NEW

貿易統計25年4月-トランプ関税の影響が一部で顕在化

2025年05月21日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.貿易赤字(季節調整値)が前月から拡大

財務省が5月21日に公表した貿易統計によると、25年4月の貿易収支は▲1,158円の赤字となり、事前の市場予想(QUICK集計:2,150億円の黒字、当社予想は▲1,405億円の赤字)を下回った。輸出が前年比2.0%(3月:同4.0%)と7ヵ月連続で増加する一方、輸入が前年比▲2.2%(3月:同1.8%)と2ヵ月ぶりに減少したため、貿易収支は前年に比べ3,888億円の改善となった。

輸出の内訳を数量、価格に分けてみると、輸出数量が前年比0.5%(3月:同▲0.8%)、輸出価格が前年比1.5%(3月:同4.8%)、輸入の内訳は、輸入数量が前年比2.8%(3月:同5.0%)、輸入価格が前年比▲4.9%(3月:同▲3.0%)であった。
季節調整済の貿易収支は▲4,089億円と2ヵ月連続の赤字となり、3月の▲2,917億円から赤字幅が拡大した。輸出が前月比▲2.7%の減少、輸入が同▲1.4%の減少となった。
25年4月の通関(入着)ベースの原油価格は1バレル=79.2ドル(当研究所による試算値)と、3月の79.6ドルから若干低下した。足もとの原油価格(ドバイ)は60ドル台半ばで推移しており、指標価格に上乗せされる調整金、船賃、保険料などを含めた通関ベースの原油価格は、5月に70ドル台前半、6月に60ドル台後半まで低下することが見込まれる。

2.米国の関税引き上げに対して日本企業は値下げで対応か

25年4月の輸出数量指数を地域別に見ると、米国向けが前年比1.2%(3月:同▲4.9%)、EU向けが前年比▲4.4%(3月:同▲0.4%)、アジア向けが前年比1.5%(3月:同1.0%)、うち中国向けが前年比▲5.3%(3月:同▲8.5%)となった。

25年4月の地域別輸出数量指数を季節調整値(当研究所による試算値)でみると、米国向けが前月比0.3%(3月:同▲2.6%)、EU向けが前月比▲4.3%(3月:同1.8%)、アジア向けが前月比▲2.1%(3月:同▲0.5%)、うち中国向けが前月比▲3.3%(3月:同▲7.5%)、全体では前月比▲1.2%(3月:同▲1.5%)となった。
4月から米国の関税引き上げが本格化しているが、米国向けの輸出数量は11ヵ月ぶりに前年比増加に転じており、数量面では関税引き上げの影響は表れていない。一方、4月の米国向けの輸出価格指数は3月の前年比8.4%から同▲3.0%へと急低下した。輸出価格低下の一因は円高だが、ドル円レートの変化幅(3月:前年比0.1%→4月:同▲2.6%)以上に輸出価格指数は低下している。

25%の追加関税が課せられた米国向け自動車輸出は前年比▲4.8%(3月:同4.1%)と4ヵ月ぶりの減少となった。輸出数量は前年比11.8%(3月:同5.7%)と伸びを高めたが、輸出価格が前年比▲14.8%(同▲1.5%)と低下幅が急拡大したことが輸出金額の減少につながった。
貿易統計の輸出価格指数は円ベースのため、為替変動の影響が含まれるが、日本銀行の「企業物価指数」では、契約通貨ベースと円ベースの輸出物価指数が公表されている。4月の北米向け乗用車の輸出物価指数は契約通貨ベースで前年比▲4.6%となり、3月の同▲1.5%から低下幅が拡大した(円ベースは3月:前年比▲1.8%→4月:同▲10.2%)。

関税引き上げによる輸出への影響は、価格競争力低下に伴う数量の減少と輸出企業の価格引き下げによる輸出金額の減少に分けられる。両者ともに輸出の減少を通じて企業収益の悪化につながるが、4月の貿易統計では後者の動きが顕著に表れたと考えられる。

関税引き上げの影響を判断するためには、5月以降の動きを見る必要があるが、現時点では、日本企業は米国の関税引き上げに対して、輸出数量の落ち込みを緩和するために価格の引き下げを行っていることが窺える。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)