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米FOMC(25年9月)-市場予想通り、政策金利を▲0.25%引き下げ。政策金利見通しを下方修正

2025年09月18日

(窪谷 浩) 米国経済

1.金融政策の概要:政策金利を▲0.25%引き下げ。政策金利見通しを下方修正

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が9月16-17日(現地時間)に開催された。FRBは市場予想通り、政策金利を▲0.25%ポイント引き下げ4.0-4.25%にすることを決定した。量的引締め政策の変更はなかった。今回の金融政策決定では新任されたミラン理事が▲0.5%ポイントの引き下げを主張して反対した。

今回発表された声明文では、景気判断部分で足元の経済状況を反映して労働市場の評価が下方修正された一方、インフレの評価が上方修正された。景気見通し部分では「雇用に対する下方リスクが高まったと判断している」との表現が追加された。金融政策ガイダンス部分では政策金利の追加的な調整の検討に関して前回あった「程度とタイミング」の表現が削除された。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は前回(6月)から、成長率とインフレ率が小幅上方修正された一方、失業率が小幅下方修正された(後掲図表1)。

政策金利見通し(中央値)は25年から27年にかけて下方修正された結果、1回0.25%ポインとして、25年内の追加利下げ回数は前回の1回から2回に引き上げられた。26年と27年の利下げ回数は1回で変更は無かった。また、長期金利見通しも前回から変更はなかった。

2.金融政策の評価:声明はハト派的もパウエル議長の記者会見は幾分タカ派的

政策金利の0.25%ポイントの引き下げは予想通り。ただし、トランプ大統領の息がかかっているとみられるボウマン理事やウォラー理事も大幅な利下げを主張すると考えていたため、0.5%ポイントの引き下げを主張したのがミラン理事1人だけだったのは予想外だった。

声明文で雇用に対する下方リスクに関する表現が追加されたほか、FOMC参加者の政策金利見通し(中央値)が下方修正されたことで声明発表当初はハト派的な結果との評価が強かった。

しかしながら、会合後のパウエル議長の記者会見では今回の利下げがリスク管理的とされたことに加え、利下げ判断を会合毎に行う方針が示されたこともあって、記者会見は幾分タカ派的と評価できる。

一方、SEPの政策金利見通しでは、後述するように25年内の政策金利見通しについて政策金利据え置きと2回利下げ予想に大きくは2分されている。このため、関税政策をはじめとする経済政策のインフレや雇用への影響が依然不透明なこともあって年内の政策金利についてFRB内でコンセンサスは形成されていない。

当研究所は今回の結果を受けて、労働関連指標の大幅な悪化が回避される場合には、今後は関税の影響に伴うインフレ加速が見込まれることもあって、25年内はSEPで示された2回の追加利下げではなく、12月会合での1回の利下げに留まると予想する。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • これらの目標達成を支えるため、委員会はFF金利の誘導目標水準を4.25-4.5%で据え置くことを決定(今回削除)
  • これらの目標達成を支え、また、リスクバランスの変化を踏まえて委員会はFF金利の誘導目標水準を0.25%ポイント引き下げ、4.0-4.25%とすることを決定(今回追加)
  • 財務省証券、政府機関債、政府機関の住宅ローン担保証券の保有を引き続き削減する(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • FF金利の目標レンジの追加的な調整を検討する際には、委員会は入ってくるデータ、進展する見通し、およびリスクのバランスを注意深く評価する(前回の「程度とタイミング」"the extent and timing"の表現を削除)
  • 委員会は最大限の雇用を支え、インフレを2%の目標に戻すことに強くコミットしている(変更なし)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)
  • 委員会の評価は労働市場の情勢、インフレ圧力とインフレ期待に関する指標、金融情勢、国際情勢など幅広い情報を考慮する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 純輸出の変動はデータに影響を与え続けているものの、最近の指標は今年上半期に経済活動の伸びが緩やかになったことを示唆している(今回削除)
  • 最近の指標は今年前半の伸びが鈍化したことを示唆している(今回追加)
  • 雇用増加は鈍化し、失業率は小幅に上昇したものの、依然として低い水準にある(前回の「失業率は依然低く、労働市場の状況は引き続き堅調である」"The unemployment rate remains low, and labor market conditions remain solid"から「雇用増加は鈍化し、失業率は小幅に上昇したものの、依然として低い水準にある」"Job gains have slowed, and the unemployment rate has edged up but remains low"に労働市場の評価を下方修正)
  • インフレ率は上昇し、やや高い水準で推移している(前回の「インフレ率はやや高止まりしている」"Inflation remains somewhat elevated"から「インフレ率は上昇し、やや高い水準で推移している」"Inflation has moved up and remains somewhat elevated"にインフレの評価を上方修正)
 
