コラム

トランプ関税で激動の展開をみせる米中摩擦-中国は視界不良の難局にどう臨むか

2025年04月23日

(三浦 祐介) 中国経済

1――3カ月で激動の展開をみせる米中摩擦

2025年1月20日の第2次トランプ政権の発足以降、わずか3カ月で米中摩擦は急展開を見せた。

最たるものは、関税合戦だ。その主な経緯は図表1の通りである。発足後間もなく、2月4日にフェンタニル問題への対応不足を理由に、中国に対して対中輸入全額に対して10%の追加関税を課し1、翌3月3日にはさらに10%の追加関税を発表した。第1次トランプ政権の際には、17年に発足してから1年後に追加関税措置が発表されたのに比べ2、政策執行のスピードが格段に速くなっていることが分かる。ここまでの段階では、中国側は様々な対抗策を組み合わせて報復を実施したものの、報復関税の対象をエネルギーや食糧などを中心にピンポイントに絞るなど抑制的な対応にとどまっていた。米国側がどのように応じるか様子見していたものと思われる。

中国側の姿勢に変化がみられたのは、全世界ほぼ全ての国を対象とした10%の相互関税発動の発表(4月2日)だ3。同関税については、一部の国に対してさらに関税が上乗せされ、中国は34%とされた。その結果、2月からの累計では54%となり、トランプ大統領が選挙戦時に公約で掲げてきた60%とほぼ同じ水準まで上昇した。これに対して、中国はそれまでとは異なり、対米輸入全額を対象に同等の税率で報復措置を実施した。これを受けて、米国はそれに対する報復措置(50%、累計104%)を発動し、間を置かずに中国も報復措置を発動、さらに米国も報復措置(当初発表では累計125%だったが、後に累計145%に訂正)するなど、わずか1週間の間で激しい関税合戦が展開された4
 
1 事前の発表ではメキシコとカナダも対象とされていたが、1カ月間発動が延期された。
2 通商法201条に基づくセーフガード措置として、2018年1月に洗濯機と太陽光パネルを対象とする追加関税の発動が発表された。
3 このほか、中国を含む全世界から輸入する鉄鋼・アルミおよび自動車を対象とした製品別の追加関税も3月から4月にかけて発動した。製品別関税に関しては、半導体や医薬品が次の対象として検討されており、パソコンやスマートフォンを含む半導体関連製品は相互関税の適用対象外とされた。
4 この間、関税合戦以外の動きもみられた。例えば、香港企業(CKハチソン)によるパナマ運河の港湾運営を巡り、米国がパナマ政府に圧力をかけた結果、25年3月に香港企業が米国系投資ファンド等によるコンソーシアムへの売却を決めた。中国側はこれに反発し、当該売却案件に関する調査を実施する等の措置をとり、売却契約の実行が延期となった。また、バイデン前政権時に開始された301条調査の結果に基づき、中国で建造された船舶が米国の港湾に入港する際に追加料金を課す等の措置をとる方針を25年2月に発表(4月17日には、その半年後から実施すると発表)した。

2――関税合戦にはいったん歯止め。注目される今後の米中交渉

2025年4月上旬に関税合戦はエスカレートしたが、双方への関税が累計100%を越えたタイミングで、中国側はさらなる関税合戦には応じない考えを示した。輸入額以上の関税が課せられ、そのコストを負担、あるいは転嫁してまで貿易取引を行うことは多くの財で非現実的となることが予想されるほか、さらなる対米輸入関税の賦課により中国自身への悪影響も大きくなることから、合理的な対応と判断できる5。今後は、同10日に発表した米国の映画輸入の削減など、非関税措置による対抗へと軸足を移す構えのようだ。

