(2)テレワークの普及がオフィス需要に与える影響
新型コロナウイルス感染拡大への対応で、東京ではテレワークが急速に普及した。都内企業のテレワーク実施率は、2023年4月以降40%台で推移していたが、2025年7月は51%に上昇した。感染拡大時と比べると低い水準であるものの、一定の割合でテレワークが定着している(図表-11)。
コロナ禍以降、テレワークの経験を積んだことで、当初懸念されていた生産性の低下
4は改善に向かっている模様だ。公益財団法人日本生産性本部「働く人の意識に関する調査」(2025年7月)によれば、自宅勤務の業務効率について「向上した」との回答は82%となり、過去最高を更新した。また、自宅での勤務の満足度についても、「満足している」との回答が88%に達した。こうした状況から、多くの就業者がテレワークを取り入れた働き方を希望しているといえよう。
また、企業側でも人材確保や従業員のエンゲージメント向上等の観点から、テレワーク導入にメリットを感じている。東京都産業労働局「東京都 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」(2024年11月実施)によれば、テレワーク導入企業を対象に、テレワーク導入の効果やメリットをたずねたところ、「非常時(感染症、自然災害、猛暑等)の事業継続対策(83%)」との回答が多く、次いで「柔軟な働き方への対応(71%)」、「従業員の通勤時間、勤務中の移動時間の削減(58%)」、「育児・介護中の従業員への対応(51%)」、「従業員のエンゲージメント向上のため(28%)」との回答が多かった(図表-12)。また、同調査では、テレワークの継続意向に関して、現状と同程度の水準でテレワークを継続するとの回答が75%を占めた。
一方、一部の企業はAI時代の到来に備え、社員間の対話機会を充実させる
5等の目的から、「出社回帰」の方針を打ち出している。Job総研「2025年 出社に関する実態調査」によれば、出社回帰を行う企業は25%であった。
こうした状況を背景に、東京都心部ではオフィス勤務にテレワークを取り入れた「ハイブリッドワーク」が広がっている。ハイブリッドワークは、従業員のウェルビーイングを高める効果もあり
6、普及を後押ししている模様である。
ハイブリッドワークの普及に伴い、オフィスの利用形態も変化している。イトーキ中央研究所「働き方の意識調査 働き方とオフィス2024」によると、オフィスの座席状況について、「フリーアドレス
7」との回答は8%(コロナ禍以前)から25%(2024年調査)へと約3倍に増加した。また、ザイマックス総研「大都市圏オフィス需要調査2025春」によれば、「オフィスに現在あるスペース」について、「固定席」(77%)との回答が最も多く、次いで「会議室(個室)」(67%)、「オープンなミーティングスペース」(55%)、「フリーアドレス席」(44%)の順に多かった。ハイブリッドワークが拡大するにつれ、リモート会議用の個室会議室やミーティングルーム、フリーアドレス席等を充実させている企業が増加している。
また、「多様な働き方」が定着するなか、働く場所を柔軟に選択できることが求められている。国土交通省「令和6年度テレワーク人口実態調査」によれば、テレワークの実施場所として、「サテライト
8」との回答が25%を占めた。こうした「サテライト」のオフィスを開設する際には、「レンタルオフィス
9」や「シェアオフィス
10」、「コワーキングスペース
11」等の「サードプレイスオフィス」が多く利用されている。また、最近の研究ではシェアオフィスの利用が生産性やウェルビーイングの向上に寄与すること
12が報告されている。
テレワークを取り入れた働き方の広がりにより、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が見込まれ、東京都心部のオフィス需要を引き続き下支えすると考えられる。