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「東京都心部Aクラスビル市場」の現況と見通し(2025年9月時点)

2025年09月29日

(吉田 資) 不動産市場・不動産市況

1.はじめに

東京都心部Aクラスビル1の空室率は、コロナ禍を受けて大きく上昇したが、2024年以降は低下基調で推移している。成約賃料についても需給バランスの改善に伴い上昇が続いている。本稿では、東京都心部Aクラスビル市場の動向を概観し、2029年までの賃料と空室率の予測を行う。
 
1 本稿ではAクラスビルとして三幸エステートの定義を用いる。三幸エステートでは、エリア(都心5区主要オフィス地区とその他オフィス集積地域)から延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)および設備などのガイドラインを満たすビルからAクラスビルを選定している。また、基準階床面積が200坪以上でAクラスビル以外のビルなどからガイドラインに従いBクラスビルを、同100坪以上200坪未満のビルからCクラスビルを設定している。詳細は三幸エステート「オフィスレントデータ2021」を参照のこと。なお、オフィスレント・インデックスは月坪当りの共益費を除く成約賃料。

2.東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2.東京都心Aクラスオフィス市場の現況

2-1.空室率および賃料の動向
東京都心部Aクラスビルの空室率は、2020年第4四半期以降、上昇傾向で推移していたが、2024年に入ってから低下基調に転じ、2025年第2四半期は2.3%(前期比▲3.8ppt、前年同期比▲3.4ppt)と大幅に低下した。また、Aクラスビルの成約賃料(オフィスレント・インデックス2)は、2023年第3四半期をボトムに7期連続で上昇し、2025年第2四半期は30,563円(前期比+0.2%、前年同期比+14.1%)となった(図表-1)。
BクラスビルおよびCクラスビルについても、空室率が改善し、成約賃料は上昇している。2025年第2四半期の空室率は、Bクラスビルで2.2%(前期比▲0.3ppt、前年同期比▲1.6ppt)、Cクラスビルで2.6%(前期比▲0.5ppt、前年同期比▲1.5ppt)となった(図表-2)。成約賃料はBクラスビルで22,291円(前期比+11.2%、前年同期比+15.5%)、Cクラスビルで19,042円(前期比+0.6%、前年同期比+2.9%)となった(図表-3、図表-4)。

賃料と空室率の関係を表した「賃料サイクル3」をみると、東京オフィス市場は2020年第3四半期以降、「空室率上昇・賃料下落」の局面が継続していたが、現在は「空室率低下・賃料上昇」局面に移行している(図表-5)。
 
2 三幸エステートとニッセイ基礎研究所が共同で開発した成約賃料に基づくオフィスマーケット指標。
3 賃料サイクルとは、縦軸に賃料、横軸に空室率をプロットした循環図。通常、(1)空室率低下・賃料上昇→(2)空室率上昇・賃料上昇→(3)空室率上昇・賃料下落→(4)空室率低下・賃料下落、と時計周りに動く。
2-2.空室率と募集賃料のエリア別動向
三鬼商事によれば、東京ビジネス地区(2025年8月時点)において「賃貸可能面積」が最も大きいエリアは、「港区(33.1%)」で、次いで「千代田区(28.3%)」、「中央区(17.7%)」、「新宿区(12.3%)」、「渋谷区(8.6%)」の順となっている(図表-6)。

「賃貸可能面積」は、「千代田区」(前年同月比▲3.0万坪)と「渋谷区」(同▲0.1万坪)で減少した一方、「港区」(同+10.8万坪)、「中央区」(同+1.4万坪)、「新宿区」(同+0.3万坪)で増加し、全体では+9.3万坪となった。

これに対して、テナントによる「賃貸面積」は、「千代田区」(前年同月比▲0.7万坪)で減少した一方、「港区」(同+17.6万坪)や「中央区」(同+4.2万坪)等で増加し、全体では+24.4万坪となった(図表-7)。この結果、空室面積は全ての区で減少し、全体では▲15.1万坪となった。
エリア別の空室率(2025年8月時点)は、「千代田区1.7%」(前年同月比▲1.0ppt)、「渋谷区1.9%」(同▲2.1ppt)、「新宿区2.8%」(同▲1.7ppt)、「港区3.5%」(同▲2.8ppt)、「中央区3.9%」(同▲2.1ppt)となり、全ての区で低下した(図表-8左図)。

募集賃料は、全ての区において前年比プラスで推移しており、特に「中央区(前年同月比+6.1%)」の上昇率が拡大している(図表-8右図)。
2-3.企業のオフィス環境整備の方針等を踏まえた、今後のオフィス需要
以下では、(1)「オフィスワーカー数の動向」、(2)「テレワークの普及がオフィス需要に与える影響」、(3)「オフィス環境整備の方針」、(4)「生成AIの導入がもたらすオフィス需要への影響」について概観し、今後のオフィス需要への影響を考察する。
(1)オフィスワーカー数の動向
総務省「労働力調査」によれば、東京都の就業者数は6四半期連続で増加しており、2025年第2四半期は860.4万人(前年同期比+16.9万人)となった(図表-9・左図)。

就業者を産業別にみると、2018年第1四半期を100とした場合、都心5区のオフィスワーカーの割合が高い「情報通信業」が146、「学術研究,専門・技術サービス業」が126となり、全体(107)を上回るペースで増加している(図表-9・右図)。

また、東京都「東京都昼間人口の予測」によれば、東京都の昼間就業者数は、2020年の1,018万人から2030年には1,046万人へと増加する見通しである。
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「関東地方」の「従業員数判断BSI」(全産業) は、2020年第2四半期に▲15.7ポイント低下した後、回復が続いている。2025年第2四半期は+25.9となり、コロナ禍前の水準(+20.3)を大きく上回った(図表-10)。業種別にみても、「製造業」・「非製造業」ともに回復しており、2025年第2四半期は「製造業」が+17.8、「非製造業」が+29.0となった。オフィスワーカーの割合が高い「非製造業」では、人手不足感がより強いと言える。
文部科学省「令和6年度就職・採用活動に関する調査」によれば、新卒採用人数について、「増やした」(26%)との回答が「減らした」(7%)との回答を上回った。また、マイナビ「中途採用状況調査 2025年版」によれば、中途採用に積極的な企業は9割を超えた。このように、人手不足への対策として、採用活動を強化している企業が多い。

東京都の就業者は情報通信業等を中心に増加が続いており、今後も増加する見通しである。また、雇用環境はオフィスワーカーの割合が高い「非製造業」で人手不足感がより強く、新卒・中途ともに採用意欲が高まっている。以上を鑑みると、都心のオフィスワーカー数は引き続き堅調に推移すると考えられる。

金融研究部   上席研究員

吉田 資(よしだ たすく)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴

【職歴】
 2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
 2018年 ニッセイ基礎研究所
 2025年7月より現職

【加入団体等】
 一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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