る。元々、持株会社的な法人形態の発想が本格化したのは2013年8月の社会保障制度改革国民会議報告書だった。ここでは、下記のような文言が盛り込まれていた。
 
医療法人等の間の競合を避け、地域における医療・介護サービスのネットワーク化を図るためには、当事者間の競争よりも協調が必要であり、その際、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度の見直しを行うことが重要である。

このため、医療法人制度・社会福祉法人制度について、非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、機能の分化・連携の推進に資するよう、例えばホールディングカンパニーの枠組みのような法人間の合併や権利の移転等を速やかに行うことができる道を開くための制度改正を検討する必要がある。

複数の医療法人がグループ化すれば、病床や診療科の設定、医療機器の設置、人事、医療事務、仕入れ等を統合して行うことができ、医療資源の適正な配置・効率的な活用を期待することができる。

あわせて、介護事業者も含めたネットワーク化や高齢化に伴いコンパクトシティ化が進められているまちづくりに貢献していくことも見据えて、医療法人や社会福祉法人が非営利性を担保しつつ都市再開発に参加できるようにする制度や、ヘルスケアをベースとしたコンパクトシティづくりに要する資金調達の手段を、今後慎重に設計されるべきヘルスケアリート等を通じて促進する制度など、総合的な規制の見直しが幅広い観点から必要である。
 
つまり、医療法人や社会福祉法人が持株会社のようなグループとなり、共同での機器購入や仕入れ、事務の協働化に取り組む重要性が指摘されていた。さらに、営利法人も傘下に入れるような形で、まちづくりも含めた「地域包括ケア」3に関われるようにする必要性も言及されていた。

このほか、規制改革や成長戦略の議論も影響した。当時の安倍晋三政権は規制改革による経済成長を重視し、中でも「既得権益の岩盤規制」の一つとして医療分野を挙げていた。こうした中、安倍首相は2014年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)では、「日本にもメイヨー・クリニック(注:アメリカの大規模医療法人)のようなホールディングカンパニー型の大型医療法人ができてしかるべきだ」と発言4。さらに、産業競争力会議が同月に取りまとめた「成長戦略進化のための今後の検討方針」でも、下記のような文言が入った。
 
病院や社会福祉施設等の経営を効率化・高度化するとともに、受け皿不足となっている回復期病床等を増やし、在宅医療・介護分野を充実する機能分化を進める。

複数の医療法人や社会福祉法人等を社員総会等を通じて統括し、一体的な経営を可能とする「非営利ホールディングカンパニー型法人制度(仮称)」を創設する。その制度設計に当たっては、当該非営利ホールディングカンパニー型法人における意思決定方式に係る高い自由度の確保、グループ全体での円滑な資金調達や余裕資金の効率的活用、当該グループと医療介護事業等を行う営利法人との緊密な連携等を可能とするため、医療法人等の現行規制を緩和するべく検討する。
 
ここでも、営利法人と連携できるような制度改正の必要性が訴えられており、どちらかと言うと、国際展開も含めた営利性や効率化が意識されていたと言える。

しかし、厚生労働省に設置された「医療法人の事業展開等に関する検討会」(以下、事業展開検討会)では、営利性の是非がクローズアップされた。具体的には、2013年11月に始まった事業検討会で、日本医師会(以下、日医)が新たな法人形態の性格について、「非営利性を堅持すべき」と主張した5

その後、2014年6月に改訂された「日本再興戦略」では「地域内の医療・介護サービス提供者の機能分化や連携の推進等に向けた制度改革を進め、医療、介護サービスの効率化・高度化を図り、地域包括ケアを実現」という文言が入り、医療・介護提供体制の見直しを図る選択肢の一つとして、非営利の新たな法人形態の創設が盛り込まれた。

結局、2015年2月に公表された事業展開検討会の報告書では、営利性が排除されるとともに、新たな法人形態の目的として、「横の連携を強化することで、競争よりも協調を進めるとともに、グループの一体的運営によりヒト・モノ・カネ・情報を有効に活用することで、地域において良質かつ適切な医療が効率的に提供される体制を確保する」ことが規定された。さらに主な目的としても、都道府県を中心に医療機関同士の連携強化や病床再編などを目指す「地域医療構想」の推進6が掲げられた。

要するに、当初の議論では国際展開を含めた効率化が重視されていたほか、まちづくりも含めて営利法人も包摂する大掛かりな制度設計が意識されていたが、日医の主張で「非営利性」が強調された結果、地域医療構想を実現するツールの一つに位置付けられたわけだ。

