欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

2025年04月01日

(中村 亮一) 保険計理

5|Aegon      
Aegonは、2023年9月30日に法定本籍地のバミューダへの移転が完了したと発表し、10月1日より、グループ監督者はDNB(オランダ中央銀行)から、BMA(バミューダ金融庁)に移管された。ただし、本社はオランダのままでオランダの税務居住者であり、Euronext Amsterdamとニューヨーク証券取引所(NYSE)での上場は継続されている。このグループ監督者の変更は、Aegonの資本管理アプローチに重大な影響を与えることはないと述べている。

2023年7月4日に、ASRへのオランダの年金、生命保険、損害保険等の業務の移管と統合が完了したとの発表により、Aegonはオランダで規制対象の保険事業を行わなくなったため、ソルベンシーII制度の下で、DNBがAegonのグループ監督者であり続けることができなくなった。一方で、バミューダにはAegonの子会社4社がある。バミューダの規制制度は、EUのソルベンシーII制度及び英国のソルベンシーII制度との同等性が認められており、さらには米国のNAIC(全米保険監督官協会)によって、適格管轄区域及び相互管轄区域としても指定されている。

なお、2027年の移行期間終了まで、Aegonのバミューダにおけるソルベンシー比率と剰余金は、ソルベンシーII制度の下でのものとほぼ一致したものとなるが、移行期間終了後にはバミューダのソルベンシー制度が完全に採用されていくことになる。

(1) SCR比率の推移
Aegonは、グループ全体のSCR比率の変動要因等について、2022年第3四半期までは四半期毎に分析結果を開示していたが、2022年第4四半期以降は、四半期及び半期毎に、地域別の分析結果を中心に公表してきている。

グループ全体のSCR比率、自己資本及びSCRの推移については、以下の図表の通りとなっている。
半期ベースでは以下の説明が行われている。

2024年上期末におけるSCR比率は、2023年末の193%から3%ポイント低下して、190%となった。

これは主に、2024年4月の7億ユーロのグランドファザー条項付きTier 2証券の償還、新しい2億ユーロの自社株買いプログラム、発表された2024年の中間配当、及び以前に発表された中国の保険合弁会社であるAegon THTF Life Insurance Companyの自己資本の代替可能性15に伴うヘアカット(fungibility haircut)を反映している。保有資金と運営費用差し引き後の資本創出は9億ユーロだった。これには、主に米国による1.4億ユーロのプラスの影響を伴う市場動向が含まれている。さらに、一時的項目は2.92億ユーロと好調で、特に米国での経営行動の影響が含まれ、またASR持分からのプラスの影響も反映された。

また、2024年末のSCR比率は、2024年上期末の190%から2%ポイント低下して、188%となった。

これは、提案された2024年の最終配当、新しい1.5億ユーロの自社株買いプログラム、及びAegon THTF Life Insurance Companyの自己資本の代替可能性に伴うヘアカットを反映している。保有資金と運営費用差し引き後の資本創出は 5.9億ユーロだった。これには、主に米国における1.47億ユーロのプラスの影響を伴う市場動向が含まれている。さらに、一時的項目は0.67億ユーロのマイナスで、特に第3四半期の米国における経営行動のマイナスの影響が含まれ、一方でASR持分からのプラスの影響も反映された。
 
自己資本とSCRの地域別の内訳は、以下の図表の通りとなっている。
なお、米国のRBCをソルベンシーIIに転換する手法については、移管契約の一部として、BMAと合意してきた、としている。これによれば、移行可能性15の制限を反映して、自己資本はRBC CAL(会社行動段階)の100%(毎年再評価)、必要資本はEIOPA(欧州保険年金監督局)のガイダンスに従って、RBC CALの150%に増加させられる。また、米国の持分項目についての調整には、主としてバミューダのキャプティブや規制対象外会社が含まれている。
 
15 グループのソルベンシーの算出においては、子会社の一定の自己資本がグループによって有効に利用可能となりうるかどうかを検討する必要があり、「代替可能性」(特定の損失を吸収するためにのみ提供されているかどうか)や「移行可能性」(ある会社から別の会社へ自己資本項目を移転することに重大な障害があるかどうか)が判断基準になっている。
(参考)地域別のソルベンシー比率
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。
1) 英国(Scottish Equitable plc)のソルベンシーII比率
2023年末の187%から2024年上期末の189%に2%ポイント増加した。事業資本創出によるプラスの影響は、グループへの中間配当のための送金による影響でほぼ相殺された。

また、2024年上期末の189%から2024年末の186%に3%ポイント減少した。事業資本創出と年次前提更新によるプラスの影響は、送金、以前に発表されたモデルの改良及び事業改善のための投資を含むいくつかの小規模な一時的項目によるマイナスの影響によって相殺された。

