ただし、左辺は、電子が持つエネルギー全体(運動エネルギー+位置エネルギー)Eを用いて、右辺は、ハミルトニアン
10を用いて
のように表されることもある。
ここで、
はデイラック定数(又は換算プランク定数)
11、mは電子の質量、Vは電子のポテンシャルエネルギー、
はラプラシアンという微分演算子で、
となる。
量子力学が扱うミクロの世界では、物体は粒子と波という2つの性質を有している。伝統的なニュートン力学による運動方程式では粒子としての電子の運動しか記述することができないので、新たな概念が必要になってくる。我々が日常生活を送っている世界においては、物体の粒子としての性質だけをみていれば問題はないが、電子や陽子、中性子といったレベルの世界では、波としての性質が無視できない重要なものとなってくる。
上記のシュレディンガー方程式の解として得られる「波動関数」というのは、まさにこうした電子等の波の運動を記述した式で、例えば簡単のため一次元で考えると、
は、位置x、時刻tにおける量子の状態を表す形になっている。ただし、波動関数が表しているのは、ある時点、ある時刻において確定した状態ではなく, その状態を取る「確率」、即ち「観測するまではどのような状態に確定するのかはわからないが、その状態に確定する確率」を示していると解釈されることになる。具体的には、
の絶対値の二乗(これは、
とその共役複素数を掛けた値)
が「
量子の存在確率」を示していることになる。
シュレディンガー方程式については、ここではこれ以上は詳しくは説明しないが、今回のテーマに関連して注目すべき点は、左辺に虚数単位iが現れてくることにある。この結果として、波動関数も複素数の関数となっている。複素数が使用されているのは、電子の波の性質を表現するのには、振幅と位相の情報が必要になるが、実数部分だけを有する関数ではこれらの情報を十分に表現することができないことから、実部と虚部を有する正弦波や余弦波で表現する形になっている。その意味では、複素数表現は、オイラーの公式を通じて、シュレディンガー方程式を導く際の数学的な道具や武器のようなものと言えるかもしれない。
こうして得られる波動関数については、先ほど述べたようにそれ自体は必ずしも実数にはならないので、その共役複素数との積である絶対値の二乗でもって、これを「量子の存在確率」として、観測可能な物理現象と対応付ける形となっている。
その中で、量子力学については、波動関数の複素数の意味するところ等、様々な解釈問題が提起され、議論されてきている(が、ここではその内容については触れない)。
それでも、量子力学は現代の科学技術の重要な根幹の理論であり、量子力学がなければ、スマートフォンもパソコンも生まれなかったかもしれない。従来のコンピューターは2進法がベースで「0」か「1」か、で計算が進められるのに対して、量子コンピューターでは「0」でもあり「1」でもあるという状態を認めることで、極めて高速な計算が可能になる。
9 「量子」は、粒子と波の性質をあわせ持った、とても小さな物質やエネルギーの単位のことで、原子やその構成要素である電子・中性・陽子、さらには光を粒子としてみた時の光子やニュートリノ、クォーク等の素粒子等。
10 物理学におけるエネルギーに対応する物理量で、量子力学では正準変数(ハミルトン形式の解析力学において、物体の運動を記述する基本変数として用いられる一般化座標と一般化運動量の組)を量子化した演算子。各物理系の持つ多くの性質は、ハミルトニアンによって特徴付けられる。
11 プランク定数 h を 2π で割った値を持つ定数。プランク定数は、光子のもつエネルギーと振動数の比例関係を表す比例定数のことで、6.62607015×10−34 J⋅s(ジュール秒)。