その後、米国側から追加関税の発動はなされていない。米国の関税政策を巡っては、相互関税の対象から外された半導体関連製品や医薬品に対する財別の追加関税の検討が進められるなど、先行きは依然として不透明だが、米中の関税合戦に限っていえば、応酬には歯止めがかかっている。今後は、米中間の通商交渉や首脳会談がどのように展開するかが注目されるが、その行方は視界不良だ。両国の会談は、政権発足前の首脳間の電話会談以降、散発的な閣僚級対話にとどまり6、実質的な進展は見られない。ただ、米中ともに交渉を開始させたい考えはあるとみられ7、関税合戦の一服を経て、現時点では協議を行うための条件を詰め始めた段階にあるようだ8。G20やAPECなど国際会議の場で接点を持ちながら、交渉開始に向けた地ならしを進め、双方の報復関税を引き下げてから交渉を始めるといった展開もあるだろうが、交渉がいつどのようにスタートするか、現時点ではまだ見通すことができない。
また、交渉が始まった後も、合意に至るまでには相当な紆余曲折が予想される。交渉の争点が多岐にわたり、かつ根深いためだ。例えば、米国通商代表部(USTR)が25年3月31日に発表した「外国貿易障壁報告書(2025年版)」では、中国について最も多い48ページを割き、第1弾合意で中国が約束した対米輸入拡大の未達(図表2)をはじめとする広範な問題を指摘しているほか、同報告書に記載された事項以外に、人民元為替レートやフェンタニル、TikTokなどの問題もある。これに対して、中国は「フェンタニル類物質規制白書」や「中米経済貿易関係の若干の問題に関する中国側の立場」等を発表し、中国側の見解を主張している。これらのペーパーは交渉に先駆けて発表したものである点は割り引いてみる必要はあるものの、米国側からの指摘に対して、真っ向から反論する内容となっている(図表3)。落としどころを探るのは容易ではないだろう。前回の第1次トランプ政権時と比べ、米国の関税政策の規模は大きいため、米国経済への影響の大きさが交渉の追い風になる可能性がある一方、米国は日本をはじめ他の国とも通商交渉に乗り出しており、交渉キャパシティの面で制約が生じる恐れもある。前回の米中交渉は、18年5月に開始した後、約1年半かけて、翌19年10月にようやく第1弾合意に至ったが、今回の交渉には果たしてどの程度の時間がかかるのか、これもまた見通すことができない。
 
5 中国側は、「米国側がさらに高い関税を課したとしても、既に経済的な意義はないうえ、世界経済史における笑い話となるだけである。現在の関税の水準では、米国の対中輸出商品が市場で受け入れられる可能性は既にない。米国側が関税の数字遊びを続けた場合、中国は相手にしない」と説明している。
6 習近平氏とトランプ大統領による電話会談(2025年1月17日)の後、王毅氏とルビオ国務長官による電話会談(同1月24日)、何立峰氏とベッセント財務長官によるオンライン会談(同2月21日)、何立峰氏とグリアUSTR代表によるオンライン会談(同3月26日)が実施されている。
7 中国側は、これまでの関税合戦を通じ、米国側が貿易摩擦をエスカレーションさせるのであれば、「断固として対抗し、徹底的に付き合う」との強硬姿勢を強調する一方、対話や協議を通じた問題の解決を目指す考えも一貫して主張している。また、4月16日には、通商分野での実務経験が豊富な李成鋼氏を通商交渉の代表に充てる人事を発表している。米国側も、累計145%の対中関税を発動した後も含め、トランプ大統領が中国との協議に対して前向きな発言を繰り返している。
8 Bloomberg News.「中国、協議に応じる用意-米国が敬意示し交渉責任者指名なら」.『ブルームバーグ』、2025年4月16日. https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2025-04-16/SUSY7ZT0AFB400.

経済研究部   主任研究員

三浦 祐介(みうら ゆうすけ)

研究領域:経済

研究・専門分野
中国経済

経歴

【職歴】
 ・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
 ・2009年:同 アジア調査部中国室
 (2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
 ・2020年:同 人事部
 ・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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