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米でのGoogle広告訴訟判決-オープンウェブ・ディスプレイ広告における独占認定

2025年05月14日

(松澤 登) 保険会社経営

6――裁判所の判断-独占力

1|判断の枠組み
独占力とは価格をコントロールしたり、競争を排除したりする力のことである。独占力は直接・間接に立証することができる。直接的な立証には、被告が超競争的な利益を得ていたことが含まれる。間接的な立証には高いシェアが挙げられる。判例では、87%の市場シェアが独占力を有していることを立証していることに疑いの余地はないとする。他方、最低シェアは定まっていないが、特別な事情がない限り少なくとも60%のシェアがなければならないとされ、この程度のシェアがある場合において、参入障壁が高い場合には裁判所はより積極的に独占力を推認する。参入障壁には規模がもたらすネットワーク効果や、十分な資金を持つ競合社の過去の参入失敗が考慮される。
2|OD媒体社アドサーバー
裁判所は原告がOD媒体社アドサーバーにおいて独占力を有することを証明したことを認定する。

まず、当該市場において2022年、Googleは91%のシェアを有している。このシェアは持続的なものである。その理由は、(1)サービス構築が大企業であっても、複雑かつ資源を要するプロセスとなる。(2)媒体社が一つの広告枠に2以上のアドサーバーを運用することは予想のむつかしさから現実的ではないため、新規参入者が媒体社を顧客にすることは困難である。(3)媒体社がアドサーバーを変更することは多大な労力を要するため「悪夢」とでも言えるようなものである。

この独占力はかつての競合会社が完全に撤退するか、オープンウェブ・ディスプレイ広告以外のチャネルで競争しようとしたことにも表れている。

裁判所は製品全体の品質が低下したという証拠がないことは同意する。しかし、ここでは媒体社アドサーバー市場への参入と拡大に対する高い障壁を考えれば、Googleの独占力について疑う余地はない。
3|OD広告取引所
原告は、GoogleのOD広告取引所が独占力を有していることを証明した。Adxは広告費の20%という超競争的な手数料を設定している。Googleの20%という手数料は他の広告取引所の2倍である。この超競争的価格はGoogleの規模とオープンウェブ・ディスプレイ広告のディスプレイ広告全体にわたるネットワーク効果によってもたらされた高い参入障壁によってもたらされた。他の広告取引所が手数料を下げる実験を行ったが、シェアは名目的なレベルでしか変更しなかった。このように超競争的な手数料を設定できることは、独占力の直接的な証拠である。

また、Adxの機能はコモディティ(汎用)化しており、手数料に20%の価値がないことはGoogleの従業員も認識していたが、それでも20%を維持できたということは独占力の直接的証拠といえる。

独占力のもうひとつの直接的な証拠として、Googleがアドテクエコシステム周辺の市場力を利用することで、OD広告取引所の両側の顧客が他の広告取引所に乗り換えることをより困難にしていることである。

これはAdWordsのユニークな需要(中小企業の多彩な広告出稿)によりもたらされたものであり、GoogleはAdWordsの唯一の入稿先であるAdxがDFPにのみリアルタイム入札を送信するようにしたことにより、独占力を強化した。

証言によれば、Adxは全世界市場のオープンウェブ・ディスプレイ広告の63%から71%のシェアを占めており、他の広告を含む全取引に広げても53%から65%の取引を扱っていた。このようなシェアは安定的である。

裁判所は50%-70%程度のシェアだけで独占力を有していることを認定することはできないと認識している。しかし、シェアが安定的であること、および超競争的な価格を設定できているという証拠があることが独占力の存在の裏付けとなっている。
4|コメント
一つ目のOD媒体社アドサーバー市場について、裁判所は間接的な立証を認めた。この要件は高いシェア+高い参入障壁である。DFPのシェアは9割を超えている。上述の通り、87%のシェアだけで独占を認めた判例があるが、本判決では参入障壁を併せて認定している。この認定を強化するものとして、競合社が撤退した事例も挙げられている。なお、判決文によると、OD媒体社アドサーバーは手数料も1%台であり、かつ品質が他に劣っていたわけではないので直接的な立証は難しいと思われる。

二つ目のOD広告取引所市場について、裁判所は直接的な立証を認めた。すなわち、超競争的な価格を設定できていたことを述べている。間接的な立証について、シェアが6割前後であることから、上述の通り、高い参入障壁があることを示す必要がある。判決文には高い参入障壁を認定した部分がないので、Adxの独占力の間接的な立証は難しかったものと思われる。

7――裁判所の判断-独占力の意図的な獲得又は維持

7――裁判所の判断-独占力の意図的な獲得又は維持

1|総論
Googleがシャーマン法(競争法)違反に基づく責任を問われるためには、独占力を意図的に獲得又は維持したことを原告が証明しなければならない。言い換えるとGoogleが競争促進的な行為によって独占力を獲得したのであれば、責任は問われない。

企業の行為が反競争的かどうかは「競合他社に及ぼす影響」「消費者への影響」「不必要に制限的な競争を損なったかどうか」を考慮する。独占企業は一見反競争的な行為に対して競争促進的な正当化事由を提示することができるが、それでも原告がその行為の反競争的な害が競争促進的な利益を上回ることができることを証明すればシャーマン法に基づく責任を負う。

