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1.はじめに

日本の不動産投資市場は、J-REIT市場の開設以降、拡大が続いている。投資対象資産は、当初はオフィスビルが中心であったが、現在は多岐にわたっている。特に、宿泊需要がコロナ禍の落ち込みから急速に回復1していること等を受けて、ホテルに対する不動産投資家の関心が高まっている。今年1月にニッセイ基礎研究所が国内の不動産実務家等に実施した「不動産市況アンケート2」において、「今後、価格上昇や市場拡大が期待できる投資セクター」についてたずねたところ、「ホテル」との回答が最も多く、約7割を占めた。

拡大を続けるホテル投資市場の将来を見通すにあたり、投資対象となる「収益不動産3」の資産総額や、その「エリア別」の内訳を把握することは重要だと考えられる。

そこで、本稿ではニッセイ基礎研究所と価値総合研究所が共同で実施したわが国の不動産投資市場規模(収益不動産ストック)に関する調査4のうち、「ホテル・旅館」に関する推計結果の内容を詳細に報告する。また、ホテル・旅館の収益不動産の資産規模に関し、需要指標である延べ宿泊者数との関係性を検証し、その結果をもとに分析を加えた。
 
1 日本政府観光局によると、2024年の訪日外客数は約3,700万人(2019年+15.6%)と過去最高を更新した。
2 吉田資『良好な景況感が継続。先行きも楽観的な見方が強まる。~期待はホテルと産業関係施設(データセンターなど)が上位。リスク要因として、国内金利と米国政治・外交への警戒高まる~第21回不動産市況アンケート結果』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2025年2月4日)
3 事業者や個人に物件を賃貸することで、賃料収入を獲得できる不動産。
4 吉田資・室 剛朗・藤野 玲於奈・宮野 慎也『わが国の不動産投資市場規模(2024年)』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2024 年12 月27日)

2.ホテル・旅館の資産規模の推計結果

2.ホテル・旅館の資産規模の推計結果

2-1.概要
ホテル・旅館の「収益不動産ストック」を把握するため、

(1)現存するものすべてを対象とする「収益不動産」
(2)機関投資家の投資意欲が特に強い立地要件を満たす「投資適格不動産」

のカテゴリーに分類し、推計5を行った(図表-1)。
まず、ホテル・旅館の資産規模は、「収益不動産」で約17.0兆円(前年比+71%)、「投資適格不動産」で約11.7兆円(前年比+58%)と推計された(図表-2)。2024年は、NOIの大幅な回復とキャップレートの低下を受けて、前回調査から大幅に拡大し、「収益不動産」、「投資適格不動産」ともに過去最高水準を更新した。

不動産投資市場の将来を見通す上で、「不動産証券化」の視点は重要である。そこで、各カテゴリーにおけるJ-REITの保有比率を確認すると、「収益不動産」で14%、「投資適格不動産」で16%となり、2021年調査(「収益不動産:14%」、「投資適格不動産:17%」)とほぼ同じ水準であった。

次に、ホテル・旅館の「収益不動産ストック」に対する年間の取引量(以下、市場回転率6)を確認する。市場回転率は、不動産投資市場における市場流動性の高低を表していると考えられる。

RCAによれば、ホテル・旅館の年間取引額(全国)は、ファンドバブルと言われ活況を呈した2007年には約7,300億円に達した。その後、リーマンショックや東日本大震災等の影響により取引額は低迷したが、2013年にスタートしたアベノミクス以降、国内外の投資資金が流入し、増加傾向で推移していた。しかし、コロナ禍の影響を受けて、2020年の取引額は、約2,700億円(前年比▲47%)と半減した。その後、急速な宿泊需要の回復に伴い、取引額も2023年以降大幅に増加し、2024年は約9,000億円(前年比+20%)となり、過去最高水準を更新した(図表-3)。
2007年から2024年のホテル・旅館の平均年間取引額は、全国で約3,600億円、政令指定都市+中核都市で約2,800億円であった。これに基づく平均市場回転率は、「収益不動産」で2.1%、「投資適格不動産」で2.4%と推計される。

