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御社のブランドは澄んでますか?-ブランド透明性が生みだす信頼とサステナビリティ開示のあり方(1)

2025年10月23日

(小口 裕) 消費者行動

■要旨
 
  • 企業が社会貢献活動に取り組む目的とは何か。活動を通した直接的な貢献に加え、その活動を通じた自社のブランディングといった間接的な寄与も成果の一つである。経済産業省も、2020年に公表した『価値協創ガイダンス2.0』において、企業のブランドや顧客基盤を、社会貢献活動を通じた価値共創の成果の一つとして位置づけている。
     
  • そこでニッセイ基礎研究所では、2024年に実施した簡易的な実験調査をもとに、企業の社会貢献活動内容を消費者に提示する前後で、企業のブランドイメージがどのように変化するかを観察・分析した。
     
  • その結果、社会貢献は企業ごとの活動文脈に応じてブランドイメージのブラッシュアップに寄与し、消費者に各企業のブランド個性を再認識させる契機となっている様子がうかがえた。さらに、ブランドの「誠実な」イメージは、調査対象とした4つの業種の企業いずれにおいても一貫して上昇していることがわかった。
     
  • 一方で、「信頼できる」という指標は、必ずしもすべての業種で上昇しているわけではない。では、なぜ社会貢献活動は誠実なブランドイメージを高めるのか。また、なぜ「信頼できる」イメージの伸びは業種によって異なるのか。
     
  • 企業の社会貢献活動は、生活者がその企業を「信頼できる存在か」を見極めるための持続的・継続的な検証プロセスでもあると言える。本稿では、そのメカニズムを「ブランドの透明性(Perceived Brand Transparency)」という考え方に沿って、消費者からの信頼を高める社会貢献活動の情報開示の在り方について考察していく。


■目次

1――はじめに~2022年8月の「SX版伊藤レポート」から3年
  1|信頼を育むサステナビリティ~ブランド価値への静かな波及効果
  2|消費者の変化~社会的に誠実な企業を支持する消費選好が広がる
2――信頼と誠実性~社会貢献が生み出す、もう1つのブランド資産
  1|企業の社会貢献活動のブランドへのインパクト
   ~「信頼」「誠実」「先進性」イメージを押し上げ
  2|ブランドが誠実であること~そのブランドを信じられる理由が築けるか
3――誠実さは「伝える努力」から伝わる~ブランドの信頼を生む透明性の設計とは
  1|信頼形成の視点~コストやリスクを伴う行動/挑戦がブランドの信頼につながる
  2|ブランド透明性(transparency)の視点
   ~「もっと知ってほしい」という企業側の意思の重要性
4――「信頼」は誠実さの先にある——感情から確信へと変わるブランドの関係性
  1|「安心」で動く消費者~能力・一貫性がつくる信頼の心理
  2|消費者は、社会貢献活動の裏にある企業の誠実性・一貫性を感じとって動く
5――情報開示と行動の一貫性が重要~言っていることとやっていることが一致しているか
  1|ブランドの誠実さは信頼形成の入口であるが、ゴールではない
  2|消費者は、企業の社会貢献活動を通じて「企業理念と行動の整合」を確認する

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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