◇ 宝くじのポートフォリオを作ってみる…
この最後の"宝くじのポートフォリオを作る"という買い方については、昨年の年末ジャンボ宝くじで、「
年末ジャンボ くじ購入の配分法-2つの宝くじからどのようにポートフォリオを組成する?」篠原拓也(ニッセイ基礎研究所, 研究員の眼, 2024年11月26日)のなかで検討したことがある。
今回は、同様の方法をドリームジャンボ宝くじに用いて検討してみよう。証券投資の世界でよく用いられる「現代ポートフォリオ理論」を、今回の2つの宝くじに当てはめる。
宝くじの場合、平均的には買うと損をするものであり、期待収益率はマイナス50%程度となる。これをそのまま理論に当てはめても、結果の解釈は困難と考えられる。そこで、リスクとリターンの考え方について何か工夫が必要となる。
まずリターンについて。宝くじのリターンとは何だろうか? 一言でいえば、1等と前後賞の合計の当せん金額と言ってよいだろう。そこで、ドリームジャンボは5億円、ドリームジャンボミニは5000万円とする。
つぎに、リスクについて。これは、リターンに対応して、1等と前後賞の標準偏差、つまり、1等と前後賞の当せん金を受け取る場合のブレをリスクとみなすことにする。
具体的には、くじ1枚に対して、1等の賞金を前後賞の分も合わせて、ドリームジャンボは5億円、ドリームジャンボミニは5000万円とみなし、2等以下(1等の組違い賞を含む)の当せん金はすべてゼロとしたうえで、その標準偏差を計算してこれをリスクとする。(実際には、くじを連番で3枚買う場合、1等の前後賞だけが当せんするといったことも起こりうるが、話を簡単にするために、そうした一部分だけの当せんは考慮しないでおく。)
このように単純化して、リターンとリスクを設定したうえで、話を進めていく。2つの宝くじをある比率で購入するポートフォリオで、リスクとリターンの関係がどうなるかを図に表してみて、その中からできるだけ左上のほうに位置するポートフォリオを選ぶ ―― これが、現代ポートフォリオ理論の考え方をもとにした、今回の宝くじ購入の配分法の核心部分だ。
次の図では、まず、右上の端点にドリームジャンボ、左下の端点にドリームジャンボミニがくる。そして、2つの宝くじへの配分割合(ドリームジャンボにr、ドリームジャンボミニに(1-r) (0≦r≦1) 配分)をいろいろ変えていった場合のポートフォリオの点がその間に並ぶ。それらを表したものが、黄色の曲線のグラフだ。なお、2つの宝くじは独立に行われるとして、相関関係はないもの(相関係数はゼロ)と想定している。
ドリームジャンボだけを購入した場合が赤い点、ドリームジャンボミニだけを購入した場合が紫色の点に相当する。
ドリームジャンボのリスクは15万8114円、リターンは5億円。一方、ドリームジャンボミニのリスクは5万円、リターンは5000万円だ。これらの金額は、図の中では、(15万8114円, 5億円)とか、(5万円, 5000万円)といった感じで、中学校の数学で習う座標平面の(x座標, y座標)のように表示している。
茶色の点は、r=0.09の場合で、リスクを最小にしたもの、つまり1等と前後賞の当せん金の受取額のブレを最小にしたものだ。投資理論では、「最小分散ポートフォリオ」と呼ばれる。
これは、あるお金を全てつかって2つの宝くじを買う場合に、とにかくリスクをできるだけ減らしたいという場合の買い方だ。「最小分散」のときには標準偏差が最小となり、リスクが最も小さくなる。
つまり、リスクを最小にしたいのならば、ドリームジャンボとドリームジャンボミニの配分割合を9%と91%の割合で買えばよいという結果になる。
この場合、リターン、つまり1等前後賞合わせての当せん金は9050万円となる。リスクの大きいドリームジャンボには9%しかお金を投入しないため、1等前後賞のリターンは9050万円にとどまることとなる。まさに、ローリスク・ローリターンとなっている。ただし冷静に見れば、ローリターンと言っても9050万円ものリターンであり、十分に大きな金額と言えるだろう。
◇ それでは、どのようなポートフォリオが効率的か?
