さらに新NISA口座からの売却が少なかった点は、制度の恒久化と投資期間が無期限化された成果と考えられる。
制度拡充によって年間の投資枠が従来の倍以上に拡大されたことに加え、口座数自体も増加し、買付額は2024年1年間で17兆3,821億円に達し、2023年の一般NISAおよびつみたてNISAの合計5兆2,382億円の3.3倍に拡大した。その一方で売却額は2024年に2兆3,441億円と2023年の4兆2,686億円より少なかった【図表4】。特につみたて投資枠では、売却額が1,813億円にとどまった。つみたて投資枠の買付は4兆9,677億円と2018年から2023年のつみたてNISAの累積買付額4兆5,489億円を上回ったが、売却は累積売却額5,029億円の半分以下にとどまった。
また、商品別にみると、投資信託が7,086億円と売却が買付に対して小規模であった。一般NISA時代には毎年、投資信託でも上場株式と同規模の売却があったが、成長投資枠に限っても5,284億円と買付額6兆8,370億円の1割未満に収まった。
2024年の7月中旬から8月上旬にかけては、内外株式を組入れている投資信託の多くで基準価額が大きく下落した。一時的ではあったが投資環境が悪化したにもかかわらず、NISA口座全体でみると投資信託を売却する利用者はごく一部に限られたことがうかがえる。
なお、国内株式については1兆5,592億円の売却があり、商品別にみると最も売却されていた。比較的、一部の利用者が短期売買に活用した様子もみられた。ただ、一般NISA時代には毎年、買付と同程度、もしくはそれ以上の売却があった。そのことを踏まえると、新NISAになった2024年は売却が減少したといえよう。
新NISA初年の2024年の売買動向のみで判断することはできないものの、投資期限の無期限化により、つみたて投資枠を中心に長期投資への意識が高まりつつあることが示唆される。
このように売却が少なかったことに加え、2024年は世界的に株価が上昇し円安が進行したことも追い風となり、新NISA口座全体の年末残高は16兆9,510億円とほぼ買付額と同規模に収まっていた。2024年の評価益を含む収益は2兆円程度、収益率は12%ほどであったことが推計される。特に成長投資枠、つみたて投資枠ともに投資信託の収益率が14%と推計され、投資信託を購入した利用者の運用成果が大きかった。短期的な運用成績に過度に反応するべきではないが、多くの利用者が良好な運用状況であったと推察される。