時系列でみると、「収益不動産」の市場回転率は、2.5%(2021年)→2.5%(2022年)→7.5%(2023年)→5.3%(2024年)と推移しており、2023年以降大幅に上昇している(図表-4)。同様に、「投資適格不動産」の市場回転率を確認すると、3.5%(2021年)→3.1%(2022年)→7.6%(2023年)→6.3%(2024年)と推移している。2023年以降、米国の平均市場回転率(約4.5%7と推計)を上回っており、流動性が急速に高まっている。
 
5 推計方法:ホテル・旅館の「客室数」に「客室単価・稼働率」を乗じて、「年間の客室総売上」を算出。客室以外の売上げである「料飲・宴会等の売上」を加え、「総売上高」を算出。
「総売上高」にGOP比率を乗じ、備品等更新費用やホテル会社の利益を差し引き、「支払い可能賃料」を算出。
「支払い可能賃料」にJ-REIT公表データに基づくコスト比率を乗じ、NOIを算出し、キャップレートで除して「資産規模」を推計。
6 「市場回転率」=年間取引額÷収益不動産ストック
7 PGIM Real Estate 「A Bird’s Eye View of Real Estate Markets: 2017 Update」によれば、アメリカ合衆国の「収益不動産」(全プロパティ)の資産規模は、約8.1兆ドル。RCAによれば、アメリカ大陸の年間取引額(2007年から2020年の平均値)は、約0.3兆ドル。
2-2.エリア別にみたホテル・旅館の「収益不動産」
ホテル・旅館の「収益不動産(17.0兆円)」を都道府県別にみると、「東京都」が約5兆6,200億円(占率33%)と最も大きく、次いで「大阪府」が約1兆8,600億円(同11%)、「神奈川県」が約9,700億円(同6%)、「京都府」が約8,900億円(同5%)、「北海道」が約8,500億円(同5%)と推計された(図表―5)。
図表-6に、「収益不動産」と「J-REIT保有物件」のエリア分布を示した。

「収益不動産」のエリア分布は、「東京都」が33%、「近畿地方」が20%、「関東地方(東京都除く)」が14%、「中部地方」が10%、「北海道・東北地方」が9%、「九州地方」が6%、「中国・四国地方」が4%、「沖縄県」が3%となる。

ホテル・旅館の「収益不動産」は、「オフィス(東京都の占率55%)」や「賃貸住宅(同41%)」と比較すると、「東京都」の占率は低く、地方も一定の市場規模が存在すると言える。

また、「収益不動産」と「J-REIT保有物件」のエリア分布を比較すると、「J-REIT」は「東京都(26%)」に分布する割合が「収益不動産」に比べて低い一方、「沖縄県(11%)」に分布する割合は高い。
次に、都道府県別に収益不動産(全体)のうち、J-REITが保有する比率(J-REIT保有比率)を確認すると、「沖縄県」(55%)が最も高く、次いで「奈良県」(50%)、「石川県」(41%)、「山梨県」(33%)、「大分県」(31%)、「栃木県」(30%)の順に高い(図表―7)。

続いて、都道府県別に平均市場回転率8を確認すると、「千葉県」(5.3%)が最も高く、次いで「沖縄県」(5.1%)、「広島県」(4.4%)、「石川県」(3.9%)、「奈良県」(3.9%)の順に高い(図表―7)。

沖縄県は、J-REIT保有比率、市場回転率ともに高位であり、一定の資産規模(約4,700億円)を有している。沖縄県では、投資資金の流入が活発なホテル開発を下支えした可能性がある9

また、「東京都」や「神奈川県」、「京都府」、「愛知県」、「兵庫県」、「埼玉県」は一定の資産規模を有している一方、J-REIT保有比率ならびに市場回転率が低水準に留まっており、証券化拡大の余地は大きいと考えられる。
 
8 各都道府県の平均年間取引額(2007年から2024年)÷各都道府県の収益不動産の資産規模
9 星野リゾート・株式会社日本政策投資銀行「星野リゾートとの共同運営ファンドを通じた 「沖縄・読谷村リゾート開発計画」への投資実行について」(2018年1月31日)、等

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 事業部長 主任研究員 室 剛朗

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 藤野 玲於奈

株式会社価値総合研究所 不動産投資調査事業部 研究員 宮野 慎也

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