「ホットスポット」の経年変化(2021年⇒2024年)をみると、「2021年時点、2024時点ともにホットスポットに分類された自治体」は「89」、「2021年時点はホットスポットに分類されなかったが、2024年時点でホットスポットに分類された自治体
12」は「16」であった(図表-6)。先行研究
13によれば、一度形成されたホットスポットは基本的に消失しにくいとされている。本分析でも、9割程度の自治体が継続してホットスポットに分類されており、ホットスポットは旅行需要の持続性が高いエリアと考えられる。
「2021年時点はホットスポットに分類されなかったが、2024年時点でホットスポットに分類された自治体」の1例として、「三重県菰野町(こものちょう)」が挙げられる(図表-6)。前述の日本観光振興協会の調査によれば、国内旅行の行動として、「自然の風景をみる」や「温泉浴」が人気である。「三重県菰野町」は、鈴鹿山脈の豊かな自然を活かした観光地として知られるほか、「湯の山温泉」等の温泉地を有している。鈴鹿山脈の最高峰である御在所岳にかかる「御在所ロープウエイ」は、全長約2千mで日本最大級の規模であり、近年は避暑としてのPR等が奏功し、観光客が大幅に増加した
14とのことである。「御在所ロープウエイ」は絶景の「映えスポット」
15と紹介されており、若年層を中心にSNSへの投稿を意識して旅行先を選択する人が増えている
16。こうした動きがホットスポット形成の一因となった可能性が考えられる。
また、自然や温泉等のほかに、アニメ作品の舞台などを巡る「聖地巡礼」が観光資源となり、ホットスポットとなった自治体もみられる。「岐阜県飛騨市」は、アニメ映画「君の名は。」(2016年公開)の舞台である「糸守町」のモデルになったことを契機に、多くの観光客が訪れている(図表-6)。こうした動きを受けて、飛騨市は、大垣市や白川町等、岐阜県内の13自治体とともに「ぎふロケツーリズム協議会」を結成し、映像作品を活用した地域振興に取り組んでいる
17。
また、「三重県明和町」は、平安時代に天皇の代わりに伊勢神宮に仕えた「斎王」が暮らしていた宮殿跡地「斎宮跡(さいくうあと)」が主要な観光スポットであるが、「斎王」を主人公とした漫画を作成し、観光振興に活用している
18。内閣官房「コンテンツ産業官民協議会」によると、訪日外国人の「聖地巡礼者」は年間310万人、国内消費支出は4,700億円と試算しており、コンテンツツーリズム
19に対して大きな期待が寄せられている。
9 新型コロナの流行をきっかけに感染防止の観点で広がった、自宅から1~2時間程度の移動圏内の「地元」で観光する近距離旅行の形態のこと。公共交通機関の利用を避けた自家用車による移動を中心。(JTB総合研究所HPより)
10 拠点となる空港や鉄道の駅から観光地までの交通
11 上毛新聞「全国道の駅グランプリ 川場田園プラザ1位 2年ぶり3度目 「一日中滞在」に高評価」(2025年7月18日)
12 2021年時点はいずれのクラスターにも統計的に有意に分類されなかった自治体が「14」、「一人負け」の自治体が「2」。
13 Yang, Y. and Wong, K. K. F. (2013), "Spatial Distribution of Tourist Flows to China’s Cities", Tourism Geographies, Vol.15 No.2, pp.338-363.
14 中部読売新聞「お盆観光客数 52%増 前年比 15施設 御在所ロープウエイ好調=三重」(2024年9月11日)
15 「観光三重」HP等。
16 日本交通公社「国内旅行におけるSNS・写真に対する意識/実態 ~JTBF旅行実態調査トピックス~」(2024年3月12日)
17 中日新聞「アニメ生かし効果的PRを 大垣 13市町の観光関係者らセミナー」(2025年2月4日)
18 朝日新聞「「斎王」候補に女子高校生!? 明和町が舞台、漫画を制作 社団法人、観光振興へ/三重県」(2020年9月28日)
19 映画やマンガ、アニメなど作品の舞台を訪れることを目的とする観光行動。