欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

2025年04月01日

(中村 亮一) 保険計理

1|AXA
(1) SCR比率の推移
2024年末のSCR比率は、2023年末の227%から11%ポイント低下して、216%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・営業利益等による通常の自己資本の形成で+28%ポイント

・(為替を含む)市場の影響で▲13%ポイント(国債スプレッドの拡大による金融市場の悪影響による)

・配当金と自社株買いで▲22%ポイント(これらは、総配当性向75%を実現するという資本管理政策に沿って、2025年に一株当たり2.15ユーロの配当 (47億ユーロ)を支払うこと及び自社株買い(12億ユーロ)の引当が含まれている。)

・規制/モデル変更による影響は▲1%ポイント

・その他の、経営行動、劣後債等による影響は▲3%ポイント(劣後債の償還等)
また、自己資本とSCRへの影響は、以下の図表の通りとなっている。

自己資本は、574億ユーロから559億ユーロに15億ユーロ減少した。営業利益等で87億ユーロ(生命保険で39億ユーロ、損害補円で58億ユーロ、資産管理・持株会社等で▲10億ユーロ)のプラスとなったものの、市場の影響が16億ユーロのマイナス、配当支払いや自社株買いで59億ユーロのマイナス、各種の経営行動や3億ユーロの劣後債の償還による26億ユーロのマイナスがあったことによる。なお、2025年には、AXA Investment Managers(AXA IM)のBNP Paribas への売却完了を見越して、38億ユーロの自社株買いを開始する予定となっている。

SCRは、ビジネス進展と市場の影響により、253億ユーロから259億ユーロに6億ユーロ増加した。
(2) 感応度の推移
2024年末においては、2023年末に比べて、(2021年末から2023年末にかけてと同様に)金利の感応度が低下した一方で、株式の感応度が一部若干増加したが、基本的にはあまり変化はなかった。

2020年末から、ユーロソブリンスプレッド(ユーロソブリン債とユーロスワップレートの差)とクレジット削減(社債の20%が3ノッチ格下げされる前提)に対する感応度が新たに開示されており、2024年末には、前者が+50bpsで▲10%ポイント、後者が▲4%ポイントとなっている。さらに、2022年末から、インフレーションスワップ4カーブ+50bpsに対する感応度が開示され、2024年末には▲6%ポイントとなっている。
 
4 インフレーションスワップは、一方の当事者が固定支払いと引き換えにインフレリスクを取引相手に移転する取引
(3) トピック
AXAの2024年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2024年1月10日に、15億ユーロの制限付Tier1債券の発行に成功したことを発表した。

2024年2月24日に、2月23日付で、投資サービスプロバイダーと、最大16億ユーロの自社株買いプログラムに関連した株式買戻し契約を締結したと発表した。なお、この契約については、2024年5月8日にAXAが買い戻す自社株の最大額を2億ユーロ増額するとの修正が発表された。この修正後の自己株取得プログラムは2024年6月13日に完了した。また、取得した全ての株式が消却された。

2024年2月26日に、2つのシリーズの劣後債((1)2006年7月6日発行の3億5,000万英ポンド変動金利固定・無期限超劣後債(Undated Deeply Subordinated Notes)、(2)2014年11月7日発行の7億2,392.5万英ポンド無期限超劣後債)に対する現金公開買い付けを発表した。

2024年5月3日に、2022年7月14日に公表されたAthoraとのAXA Germanyにおける閉鎖された生命保険及び年金ポートフォリオの売却契約を解除することに相互に合意した、と発表した。これにより、AXAは、十分な資本とデュレーションがマッチしたこのポートフォリオとそれに関連する収益を保持する、としている。また、AXA Life EuropeはNew Reinsurance Companyと約30億ユーロの変額年金準備金をカバーする再保険契約を締結した、と発表した。この取引により、2024年以降、基礎収益が年間約2,000万ユーロ減少することになるが、この収益の希薄化を、年末までに完了予定の2億ユーロの自社株買いで相殺する予定としている。また、自社株買いの影響を含むこの取引は、AXA GroupのソルベンシーII比率に約▲1%ポイントの影響を与えると想定されている。

2024年5月14日に、万国郵便連合(UPU)と郵便ネットワークを通じて包摂保険(inclusive insurance)5を推進するために協力すると発表した。世界中で15億人以上(世界の成人人口の約28%)が郵便ネットワークを通じて金融サービスにアクセスしており、世界の郵便局の53%は保険を提供している。UPUとAXAは、郵便ネットワークを通じて包摂保険を世界規模で拡大するための提携を締結し、共同研究から始まり、その後技術支援プログラムが続いていく、と述べている。

2024年5月30日に、2034年満期の7億5,000万ユーロのシニア債の発行を発表した。

2024年8月1日に、Gruppo Nobis(「Nobis」)の買収により、イタリアでの個人向け損害保険事業を拡大すると発表した。Nobis はイタリアの個人向け損害保険会社で、多角的な販売網の恩恵を受けており、複数の代理店や自動車ディーラーとの提携も行っている。Nobisは2023年に5億ユーロの総収入保険料と 3,500万ユーロの純利益を報告している。買収の初期対価は4億2,300万ユーロとなり、アーンアウト(Earn out)6は最大5,500万ユーロとなる見込みとしている。取引完了後、この取引はAXA GroupのソルベンシーII比率に▲1%ポイントの影響をもたらすと想定されている。

2024年8月2日に、AXA Investment Managers(AXA IM)をBNP Paribasに売却する独占交渉を開始すると発表した。これは、資産運用事業から撤退し、BNP Paribasとの長期投資運用パートナーシップを締結するという戦略的決定であり、事業モデルを簡素化し、中核の保険業務である、生命保険・貯蓄保険、損害保険、健康保険に重点を置くというグループ戦略をさらに強調するものであるとしている。取引総額は54億ユーロとなると予想されており、これは2023年の基礎利益の15倍に相当している。この取引は2025年第2四半期までに完了予定である。この取引の完了に伴い、年間基礎利益が約4億ユーロ減少し、一時的な純利益が22億ユーロ増加すると予想されている。また、売却による利益の希薄化のため、取引完了後に38億ユーロの自社株買いを開始する予定であると述べている。この取引とそれに伴う自社株買いのソルベンシーII比率に与える影響は中立的であるとしている。また、2024年12月22日に、AXA Investment Managersの売却に関してBNP Paribas との株式購入契約を締結したと発表した。この取引は2025年第2四半期末頃に完了予定である。

2024年9月11日に、増資による、従業員への株式割り当て(Shareplan 2024)を開始すると発表した。また、2024年10月3日に、このShareplan 2024に関連して、希薄化効果を排除するために、投資サービスプロバイダーと自社株買い契約を締結し、これにより、最大4億5,220万ユーロで自社株を買い戻し、消却する、と発表した。

なお、2025年に入ってからも、以下の資本取引等が発表されている。

2025年2月27日に、12億ユーロを上限とする自社株買いプログラムを発表した。この自社株買いプログラムによって取得した全ての株式を消却する予定である。
 
5 一般の保険市場の対象外、又は保険提供を十分に受けていない層を対象とする保険で、保険者から提供される保険や貯蓄性の商品に正規のプロバイダーを通じて有効なアクセスが得られるようにさせる保険商品
6 M&Aの対価の一部を、実行後の一定期間内に、M&A対象会社の業績指標等の事前に合意された目標の達成状況に応じて支払う規定
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