コラム

税制改正でふるさと納税額はどうなる?

2025年04月03日

(高岡 和佳子) リスク管理

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2025年(令和7年)分から、所得税の基礎控除等が引き上げられることが決まった。これにより、程度の差はあれ、多くの納税者は支払う税額が減少することになる。近年は1,000万人程度が利用するふるさと納税は、一定の上限額以下なら自己負担額2,000円で応援したい自治体(但し、総務大臣が指定する自治体に限られる)に寄付できる制度であるが、上限額は納税者の納税額によって決まる。そこで、今回の税制改正によるふるさと納税の上限額への影響を整理したい。
 
結論から言うと、ふるさと納税の上限額に影響がある利用者は限られる。大多数のふるさと納税利用者には影響が及ばないが、一部の利用者は上限額以下の寄付でも自己負担額2,000円に収まらない可能性がある。その理由を説明する前に、ふるさと納税制度の仕組みと上限額の決まり方について解説する。

ふるさと納税制度は、一定の上限額以下なら寄付額から2,000円を引いた金額の減税が受けられる制度である。減税分は所得税から減税される部分(以下、所得税の控除額)と住民税から減税される部分に分けられ、その割合は納税者の所得税率(0%~45%、別途復興特別所得税として所得税額の2.1%加算される)によって異なる。更に住民税から減税される部分は納税者の所得税率に関わらず一律10%の基本分と、納税者の所得税率に応じて調整される特例分に分けられる(図表1)。基本分は、総務大臣の指定を受けない自治体に寄付した場合や法令で定める公益を目的とする事業を行う法人等に寄付した場合でも適用され、特例分が指定を受けた自治体への寄付のみに適用される。所得税の控除額も、総務大臣の指定を受けない自治体やその他法令に定める団体に寄付した場合も適用されるので、ふるさと納税制度は、総務大臣が指定する自治体に寄付した場合にのみ住民税(特例分)の控除も受けられる制度と言える。

そして、住民税(特例分)の控除額には、住民税額の2割という上限が設定されており、これが上限額の基準となる1
さて、今回の税制改正のうちニュースで話題になった基礎控除の引き上げと給与所得控除の最低保証額の引き上げが、ふるさと納税の上限額に与える影響を考える2。まず、殆どの納税者(合計所得金額が2,350万円以下)が基礎控除の引き上げによる減税を享受するが、その影響が及ぶのは所得税のみである。このため、基礎控除が引き上げられても住民税額は変わらず、一定の上限額の基準である住民税額の2割も変わらない。一方、給与所得控除の最低保証額の引き上げによる影響は所得税に止まらず住民税にも及ぶので住民税額は減り、一定の上限額の基準である住民税額の2割も減る。しかし、給与所得控除の最低保証額の引き上げによる減税の恩恵を受けるのは、給与所得が190万円以下の給与所得者に限られる。所得が高いほどふるさと納税の利用率は高いので、ふるさと納税利用者の大多数には影響が及ばないと考えられる。
 
先に記した通り、所得税の控除額の割合は納税者の所得税率に依存し、それに対応して住民税(特例分)の割合が調整される。納税者の中には基礎控除の引き上げに伴い所得税率が下がる人もいるが、その場合はどうなるのだろうか。住民税額が減らなくても所得税率の低下に伴いふるさと納税の上限が減るように思うが、実は減らない。ただし、上限額以下の寄付でも自己負担額2,000円に収まらない可能性がある。住民税(特例分)の控除額を計算する上で、当該納税者の所得税率を推定する仕組みがあるのだが、その仕組みが今回の改正に対応していないからである。所得税率は、所得税の課税所得額が閾値(195万円、330万円、695万円、900万円、1,800万円,4,000万円)以上になる度に上がる仕組みである。改正前の所得税制で課税所得額が閾値を基礎控除の引き上げ相当額程度上回る納税者は、今回の改正により所得税率は下がり、所得税の控除の割合が減る。しかし、所得税率を推定する仕組みが基礎控除額の拡大に対応していないため、実際より高い税率を前提に住民税(特例分)の控除額が低く計算される。結果として、一定の上限額以下の寄付でも寄付額から2,000円を引いた金額の減税を受けることができなくなるのである。
 
意図せずとも結果的に、一定の上限額以下の寄付でも自己負担額が2,000円に収まらないピットフォールともいうべき領域が、所得税率が変化する課税所得額(閾値)の近傍に発生する。正しくは、ピットフォールは今回の税制改正以前から存在しており、今回の改正によりピットフォールが広がる。次回は、ピットフォールが発生する具体的な原因を整理し、望まれる改良案について検討したい。
 
1 所得税の控除額および住民税(基本分)の控除額にも上限はあるが、総務大臣が指定する自治体にのみ寄付し、かつ住民税(特例分)の控除額が住民税額の2割に収まっている限り気にする必要はない。
2 特定親族特別控除の適用対象者は、所得税額・住民税額ともに減少するため、給与所得控除の最低保証額の引き上げと同様の影響があり、かつ後述する自己負担額2,000円に収まらない可能性を高める効果もある。
 年齢23歳未満の扶養親族を有する場合の生命保険料控除の特例の適用対象者は、所得税額のみ減少する為、基礎控除の引き上げと同様に直接的な影響はないが、後述する自己負担額2,000円に収まらない可能性を高める効果もある。
 また、住宅ローン控除については、納税額に対して借入額が大きい場合など、実質的上限額に影響を及ぼす可能性はあるが、当レポートでは検討しない。
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