つぎに、このグラフで曲線に原点から接線を引いてみる。青い線がそれにあたる。この青い線は「資本市場線」といわれるもので、安全資産が存在するときの「効率的フロンティア」とされる。
そのココロについて、簡単に見ておこう。まず、原点は、リスクもリターンもゼロ。つまり宝くじを買わない場合に相当する。この原点から曲線の方向に向けて進む —― つまり、宝くじを買ってリスクとリターンをとる方向に踏み出すわけだ。
ここで、原点から曲線に向けて接線を引くことは、「曲線上の点のうち、できるだけ左上のほうを目指すとしたらどこがそれに該当するか」を考えていることになる。左上というのは、小さいリスクで大きなリターンを目指すことを意味する。
青色の点は接点で、「接点ポートフォリオ」といわれる。(この後に出てくる安全資産への投資を考えずに) ドリームジャンボとドリームジャンボミニだけでポートフォリオを組んだ場合に、リスクとリターンのバランスが最も効率的なポートフォリオとなる。
ここで、「効率的なポートフォリオ」というのは、「同じリスクに対して、よりリターンの大きいポートフォリオ」あるいは「同じリスクに対して、よりリスクの小さいポートフォリオ」を意味する。効率的なポートフォリオのうち、リスクに対するリターンの割合が一番高くなるものが、「最も効率的なポートフォリオ」となる。最も効率的なポートフォリオが接点ポートフォリオというわけだ。
ざっくり計算したところ、この点はr=0.5に相当していた。これは、ドリームジャンボとドリームジャンボミニを50%ずつの割合で買えば、リスクに対するリターンの比率が最も高くなる、ということを意味している。
この接点ポートフォリオの場合、リターンは2億7500万円となる。
◇ 安全資産を加味したうえでの効率的なポートフォリオとは?
ただし、効率的なポートフォリオは、接点ポートフォリオだけに限られない。
青い線は安全資産が存在するときの効率的フロンティアであり、この青線上でポートフォリオを組成すれば、いずれも効率的なポートフォリオとなる。
ここで、安全資産とは、その名前のとおりリスクのない安全な資産のことだ。本稿の場合は、安全資産とは、宝くじを買わずに残しておくお金を指すものと考えられる。
そこで例えば、10万円のお金を持っていた場合、6万円をくじの購入にあてることにして、3万円分のドリームジャンボ(くじ100枚)と、3万円分のドリームジャンボミニ(くじ100枚)を買う(50%ずつの割合)。そして残り4万円はくじを買わずに残しておく、といったことが考えられる。このお金の配分法に相当するポートフォリオは、図では、緑色の点となる。
緑色の点は、青線上にあるが、黄色の曲線からは左上側に離れている。これは、曲線上で同じリスクのポートフォリオを組む場合と比べると、より高いリターンが得られることを意味している。
このように、宝くじを買わずにお金を残しておくこと(原点)と、接点ポートフォリオ(青色の点)の間で、効率的なポートフォリオを作ることができるわけだ。
くじを総額でいくら買うか、いくら残しておくかということは、「どれだけリスクをとるか」ということなので、買う人のリスク選好しだいとなる。
◇ 宝くじをどう買うかは、人それぞれ
以上、ポートフォリオについていろいろ検討してきたが、つまるところ、くじの買い方は人それぞれだ。これが正解といえるものはない。ただ、このようにいろいろ考えてくじを買うところから、すでに宝くじの楽しさは始まっているといえる。
今年のドリームジャンボ宝くじは、5月8日(木)から6月6日(金)まで発売され、抽せん日は6月18日(水)とされている。発売期間は、約1ヵ月ある。
くじを買ったあとは、抽せん日まで、「もし5億円が当たったら…」、「○○万円の当せん金を手に入れたら…」などと夢想して、ドキドキ感やワクワク感を存分に味わう。そうすることで、五月病が吹き飛んでしまえばしめたものだ。
ドリームジャンボ宝くじを買って夢を描いてみるのもよいように思われるが、いかがだろうか。
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