マスク着用の健康への影響-コロナ禍の研究を経て分かっていること/いないこと

2025年06月12日

(岩﨑 敬子) 保険会社経営

2――マスク着用の健康への深刻な悪影響は報告されていない

マスク着用には感染拡大予防効果という健康へのメリットがあるが、デメリットはあるのだろうか。デメリットとしてまず挙げられるのは、着用時の不快感や頭痛などである。国籍を問わずオンラインで行われた調査では回答者のうち約6割がマスク着用時の不快感を訴え、その理由として多く挙げられたのは呼吸のしづらさと耳の痛さだった19。同調査ではマスク着用で約27%の人が頭痛を感じたと報告している。
 
では、マスク着用は、より深刻な健康被害をもたらす可能性があるのだろうか。心肺機能への影響があるのではないかといった憶測があるが、これまで一般の健康な人々の間では、マスク着用の深刻な健康への影響は確認されてきていない4。また、子どもへの影響を心配する声もあるが、これまで行われてきた児童・生徒を対象としたランダム化比較試験や、実社会での大規模なマスク導入事例においても、深刻な影響の報告は確認されていない4。また、マスク着用の熱中症への影響についても、日本救急医学会などは、健康な成人の間では、マスク着用が熱中症の原因になるという科学的根拠はないと報告している20。以上を踏まえると、マスク着用に関する健康上の懸念はあるが、現在のところ一般の健康な人々の間では、深刻なものは報告されていない状況のようだ。
 
本項では、これまでの研究で示されてきたマスクの健康への影響を紹介した。まず、マスク着用には感染拡大予防効果があることが確認されている。また、マスク着用には、着用者自身を守る効果よりも、周りの人の感染を防ぐ効果により強い根拠があることが共通認識となっている。一方、マスクの健康上のデメリットとしては、不快感や頭痛など様々指摘されているものの、一般の健康な人々の間においては、深刻な影響は確認されていない状況のようだ。厚生労働省は、2023年の3月からマスク着用を個人の判断としている21。他者への影響、自らの感染リスク、そして快適さのバランスを踏まえ、個々人が判断していく必要がある。そうした中で、マスク着用に利他的なメリットが大きいことは、周りからの視線などを含めて、着脱の判断を難しくするポイントになるのかもしれない。
 
19 Gyapong, F. et al. (2022). Challenges and adverse effects of wearing face masks in the COVID-19 era. Challenges13(2), 67. (https://doi.org/10.3390/challe13020067, 2025/5/9 accessed)
20 新型コロナウイルス感染症の流行を踏まえた 熱中症診療に関するワーキンググループ(2022) 新型コロナウイルス感染症流行下における 熱中症対応の手引き(第 2 版)(https://www.jaam.jp/info/2022/files/20220715.pdf, 2025/5/9 access)
21 厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00001.html, 2025/5/9 accessed)

保険研究部   准主任研究員

岩﨑 敬子(いわさき けいこ)

研究領域:保険

研究・専門分野
応用ミクロ計量経済学・行動経済学 

経歴

【職歴】
 2010年 株式会社 三井住友銀行
 2015年 独立行政法人日本学術振興会 特別研究員
 2018年 ニッセイ基礎研究所 研究員
 2021年7月より現職

【加入団体等】
 日本経済学会、行動経済学会、人間の安全保障学会
 博士(国際貢献、東京大学)
 2022年 東北学院大学非常勤講師
 2020年 茨城大学非常勤講師

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