2) 米国のRBC比率
2023年末の432%から2024年上期末の446%に14%ポイント増加した。2024年上半期の市場動向はRBC比率に11%ポイントのプラスの影響を与えたが、これは主に金利の上昇と株式市場の好調、及び不良債権の回収が好調だったことが要因である。一時的項目と経営行動は5%ポイントのプラスの影響を与えたが、その中で年次の保険数理上の前提とモデルの更新、分散ファクターの変更、及び再編費用が相殺され、プラスの影響をもたらした。RBC枠組みを適用している事業体からの事業資本創出は、RBC比率に16%ポイントのプラスの寄与をもたらしたが、これはホールディングスへの送金によって相殺された。

また、2024年上期末の446%から2024年末の443%に3%ポイント減少した。この減少はいくつかの要因によって引き起こされた。まずは、以前に機関所有者から購入したユニバーサル生命保険のポートフォリオが終了したことに伴い、これらの保険の取得のために使用された株式資金の一部が返済されたことにより、RBC比率に8%ポイントの一時的なマイナスの影響があった。次に、一時的項目と経営行動により、報告期間中にRBC比率が8%ポイント低下した。これは主に、新しい個人生命保険運用モデルの導入による再編費用と、自社の従業員年金制度への拠出金から生じた。 2024年後半、市場動向はRBC比率に8%ポイントのプラスの影響を与えた。これは主として金利の上昇による好影響で、株式と金利のクロス効果と再保険担保に対する金利の影響等によって一部が相殺された。RBC枠組みを適用している事業体からの事業資本創出はRBC比率に21%ポイントのプラスの貢献をしたが、これは16%ポイントの影響を及ぼしたホールディングスへの送金によって部分的に相殺された。

(2) 感応度の推移
Aegonの感応度については、2023年からはグループ全体ではなく、英国のソルベンシーIIと米国のRBC及びソルベンシーII相当に対するもののみが公表されている。そこで、以下の図表では、2021年末からは、グループ全体ではなく、英国と米国のソルベンシーII相当の数値に対する感応度を示している。

これによると、金利や信用スプレッドに対する感応度は、2022年末以降、基本的には大きくは変動していない。ただし、米国においては、変額年金の準備金の下限設定とDTAs(繰延税金資産)の不認容によって、市場動向に対する感応度が高まっており、2024年末の株式市場の上昇と下落に対する感応度がともにマイナスで大きな感応度となり、米国の信用リスクに対する感応度も大きなものとなった。

なお、2023年末以降については、2022年末までとは異なるシナリオで、信用デフォルトと信用格付けに区分して、影響を開示しているので、2022年末までの数値との単純比較はできないことに注意が必要である。
また、感応度の算出に関して、現実の市場への影響(例えば、金利の低下や株式市場の下落)が同時に発生する可能性があり、それはより深刻な複合的な影響につながる可能性があり、表に示されている個々の感応度の合計と等しくない場合がある、と説明している。

また、米国の感応度においては、DTAsについて、特定の不利なシナリオの下で、該当する場合、DTAsの一部が認められなくなる可能性があり、これを反映している。これにより、DTAsが全て認められる場合に比べて、感応度が高くなっている、なお、DTAsは時間の経過とともに回復可能である。実際に米国のRBC比率においては、DTAsの一部が認められなかった。

(3) トピック
Aegonの2024年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2024年2月26日に、2023年7月21日に公表された、インドの合弁会社であるAegon Life Insurance Companyの株式56%のインドの金融サービス会社であるBandhan Financial Holdings Limitedへの売却が完了し、インドの合弁事業から撤退した、と発表した。

2024年3月19日に、4%の固定‐変動劣後債16(fixed-to-floating subordinated notes)を7億ユーロ償還する権利を行使すると発表した。これらのTier 2証券の償還は2024年4月25日から発効し、その時点で元本総額7億ユーロが未払利息と合わせて返済されることになる。

2024年4月10日に、固定クーポン5.5%、期間3年の7億6,000万米ドルのシニア無担保債の価格設定に成功した、と発表した。この発行による純収益は、2024年4月25日付けでの、固定から変動への劣後債7億ユーロの償還を含む、一般的な企業目的に使用される。

2024年5月16日に、2億ユーロの自社株買いプログラムを発表した。なお、2024年12月16日に、この自社株買いが完了したことが発表された。Aegonは、買い戻した株式を2024年12月に消却した。

2024年7月1日に、15億3,500万ユーロの自社株買いの完了を発表した。2023年7月6日に発表されたとおり、自社株買いのうち15億ユーロは、Aegon the NetherlandsとASRの合併取引に関連している。2024年4月9日に、上級管理職向けの株式報酬プランに関連して、この自社株買いが3,500万ユーロ増加したことを発表していた。

2024年7月1日に、Royal LondonがAegonからの英国の個人保障ブックの譲渡を完了したと発表した。この取引は、2023年4月4日にAegonが発表していた。この取引により、約40万人の顧客を対象とした生命保険、重度疾病、所得補償保険がRoyal Londonに移管された。

2024年7月8日に、2024年5月16日に発表された2億ユーロの自社株買いを開始し、不測の事態がない限り、2024年12月13日に完了する予定だと発表した。

2024年11月15日に、1.5億ユーロの自社株買いを発表した。これは2025年6月末までに完了する予定である。
 
16 一定期間、一定額の利息を支払った後、変動金利債に変わる劣後債
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