(景気見通し)
  • 経済見通しの不確実性は依然として高い(変更なし)
  • 委員会はデュアル・マンデートの両サイドのリスクに高い注意を払っており、雇用に対する下方リスクが高まったと判断している(「雇用に対する下方リスクが高まったと判断している」"and judges that downside risks to employment have risen"を追加し、労働市場のリスクを強調)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 雇用に対する下振れリスクが高まっている一方、インフレ率は最近上昇し、やや高い水準で推移している。目標達成を支援し、リスクバランスの変化を踏まえて、本日FOMCは政策金利を0.25%ポイント引き下げることを決定した。
    • 最近の指標は、経済活動の成長が鈍化していることを示唆している。成長の鈍化は主に個人消費の減速を反映している。対照的に設備及び有形固定資産への企業投資は昨年のペースから増加している。住宅セクターの活動は依然として弱含んでいる。
    • 雇用者数の増加ペースは大幅に鈍化した。この減速の多くは移民減少と労働参加率の低下による労働力人口の増加率低下を反映している可能性が高い。それでも労働需要は軟化しており、最近の雇用創出ペースは失業率を一定に保つために必要な水準(ブレークイーブン)を下回っているようだ。労働需要と労働供給の両方が顕著に鈍化している状況は異例だ。
    • インフレ率は22年半ばの高値からは大幅に緩和したものの、2%という長期目標に比べれば依然としてやや高い水準にある。財インフレは加速しており、年初より高くなっている一方、サービスインフレはデフレ傾向が続いている。関税関連のニュースを受けて短期のインフレ期待は今年を通じて全体的に上昇している。
    • 政府の政策変更は継続しており、経済への影響は依然として不透明だ。関税引き上げは一部の商品カテゴリーで価格上昇を引き起こし始めているが、経済活動とインフレへの全体的な影響は未だ不透明だ。我々の責務は一時的な物価上昇が継続的なインフレ問題とならないようにすることだ。
    • 短期的にはインフレリスクは上方へ、雇用リスクは下方へ偏っており、困難な状況だ。目標がこのように緊張状態にある場合、我々の枠組みはデュアル・マンデートの両面を均衡させることを求めている。雇用への下方リスクが高まってことでリスクバランスは変化した。このため、今回の会合では政策スタンスをより中立的な方向へさらに一歩進めることが適切と判断した。
 
  • 主な質疑応答
    • (関税がインフレだけでなく労働市場に与える影響について)雇用の影響も考えられる。ただし、雇用がなぜこのような状況になっているか考えると、移民の変化によるところが大きいと言えるだろう。労働供給が明らかに大幅に減少している。同時に労働需要も急激に減少した結果、「奇妙なバランス」と呼ぶ状況に至っている。現在、失業率が上昇傾向にあることから、需要はもう少し急激に減少しているだろう。
    • (0.25%を超える利下げが正当化される状況とは。本日の会合でどのように議論されたのか)本日の0.5%ポイントの利下げには広範な支持は無かった。ご存じのように過去5年間、我々は非常に大幅な利上げと利下げを行ってきた。そうした措置は政策が適切でなく、迅速に新たな方向へ転換する必要があると判断した時に取られるものだ。現時点でそのような状況ではない。今年のこれまでの政策は適切だったと考えている。
    • (本日の利下げはリスク管理の一環か、景気後退の兆候か)リスク管理的な利下げだ。SEPでは今年と来年の成長見通しはわずかに上方修正され、インフレと失業率にはほとんど変化が無かったからだ。今回の利下げは労働市場に対するリスクの見通しが大きく変化した点を反映したもの。
    • (SEPのバラツキは今後の会合における政策の不確実性を示しているのか)現在は非常に異例な状況だ。通常は労働市場が弱くインフレが低い状況か、労働市場が強く、インフレが高い状況となる。(労働市場が弱く、インフレが高い)現在は両面のリスクを抱えた状況にあり、リスクの無い道筋は存在しない。政策立案者にとって非常に難しい状況だ。見解の幅があることは全く驚くことではない。
    • (ミラン理事は、FRBは議会から3つの使命(雇用、物価安定、長期金利の安定化)を委ねられていると指摘した。長期金利の安定化とは何を意味するのか)我々は常に長期にわたる最大雇用と物価安定というデュアル・マンデートを考えている。なぜなら、長期金利の安定化は安定したインフレ率、そして最大雇用から生まれると考えているからだ。このため、長期金利の安定化は第3の使命として考えていない。

5.FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の19名 )の経済見通しは(図表1)の通り。

前回(6月)見通しとの比較では、実質GDP成長率は25年~27年で前回から+0.1%ポイント~+0.2%ポイント上方修正された。失業率は26年と27年が前回から▲0.1%ポイント下方修正された。コアPCE価格指数は26年が前回から+0.2%ポイント上方修正されて+2.6%となった。
政策金利の見通し(中央値)は、25年が3.6%(前回:3.9%)と前回から▲0.25%ポイント下方修正された(図表2)。この結果、25年内の追加利下げ回数は1回0.25%ポイントとして前回の1回から2回に引き上げられた。

一方、ドットチャートではFOMC参加者19名のうち、年内に追加で2回の利下げ予想が9名と過半数となった一方、1回利下げが2名、政策金利据え置きが6名、1名が9月会合も含めて政策金利の据え置きを主張していることが示されている。このため、25年内は後2会合残されているだけにも関わらず、政策金利見通しには大きなバラツキがあり、今後のデータ次第で政策金利の動向は流動的と言えよう。

26年は3.4%(前回:3.6%)、27年が3.1%(前回:3.4%)と前回からそれぞれ▲0.25%ポイント下方方修正された。この結果、26年、27年ともに1回の利下げ方針が維持された。今回追加された28年は3.1%となり、政策金利の据え置きが見込まれている。

長期見通しは3.0%(前回:3.0%)と前回から変更はなかった。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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