2025・2026年度経済見通し(25年5月)

2025年05月19日

(斎藤 太郎) 日本経済

(物価の見通し)
消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は2023年9月以降、前年比で2%台の伸びが続いていたが、「酷暑乗り切り緊急支援」の終了に伴う電気・都市ガス代の上昇率急拡大を主因として2024年12月に同3.0%となった後、2025年3月まで3%台の伸びを続けている。エネルギー関連の物価高対策は2024年1月まではコアCPI上昇率の押し下げ要因となっていたが、電気・都市ガス代の値引き額の縮小や政策の一時停止などにより、2024年2月以降は押し上げ要因となっている。

電気・都市ガス代の「酷暑乗り切り緊急支援」は2024年10月使用分でいったん終了したが、「電気・ガス料金負担軽減支援事業」が2025年1~3月使用分で実施された(3月は補助額縮小)4。また、2024年末までとしていたガソリン、灯油等の「燃料油価格激変緩和対策」は、2025年入り後も継続されたが、補助金額は縮小された。ガソリン価格(レギュラー)は2024年12月中旬までは1リットル=175円程度だったが、2025年1月中旬以降は185円程度で推移している。

政府は物価高対策として、5/22からガソリン補助金の新制度を導入することを決定した。これまでは、小売価格の上限を設定し、それに応じた補助金を支給していたが、今後は補助金額を固定する形となる。具体的には5/29に全国平均の小売価格が5円引き下がるように5/22から補助を開始し、定額支援10円に達するまで小売価格が毎週1円下がるように補助を追加する。

また、政府はいったん終了した電気・都市ガス代の補助金制度を2025年7~9月使用分で復活することを検討しており、具体的な内容を5月中に決定するとしている。

今回の見通しでは、ガソリン補助金については2025年7月に補助金額を10円とした後、2025年秋以降に補助金額を徐々に縮小し、2025年度末に終了する。2025年7~9月使用分の電気・都市ガス代の補助金額は2025年1~3月使用分で実施されたものと同額になると想定した。
エネルギー関連の物価高対策によるコアCPI上昇率への影響を年度ベースでみると、2022年度(▲0.6%程度)、2023年度(▲0.4%程度)は押し下げ要因となっていたが、2024年度は押し上げ要因(0.5%程度)となった。物価高対策は2025年度入り後も実施されるが、対策の規模が縮小しているため、2025年度(0.4%程度)、2026年度(0.2%程度)も押し上げ要因となることが見込まれる。
 
食料品(生鮮食品を除く)は2023年8月の前年比9.2%をピークに2024年7月には同2.6%まで鈍化したが、その後は輸入物価の再上昇に米価格の高騰が加わったことから再び上昇率が高まり、2025年3月は同6.2%となった。
川上段階(輸入物価)の食料品価格の上昇率は2023年夏頃に比べれば低水準にとどまっているが、川下段階(消費者物価)の価格転嫁率は高まっている。飲食料品の輸入物価は2020年秋頃から2023年末にかけて約60%の急上昇となった。この間、消費者物価の食料品(除く生鮮食品)の上昇率は10%弱にとどまっていた。

これに対し、2023年初から足もとまでの飲食料品の輸入物価上昇率は15%程度と前回の上昇局面の4分の1程度にとどまっているが、この間に消費者物価の食料品は10%以上上昇している。人件費や物流費の価格転嫁に加え、物価高が継続したことで企業の値上げに対する抵抗感が薄れていることがこの背景にあると考えられる。食料の上昇率は当面高止まりする可能性が高い。
サービス価格は2023年後半以降、2%台前半の伸びが続いていたが、2024年度入り後は1%台半ばまで伸びが鈍化している。サービス価格の内訳をみると、家賃を除くサービスは2023年末頃の前年比3%台後半をピークに伸びは鈍化しているが、2%台の伸びを維持している。

一方、サービスの4割弱を占める家賃は、前年比0%台前半の推移が続いており、サービス価格全体の伸びを抑制している。ただし、東京都区部の家賃は住宅価格高騰などの影響から、コロナ禍の前年比0%から徐々に上昇率を高め、年度替わりの2025年4月には前年比1.3%と前月から上昇率が0.5ポイントの急拡大となった。人口減少が顕著な地方では家賃の伸び悩みが続く公算が大きいが、大都市圏を中心に全国の家賃も徐々に上昇率を高めることが予想される。
サービス価格の動向を大きく左右する人件費は、高水準の賃上げを背景に増加が続くことが見込まれる。人件費や物流費を価格転嫁する動きが続くことから、サービス価格の上昇ペースは再び加速する可能性が高い。
コアCPI上昇率は、2025年度入り後もしばらく3%台で推移した後、物価高対策でエネルギー価格が押し下げられる夏場には2%台へ鈍化するだろう。賃上げに伴うサービス価格の上昇を円高による財価格の上昇率鈍化が打ち消す形でコアCPI上昇率が日銀の物価目標である2%を割り込むのは2026年入り後と予想する。

コアCPIは、2024年度の前年比2.7%の後、2025年度が同2.4%、2026年度が同1.6%、コアコアCPI(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)は2024年度の前年比2.3%の後、2025年度が2.5%、2026年度が1.7%と予想する。
 
4 ただし、値引き額は「酷暑乗り切り緊急支援」よりも小さい。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

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