したがって、独占者の行為が「競争プロセスを害し、それによって消費者に損害を与えた」かどうかを総合的に評価することが、排他的行為を行ったとされる独占者がシャーマン法2条違反かどうかのカギとなる。

原告は以下の一連の反競争的行為を行ったと主張している。

イ)DFP買収5により、アドテク全体で支配的な地位を確立した。
ロ)DFPとAdxを結び付け、媒体社がGoogleのサービスのみを利用するよう拘束したこと
ハ)結び付けたアドテクツールを活用し、競合社を排除し、顧客に損害を与えたこと
 
5 判決文ではAdmeldというサービス買収も議論にあげられているが、GoogleはAdmeld買収直後に機能だけ吸収して解散させており、かつ判決結果に大きく影響していないので省略する。
2|DFP買収
裁判所は、原告のDFP買収そのものが反競争的であったことを示すことができなかったと判断する。原告によればGoogleは、媒体社サイドのインフラを確保し、Googleの広告主サイドビジネスとの間に他の大規模なテック企業が立ちはだかるのを防ぐために、自社内評価額より10億ドルも多く支払ったと主張する。仮にそうだとしても、原告はDFP買収が反競争的であったとは示していない。GoogleがDFPを買収した際、関連市場のいずれにおいても独占的な力を有していたとは主張していない。実際、DFP買収時点ではマグナイト、Microsoft、OpenX、Yahooといった競合社が積極的に参加していた時期に行われた。この買収は連邦取引員会(FTC)が審査し、当該買収は「競争を実質的に低下させる可能性は低い」と判断されていた。
3|DFPとAdxの連携
抱き合わせ販売の問題は、ある市場における経済力を利用して、別の市場における競争を制限することにある。抱き合わせ販売はその行為を行ったこと自体でシャーマン法1条(取引制限6)の当然違法行為(illegal per se=その行為がどの程度悪影響を及ぼしたかを問題とせず、行為自体が違法)となる。

抱き合わせ販売は以下の4要素を立証しなければならない。

i)2つの異なった製品の存在

ii)抱き合わせ製品(tying product)の購入にあたり、抱き合わされた製品(tied product)の購入を条件づける合意(若しくは、少なくとも抱き合わされた製品を他から購入しない合意)

iii)販売者が抱き合わせ製品市場(tying product market)において、抱き合わされた製品市場(tied product market)における競争を制約する程度の十分な経済力を有すること

iv)州際通商に少なからぬ影響を及ぼすこと

原告は、Googleが、DFPをAdxに抱き合わせたと主張する。具体的には、媒体社がDFP(=抱き合わされた製品)を利用しない限り、Adx(抱き合わせ製品)からリアルタイム入札を受けることを禁止するGoogleの技術的およびポリシー的な制限を挙げている。

原告は上記4要素を以下の通り証明した。

i)媒体社アドサーバーと広告取引所とは2つの別個の製品であり、合理的な互換性(reasonably interchangeable)はない(=同一市場の製品ではない)。

ii)GoogleがAdx利用にあたって課した制限は、抱き合わせ製品(Adx)の購入を抱き合わされた製品(DFP)の購入を条件としている。媒体社にとって、AdWordsへの効果的なリアルタイムのアクセスを実現するには、抱き合わせ製品(Adx)と抱き合わされた製品(DFP)の両方の購入が唯一の選択肢であった。

iii)裁判所は、Googleが抱き合わせ製品市場であるOD広告取引所市場において、独占力を有し、抱き合わされた製品市場での競争を制限するのに十分な経済力を有していると判断した。Adxは超競争的な手数料を設定し、次に大きなOD広告取引所の9倍の規模を有し、参入と拡大に対する高い障壁によって保護されている。Adxの独占力の源泉はAdWordsの持つ他に類を見ない大規模かつ多様な広告需要である。

iv)AdxとDFPの連携は「州際通商に少なからぬ影響」を及ぼしている。AdxとDFPは米国内および世界中の媒体社によって利用されている。

4要素が立証されたため、シャーマン法1条違反が認定された。また、この抱き合わせは、一方的に課されたものであるが、独占力の維持または構築に著しく寄与するために、シャーマン法2条(私的独占7)にも違反する。

DFPは最高の広告サーバーではなかったが、GoogleはAdx-DFPの提携と関連する活動を通じて広告サーバー市場における競争を破壊したため、ほとんどの他の広告主アドサーバーは廃業又は売却された。
 
6 シャーマン法1条では「各州間の又は外国との取引又は通商を制限する全ての契約、トラストその他の形態による結合又は共謀」は、禁止されるとする。
7 シャーマン法2条では、「各州間の又は外国との取引又は通商のいかなる部分を独占化し、独占を企図し、又は独占する目的をもって他の者と結合・共謀する」ことが禁止されている。

保険研究部   取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登(まつざわ のぼる)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴

【職歴】
 1985年 日本生命保険相互会社入社
 2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
 2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
 2018年4月 取締役保険研究部研究理事
 2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
 2025年4月より現職

【加入団体等】
 東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
 東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
 大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
 金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
 日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

【著書】
 『はじめて学ぶ少額短期保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2024年02月

 『Q&Aで読み解く保険業法』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2022年07月

 『はじめて学ぶ生命保険』
  出版社:保険毎日新聞社
  発行年月:2021年05月

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