このほか、まちづくりを含めた介護・福祉の要素も後景に退いた。既に介護・福祉分野には数多くの営利法人が参入しており、介護・福祉を大々的に加えると、日医が重視する「医療の非営利性」が損なわれると判断されたとみられる7

その後、2014年改正医療法で制度化が決まり、2015年度から施行された。さらに2023年に改正された医療法(施行は2024年4月)では、診療所など個人立医療機関も参加できる類型が新設された。新しい類型では貸付が禁じられた半面、外部監査など一部の事務手続きが省略化されたことで、個人立の診療所等が参画しやすくなった。
 
3 2012年制定の医療介護総合確保推進法では、「医療や介護が必要な状態になっても、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した生活を続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される」と定義されており、人口のボリュームが大きい団塊世代が75歳以上になる2025年をターゲットに据え、介護予防や認知症ケアなどで様々な施策が展開されてきた。ただ、給付抑制策の説明なども含めて多義的に使われており、ここでは引用を除き、この言葉を使わない。定義に関しては、介護保険20年を期した拙稿コラムの第9回を参照。
4 2014年1月22日、世界経済フォーラム年次会議冒頭演説における発言。政府広報オンラインを参照。
https://www.gov-online.go.jp/prg/prg9209.html?t=57&a=1
5 2013年11月6日、第1回事業展開検討会の議事録における今村定臣常任理事の発言を参照。
6 地域医療構想とは2017年3月までに都道府県が作成した文書を指す。具体的には、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年をターゲットに、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分しつつ、都道府県が医療需要を病床数で推計。さらに、自らが担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになった現状と対比させることで、需給ギャップを明らかにした。その結果、全国的な数字では、高度急性期、急性期、慢性期が余剰となる一方、回復期は不足するという結果が出ており、高度急性期や急性期病床の削減と回復期機能の充実、慢性期の削減と在宅医療の充実が必要と理解されており、地域での協議を通じて、医療提供体制を再構築することが想定されている。だが、目標年次が到来したため、厚生労働省は2040年を見据えた「新たな地域医療構想」を本格化させており、2027年度から地域での協議が始まる見通し。
7 なお、社会福祉法人については、2022年4月に「社会福祉連携推進法人」が発足した。これは地域医療連携推進法人と同様、複数の社会福祉法人が持株会社のような形態の下、地域づくりへの貢献など「地域福祉支援業務」、応急物資の備蓄など「災害時支援業務」、財務状況の分析など「経営支援業務」、構成法人への資金融通など「貸付業務」、採用・募集、研修の共同実施など「人材確保業務」、紙おむつの一括調達など「物資等供給業務」という6つの業務について、「連携以上、統合未満」で協力することが想定されており、2025年7月現在で31法人が所轄庁(都道府県、政令指定都市など)の認定を受けている。地域医療連携推進法人と異なり、株式会社が参加できるほか、離れた地域での連携が可能。

3――好事例として報告されている取組

3――好事例として報告されている取組

次に、地域医療連携推進法人の事例をいくつか取り上げる。この関係では、厚生労働省が2019年1月、先行した法人による意見交換などを目指した「地域医療連携推進法人連絡会議」(以下、連絡会議)を開催したほか、2025年3月には委託調査の報告書8が公表されている。さらに、医療機関の経営や病院統合に関わる書籍、専門誌や地方紙、各種セミナーなどでも、地域医療連携推進法人が多く言及されるようになっている。以下、こうした情報を基に、好事例とされる取り組みを紹介する9

最も有名なのは山形県の「日本海ヘルスケアネット」である。この地域では、山形県立日本海病院と市立酒田病院が統合した「山形県・酒田市病院機構」を中心に、▽入退院に関するクリニカルパスの共有、▽病床回転率の向上、▽地域での採用医薬品リストと使用方針を示す「地域フォーミュラリ」(医薬品の処方ルール)の構築、▽多剤投与による有害事象(ポリファーマシー)の解消、▽電子処方箋の拡大、▽在宅医療と移動支援を絡める「医療MaaS」の導入――などに取り組んでいる。

次に、愛知県の「尾三会」は藤田医科大学を中心に、「人材育成」「人事交流」による医療水準の標準化を図るとともに、「医薬品等の共同購入」などによる経営の効率化も進めている。近年は潜在看護師の復職支援とか、空床記録や共有、看護記録の標準化などにも取り組んでいる。

