NEW

世界人口の動向と生命保険マーケット-生保マーケットにおける「中国の米国超え」は実現するのか

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.338]

2025年05月09日

(有村 寛) 保険商品

関連カテゴリ

1―世界の人口動向

国連は、昨年7月に世界人口推計を公表した。[図表1]は、2050年、2100年の推計値における人口上位10か国である。

既に2021年に人口ピークを迎えた中国は、2024年の14億1,900万人から、2100年には、半分以下の6億3,300万人になるとされている。同数値は、コロナ禍前の2019年に公表された人口推計(2019年人口推計)では、10億6,400万人とされていたが、コロナ禍を経て、予測値も大幅に引き下げられたことになる。

また、インドは、2061年にピークを迎えた後は、緩やかに減少することが予想されている一方、米国は、順位は落ちていくものの、今世紀中は人口が増え続けるという。

2―世界の生保マーケットはどうなっていくのか

上記の中国の将来人口が著しく減少する、との予測をみると、生保に関する調査・研究を担当している筆者としては、生保マーケットにおける「中国の米国超え」はどうなるのか、ということが気になってくる*1

[図表2]は、スイス再保険による2013年、2023年における各国の生保収入保険料の実績値、ならびにアリアンツによる2034年における予測値である。

中国、インドの成長は著しく、2034年には、中国は米国の約8割に迫り、インドも米国の約4割になるとされている。
一方、米国、中国の2023年、2034年における人口一人あたり保険料や増加率等に基づき、将来における収入保険料を試算してみたのが[図表3]である*2
コロナ禍前の「2019年人口推計」に基づく予測では、中国生保収入保険料は、2045年に、米国を2.6%上回り、2050年には再び米国に抜かれる結果となったが、「2024年人口推計」に基づく予測では、中国生保市場の米国超えはみられなかった。また、2100年時点では、いずれの予測でも、中国の生保マーケットは米国に大きく水を空けられることとなった。

前提の置き方によって予測値も変わってくるため、[図表3]で示した数値は、あくまでも一つの試算例であり、目安に過ぎないが、当試算結果からは、中国生保マーケットの米国超えの実現は、予断を許さない状況にあるとも考えられる。

なお、今回の試算では示せなかったが、インドは、ピークを迎えた後の人口減少も緩やかで、2100年時点の人口も、2位以下を大きく引き離している。生保収入保険料においても、2034年以降、遠からず米国、中国に迫ってくるのみならず、中長期的には、一位になることも十分考えられる。また、アフリカ諸国も人口の急増とともに生保マーケットも急成長を遂げるであろう。

人口動向は、生保マーケットに与える影響も大きく、マーケット予測等における主要な項目の一つと考えられることから、今後も引き続き、注視したい。
 
*1 アリアンツでは、「Allianz Global Insurance Report 2022」において、コロナ前は、保険マーケットにおいて中国が米国を超えるのは、2030年頃だとの予測する機関が多かったが、コロナ禍を経て、それは2050年頃になるのではないか、としている。
*2 試算にあたり、以下の前提を用いた。
(1) 2023年から2034年における米国、中国それぞれの「人口1人あたり保険料」ならびに平均増加率を算出。
(2) (1)で求めた「人口1人あたり保険料」の平均増加率について、米国は「2035年以降も同じ増加率が継続」と仮定。中国は、「中国の名目GDPは、2033年に米国の水準を一旦上回ることが予測され、2050年には再び米国が中
国を上回ることが見込まれている」(通商白書2022、P206)を参考に、「2050年までの16年のうち、前半8年はそれまでと同じ増加率が継続、以降(2050年以降も同様)は米国と同じ増加率で推移する」と仮定。
(3) (1)、(2)で求めた、米国、中国の「人口1人あたり保険料の将来値」と「2019年人口推計」、「2024年人口推計」に基づき、各年の生保収入保険料を算出。

保険研究部   上席研究員 兼 気候変動リサーチセンター 気候変動調査部長

有村 寛(ありむら ひろし)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険商品・制度

経歴

【職歴】
1989年 日本生命入社
1990年 ニッセイ基礎研究所 総合研究部
1995年以降、日本生命にて商品開発部、法人営業企画部(商品開発担当)、米国日本生命(出向)、企業保険数理室、ジャパン・アフィニティ・マーケティング(出向)、企業年金G等を経て、2021年 ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月より現職

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)

関連カテゴリ・レポート