2025年4月15日、公正取引委員会(以下、「公取委」)は、Google LLCに対して、独占禁止法19条(不公正な取引方法12項(拘束条件付取引))の規定に違反する行為を行っているものとして、排除命令を行った
1。
それでは具体的に事案を見ていこう。
前提としてGoogleはAndroidというスマートフォンのOperating System(OS、スマートフォンを動かす基本となるソフト)を提供している。スマートフォンのOSには、他にはAppleのiPhoneを動かすiOSがある。日本ではiPhoneのシェアが46.6%で、Androidのシェアは53.4とされている
2。Androidのスマートフォンメーカーは自社が直接または代理店を通じてスマートフォンを販売すると同時に、移動通信事業者(docomo、au、Softbankなど)にも販売し、移動通信事業者は自らまたは代理店を通じてスマートフォンを販売している。
そして、問題となる行為としては、Googleがスマートフォンメーカーおよび移動通信事業者(以下、「スマートフォンメーカー等」)と提携し、出荷時および販売後において、(1)スマートフォンのホーム画面上にGoogle検索枠(検索ウィジットという)や検索アプリを実装させ、かつ(2)同じくホーム画面上にインターネットブラウザであるChromeを実装させていることだ。Chromeの一般検索サービス
3機能としてGoogle検索が実装されている。
これには二つの事情がある。まず一つ目はスマートフォンメーカー等にとって、アプリストアであるGoogle Playがスマートフォンにインストールされている必要があるためだ。スマートフォンの価値は、どの程度多様多彩なアプリがインストール可能かという点にあり、人気アプリをインストールできないスマートフォンはガラケーと大差はない。GoogleはGoogle Playをインストールさせる条件として、上述したGoogle検索の実装を求めており、スマートフォンメーカー等はこれに従わざるを得ない。なお、アプリストアには両面ネットワーク効果があるとされ、ユーザーが増えればアプリ事業者が増え、アプリ事業者が増えるとユーザーが増えるという関係にある。一度巨大なアプリストアが成立すると、他の事業者は競争力のあるアプリストアを構築することは極めて困難となる。
もう一つはGoogleがスマートフォンメーカー等に対し検索広告サービスの収益を一部分配する契約を締結していることだ。この契約に基づいて検索広告の一部収益を受け取るためには、スマートフォン販売後も他の一般検索サービスをスマートフォンに実装させないことが規定されている。
Google検索がプリインストールされている場合には、多くの人が他の検索サービスへ変更しない傾向がある。また、スマートフォンメーカー等にとってはGoogle検索を変更不可能な仕様とすることで検索広告の利益分配を受けることができる。
この結果、他の一般検索サービス事業者は自社サービスをAndroid端末に実装されることが困難になっており、これが排除命令の根拠となっている。そして、排除されるべきものとしては、上記で述べた二つの事情、すなわち、出荷時にGoogle検索を排他的に実装すべきこととし、かつ販売後も利用者において他の一般検索サービス事業者のサービスに乗り換えさせないことにかかわる行為・契約である。これらの独占禁止法違反行為を是正するために一定の行為をなすべきことを公取委は命じている(詳細は省略)。
ちなみに、米国では、2024年8月にコロンビア特別区連邦地裁で、Googleのインターネット検索・広告市場での独占を維持するため行っている反競争的かつ排他的な慣行が、反トラスト法に違反するとの判決が下っている。公取委の排除命令との相違は、米国ではAppleのiPhoneにも収益分配契約を通じて、排他的なGoogle検索の実装を行っていることを認定した点だ。Android端末とiPhoneとを合わせると米国内で販売されるほとんどのシェアを独占している。そのような市場での排他的行為が反トラスト法違反(シャーマン法2条。日本での私的独占の禁止(独禁法3条)違反に相当)と認定されたものだ
4。なお、依然、Googleは争う姿勢を示しており、本訴訟の結果は確定していない。
公取委が、いわゆるGAFAに対して正式な処分を行ったのは初めてだ
5。外交面からみても交渉力格差のある米国の重要企業であるビッグテックに切り込んだ公取委の努力は相当なものであったと推察する。他方で、不公正な取引方法に基づく排除命令を発出するにとどまり、米国のように課徴金や刑事罰の可能性もある私的独占の禁止に踏み込めなかった。国内事業者に対してすら私的独占の認定が困難な中で、同様の判断を求めるのは現実的に難しいとも言えるが、残された課題となろう。