(3)スタートアップ企業の動向からみるオフィス需要
仙台市は東日本大震災以降、起業家支援に力を入れている。2024年3月に「仙台経済COMPASS~2030 年の仙台を見据えた羅針盤」を策定し、重点取組の1つとして、「世界にインパクトを与えるスタートアップの育成」を挙げている。特に、アントレプレナーシップ
7の醸成に注力しており、2023年度より、学生や若者100名を対象とした経営者育成プログラム「仙台グローバルスタートアップ・キャンパス」を実施している。
また、2025年6月に、仙台市や東北6県等で構成される「仙台・東北スタートアップ・エコシステム・コンソーシアム」が、内閣府が推進する「第2期スタートアップ・エコシステム拠点都市」において、「グローバル拠点都市」に選定された。同コンソーシアムは、「課題解決先進地域の実現に向けた大学発スタートアップ創出」に取り組み、5年間でスタートアップ輩出・育成数500社以上、アントレプレナー育成プログラム受講者50,000人以上などを目標とするKPIを設定している。
こうした取り組み等を受けて、宮城県では、大学発スタートアップ企業も増え始めている。経済産業省「令和6年度大学発ベンチャー実態等調査」によれば、都道府県別大学発ベンチャー数は、宮城県が136社(前年比+17社・第9位)であった。また、東北大学は、2024年11月に、政府が創設した10兆円規模の大学ファンドで支援する「国際卓越研究大学」の第一号に選定された。ファンド資金等を活用して東北大発スタートアップ企業数を25年間で10倍に増やす計画である
8。
また、東北大学青葉山新キャンパスの中に整備された3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス
9 )が、2025年4月より運用開始となった。活用分野は先端材料や電子デバイス、食品、創薬、エネルギーなど多岐にわたり、様々な社会課題の解決への貢献が期待されている。前述のコンソーシアムは、ナノテラスの利用を通じて大企業の進出を促進し、スタートアップ企業との協業機会を創出したいとしている。
これらの取り組みに後押しされ、今後も仙台市でスタートアップ企業が増えると見込まれる。オフィス需要の新たな担い手となる可能性もあり、今後の動向を注視したい。
7 企業家精神。新しい事業の創造意欲に燃え、高いリスクに果敢に挑む姿勢。
8 仙台市経済局スタートアップ支援課「仙台・東北から世界を変えるスタートアップの輩出を目指して」
9 「いわば「ナノまで見える巨大な顕微鏡」で、太陽光の10億倍もの強い光を照射することにより、物質をナノレベルまで見ることができる施設」(仙台市HPより)。