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Z世代にとってサステナビリティは本当に「意識高い系」なのか-若年層の「利他性」をめぐるジレンマと、その突破口の分析

2025年08月27日

(小口 裕) 消費者行動

4――Z世代を意識した政策・施策設計への足掛かり~身近な「思いやり」をどう物語として伝えるか

1|ビジネスで求められる実践的アプローチ
ここまでの分析から見えてきたのは、Z世代がサステナビリティに対して行動しにくい理由が、単なる「無関心」ではなく、日本特有の文化的・社会的構造に根ざしたものであるという点である。

それでは、このZ世代に対してどのような政策・施策的なアプローチをとるべきだろうか。これまでの分析を踏まえると、次の4つの視点が重要であると考えられる。

1. 身近な利他を訴求する
「環境を守ろう」といった大きな目標ではなく、日常に近い「小さな利他」を通じて共感を呼ぶことがカギとなる。近い将来や身の回りの人々に関わるテーマの方が、Z世代にとって「自分ごと」として捉えやすい。
 
2. 規範を見える化する
「みんながやっているから自分もやる」、そうした空気感の形成が行動を後押しする。SNSやメディアを通じて、同世代の参加者の声を可視化して、「やるのが普通」という規範をつくっていくことが有効と思われる。
 
3. イメージを刷新する
サステナビリティを「真面目で堅い話」から、デザイン・ファッション・テクノロジーと結びつけた「ポジティブな選択肢」へと転換することも求められる。「意識高い系」と揶揄されるのを避けるには、楽しさやセンスの良さを感じられるスタイルとして提示する工夫が必要となる。
 
4. 身近な善意を大きな意義につなげる
「この行動が、社会や未来にちゃんとつながっている」というストーリーがあることで、モチベーションが高まる。Z世代にとっては「自分のため」が結果的にサステナビリティに繋がる、という形が受け入れやすい。

少なくともこの4つの観点を意識することで、サステナビリティを「押しつける」のではなく、Z世代の感性と調和した形で「受け入れやすく」、持続的に「育っていく」アプローチに近づいていくと思われる。
2|ファミリーマートの「涙目」シールキャンペーンの好事例
たとえば、2025年3月にファミリーマートが開始した取り組みは、その象徴的な事例であろう。

同社は東海地方での実証を経て、値下げシールのデザインを大きく変更し、全国展開に踏み切った。新しいシールには、おむすび型のキャラクターが涙目で「たすけてください」と訴えるイラストが描かれており、消費者の感情を直接刺激する仕掛けになっている。

2025年4月の効果検証では、このシールを貼った商品の購入率が従来比で平均5ポイント上昇。店舗によっては10ポイント以上伸びるケースも見られた13。全国展開によって、年間で約3,000トンの食品ロス削減が見込まれている。SNS上では「助けたくなった」「涙目に負けて買った」「見た瞬間に笑って泣いた」といった投稿が拡散し、発信者には若年層と思われる投稿も多く含まれていた。
 
13 株式会社ファミリーマート プレスリリース(2025年6月26日)「選んでくれてありがとう!たすけてあげたい気持ちが食品ロス削減に、購入率10ポイント以上アップの店舗も」
3|Z世代にとって「お堅い」社会課題を「身近さ・共感・楽しさ・社会的意義」へと翻訳
この取り組みは、サステナビリティを「遠い理念」ではなく「身近な行動」として翻訳する巧みな工夫と言える。

先ほど挙げた4つのアプローチの観点で言えば、「たすけてください」というキャラクターの訴えは、抽象的な環境保護ではなく、目の前の小さな存在への共感を呼び起こし、即時的な行動につながったと思われる。 

また、SNSを通じて「みんなが参加している」という空気を可視化し、行動の連鎖を後押しした点も重要だ。

さらに、涙目キャラクターのポップなデザインは、食品ロス削減という硬いテーマを楽しく参加できるポジティブな選択へと変換し、「意識高い系」という揶揄から距離を取ることに成功している。

このように、Z世代を含む生活者を動かすうえで多くの示唆を与えてくれる事例であるが、「身近さ」「共感」「楽しさ」「社会的意義」という複数の価値を同時に立ち上げた点においても、食品ロスという社会課題に対する優れたアプローチだと言えるだろう。

5――Z世代の「意識高い系=サステナビリティと距離を置く姿勢」という解釈は本質を見誤る

5――Z世代の「意識高い系=サステナビリティと距離を置く姿勢」という解釈は本質を見誤る

今回取り上げたデータは、サステナビリティに対する性別や世代ごとのイメージや動機づけが異なることを示しており、政策・施策という観点では、性差・世代差を踏まえたアプローチが求められる点は改めて指摘したい。

その中で、Z世代による「意識高い系」という評価については、やや慎重に捉える必要がある。データ上はむしろ、彼らがサステナビリティやSDGsについて学び、理解している世代であるにもかかわらず行動が伴わないのは、利他性に対する文化的距離感や、世間・SNSによる規範圧力、そして欧米型「共通善」と日本的「世間」とのズレを認識しておく必要がある。

Z世代は、そのジレンマを背景に「意識高い系」と表現しているにすぎず、その言葉を「サステナビリティの価値観と距離を置く姿勢」と短絡的に解釈してしまうと、本質を見誤るリスクがあるとも言える。
 
だからこそ、Z世代を動かすには、「日本の文化や感性に合った形でサステナビリティを伝える工夫」が欠かせない。

本稿では、そのための4つのアプローチを例示したが、シンプルに言えば、未来や地球といったスケールの大きな話を、そのまま語るのではなく、日常生活や身近な人間関係に結びつけた「物語」として翻訳することが重要だということだろう。

そうした翻訳があるからこそ、学校教育などを通じて「サステナビリティを知ってはいる」Z世代の意識が、少しずつ「行動する」という実践へとつながっていくのではないだろうか。

生活研究部   准主任研究員

小口 裕(おぐち ゆたか)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費者行動(特に、エシカル消費、サステナブル・マーケティング)、地方創生(地方創生SDGsと持続可能な地域づくり)

経歴

【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事

2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所

2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員

【加入団体等】
 ・日本行動計量学会 会員
 ・日本マーケティング学会 会員
 ・生活経済学会 准会員

【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)

*共同研究者・共同研究機関との共著

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