このように、サステナビリティの本質は「何を得て何を失うか」を可視化し、社会的に納得できる合意形成を目指す枠組みとも言えるが、これは企業の視点で見れば「戦略」そのものでもある。
その決め手は、未来世代や社会全体を見据えた「想像力」にあるとも言える。「時間軸・空間軸」を拡大した「サステナビリティ時代の新たなトレードオフ」の解消のためには、それを補完する想像力と、複雑さを「できるだけシンプルに」整理して合意形成をデザイン(設計)する視座が求められる。
しかし実際、サステナビリティにまつわる意思決定は困難を伴う。関係者・影響範囲の拡大、長期的な時間軸、トレードオフの複雑化に加え、「何を犠牲にし、なぜそのバランスを選んだのか」を社会的に説明し続けなければならないからである。ただ、その本質は「終わらせる」ことを一方的な排除や淘汰にしないことであり、言い換えれば、「誰もが納得できる手続き・理由・補償の下で、何を伸ばし、どのように縮む(縮退させる)か」を社会全体で合意形成していくことであろう。
たとえば、社会的インパクト評価(SIA)
5や参加型アセスメント
6、EBPM、サステナビリティ政策で言えば東証プライム上場企業のサステナビリティ情報の開示基準などは複雑化した説明責任を企業や自治体が果たすためのガイドラインであり、その枠組みである。
事業の視点では、「製品パッケージをプラスチックフリーに変更すると、環境への配慮が強調されるが、耐久性・利便性・コストで劣る」「フェアトレード原料の採用で、生産者や環境に配慮したブランド価値が高まる一方で、調達コストや製品価格が上がり、価格競争力が低下する」といった、環境・社会・経済などの複数の価値基準を同時に追い求めた結果に生じるサブスタンティブ・トレードオフに対して、「誰のどの利益のために、何をどこまで犠牲にするのか」を社会的に説明し、モニタリングや再評価を重ねる包摂的なプロセスはサステナビリティ実現のための実践的な知恵でもある。
さらに、このような持続可能な合意形成に向けた考え方は、たとえば地方創生2.0の文脈における「産官学金労言等の多様な関係主体の連携」、つまり、社会の多様な利害関係者が協働し、知識を統合するという「コンシリエンス(consilience)」
7という考え方にも連なっていく。
5 社会的インパクト評価(Social Impact Analysis /SIA)とは、新しい事業や政策、プロジェクトが、地域社会や関係者にどのような影響を及ぼすかを事前・事後に評価する手法。環境アセスメント(EIA)が自然環境への影響評価を目的とするのに対し、SIAは「人・コミュニティ・社会構造・文化・福祉」など、社会面にフォーカスする点が特徴と言える。ただし。SIAで用いられる手法には大きなばらつきがあり、定量的アプローチ(アンケート調査、統計解析)と、定性的アプローチ(インタビュー、ワークショップ、参加観察など)が混在しており、標準的な枠組みや指標の共通化は十分に進んでいるとは言えない。特に、「誰が・どのように不利益を受けるか」「地域コミュニティのつながりがどう損なわれるか」「住民の精神的負担や生活の質はどう変化するか」などの社会的トレードオフの評価は、単純な数値化が難しく、客観的な指標に落とし込みにくいとされる。
Ricardo J. Bonilla-Alicea & Katherine K. Fu (2019)「Systematic Map of the Social Impact Assessment Field
6 参加型アセスメント:意思決定の過程に地域住民やステークホルダーを積極的に巻き込み、評価や計画策定を進める手法。これまでの「専門家任せ」や「行政主導」のアセスメントでは、現場の声や生活者の視点が十分に反映されないという課題があった。
7 サステナビリティ経営やイノベーション論でも、単一分野の最適化ではなく、環境・社会・経済・倫理・技術といった多領域の知見を「コンシリエンス」させることが、現代の課題解決には不可欠とされる。これがないと、どこかに「しわ寄せ」や社会的な軋轢、非効率・形骸化が生じやすくなるとされる(Quental et al., 2011)。
Wilson, E. O. (1998). Consilience: The unity of knowledge. New York, NY: Knopf.