さらに、神奈川県の「さがみメディカルパートナーズ」では給食サービスの共同利用、滋賀県の「湖南メディカル・コンソーシアム」も間接業務の統合を図っている。

医師派遣や人材交流の面で見ると、広島県の「備北メディカルネットワーク」では、広島大学病院から参加病院への医師派遣などを円滑にすることが重視されている。つまり、地域医療連携推進法人を活用することで、医療機関同士の意思疎通を円滑にし、地域の医師不足を少しでも解消、または緩和しようというアイデアである。さらに、岐阜県の「美濃国地域医療リンケージ」でも松波総合病院から海津市医師会病院への医師派遣に取り組んでいるほか、同県の「県北西部地域医療ネット」、静岡県の「ふじのくに社会健康医療連合」でも参加医療法人での医師の交流を強化している。

同じように医師不足対策に関わる事例として、島根県の「江津メディカルネットワーク」では、江津総合病院と市内の診療所の双方に籍を置き、両施設で診療に当たるシステムが採用されている。市部で働く若い医師が地元の診療所に戻りやすくすることが目指されている。

大阪府の「北河内メディカルネットワーク」では職員の共同研修や復職支援に加えて、最近の診療報酬改定で義務付けられている感染症対策のカンファレンス10なども開催している。

元々の趣旨である地域医療構想の推進に関わる事例としては、静岡県の「東部メディカルネットワーク」を指摘できる。この地域では、慈広会記念病院から非稼働病床107床のうちの56床を順天堂大静岡病院に融通することで、地域医療連携推進法人の枠内で病床再編を実現した。

さらに、千葉県の「房総メディカルアライアンス」では、病床の稼働率を共有することで、入院単価の増加に繋げたほか、病院再編に際して新設された新潟県の「にいがた県央医療連携推進機構」では医療機関同士の連携を通じて、搬送件数の増加を目指している。佐賀県の「佐賀メディカルアライアンス」も病床融通を通じて、急性期機能の強化などに努めている。

最近では病院統合の議論を進めるための手段として、地域医療連携推進法人の活用が言及されることが多く、青森県立中央病院と青森市民病院の統合論議の一環として、「あおもり医療連携推進機構」が2025年4月に発足した。
 
8 野村総合研究所(2025)「地域医療連携推進法人が行う取組に関する調査研究報告書」(医療施設経営安定化推進事業)を参照。
9 地域医療連携推進法人の好事例については、上記の報告書に加えて、長隆監修(2017)『病院大連携時代』財界研究所、日経メディカル開発・東日本税理士法人編(2017)『病院再編・統合ハンドブック』日経メディカル開発を参照。このほか、2024年9月24日の日本医学ジャーナリスト協会や2019年11月5日、2018年11月16日に開催されたキヤノングローバル戦略研究所のイベントで得た情報も参照。専門媒体では『日経ヘルスケア』『Gem Med』『m3.com』を参照。それぞれの事例に関する『朝日新聞デジタル』『読売新聞』『東奥日報』『山形新聞』『岐阜新聞』なども参照。
10 近年の診療報酬改定では基幹的な医療機関に対し、新興感染症対策に関するカンファレンスの開催を義務付けるなど、医療機関の連携を促す見直しが講じられている。詳細については、2024年9月11日拙稿「2024年度トリプル改定を読み解く(下)」、2022年5月16日拙稿「2022年度診療報酬改定を読み解く(上)」を参照。

保険研究部   上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

三原 岳(みはら たかし)

研究領域:

研究・専門分野
医療・介護・福祉、政策過程論

経歴

プロフィール
【職歴】
 1995年4月~ 時事通信社
 2011年4月~ 東京財団研究員
 2017年10月~ ニッセイ基礎研究所
 2023年7月から現職

【加入団体等】
・社会政策学会
・日本財政学会
・日本地方財政学会
・自治体学会
・日本ケアマネジメント学会

・関東学院大学法学部非常勤講師

【講演等】
・経団連、経済同友会、日本商工会議所、財政制度等審議会、日本医師会、連合など多数
・藤田医科大学を中心とする厚生労働省の市町村人材育成プログラムの講師(2020年度~)

【主な著書・寄稿など】
・『必携自治体職員ハンドブック』公職研(2021年5月、共著)
・『地域医療は再生するか』医薬経済社(2020年11月)
・『医薬経済』に『現場が望む社会保障制度』を連載中(毎月)
・「障害者政策の変容と差別解消法の意義」「合理的配慮の考え方と決定過程」日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク編『トピック別 聴覚障害学生支援ガイド』(2017年3月、共著)
・「介護報酬複雑化の過程と問題点」『社会政策』(通巻第20号、2015年7月)ほか多数

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