中国の不動産登記制度は近年、急速にデジタル化が進められている。特に、チャットアプリのWeChat
9を活用したオンライン申請の導入は、利便性の向上と、行政手続きの効率化に寄与した。現在、ほとんどの地域の不動産登記センターではWeChatによる公式アカウントを開設することができ、多くの市民がオンラインで不動産登記手続きを容易にかつ安全に進めることができるようになった。
さらに、クラウドサービスの活用により、「不動産登記電子証書」の発行が進められている。自然資源部は、2020年に「全国一体化オンライン政務サービスプラットフォーム電子証照不動産権証書」(C0203-2020)および「電子証照不動産登記証明」(C0204-2020)に係る制度を公布し、不動産登記の電子証書の構築を進め、クラウドサービスと不動産登記の連携を強化した
10。アクセス方法は各地により多少異なるが、権利者は「不動産登記センター」の公式WeChatアカウントを通じて電子証書の閲覧、ダウンロードができる。電子印章が押された不動産登記電子証書は、紙の証書と内容および形式が同じであり、法的効力も同等である。また、電子証書には改ざん防止機能が備えられ、登記データと同期することで常に最新情報が反映される。
加えて、近年ではAIによる不動産登記のスマート審査機能も導入されている。従来の手作業による人的審査だけでは、情報確認の誤りや漏れが発生する懸念があり、時間と労力がかかるという問題があったが、AIの導入により、大量のデータを迅速に処理できるようになった。前述の「暫定条例」第20条では、不動産登記機関は登記申請を受理した日から30営業日以内に不動産登記手続きを完了することが義務付けられている。2019年時点で通常の平均的な登記業務の処理時間は15日以内であるが
112022年からAIを導入した河北省雄安新区の不動産登記システムでは、スマート審査を通じて、不動産登記申請を受理後30秒以内に登記簿への登録が完了できるようになった
12。2024年導入の湖北省荊州市の不動産登記取引システムでも、住宅購入、抵当権登記などの通常登記業務がスマート審査を通じて、平均15秒以内で行われている
13。また、江蘇省常州市の不動産登記センターには、AIによる自動証書発行機も登場し、顔認証と音声対話で不動産権証書を迅速に取得できるようになった
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中国の不動産登記制度は、法制度の整備とデジタル技術の進展により、大きく進化している。一元化された不動産登記システムの整備により、権利関係の透明性の向上に加え、さらにAIやクラウド技術の活用によって手続きの簡素化と迅速化が実現されている。今後もデジタル化が進むことで、より効率的で利用者にとって利便性の高い不動産登記制度へと発展していくことが期待される。
次回は住宅の維持管理に関する修繕積立金や管理費の仕組みについて紹介する。
※ 本稿は2025年1月発行「月報司法書士」に寄稿したレポートを加筆・修正したものである。