■要旨
転職がミドルシニアに広がり、企業間で人材獲得競争が活発化すれば、働くミドルシニアから見ると、より「働きがい」や「働きやすさ」を実感できる職場に移るチャンスが増えていく可能性がある。そこで本稿では、ミドル(40歳代後半~50歳代前半)の直近の転職状況について、政府統計を用いて分析した。
まず、厚生労働省の「雇用動向調査」からミドルの転職者を職業別にランキングすると、40代後半では1位「専門的・技術的職業従事者」(開発・設計など)、2位「生産工程従事者」(生産工程で行われる仕事)、3位「事務従事者」の順だった。この三つの職業は、就業者数はほぼ同じだが、転職者数は1位と2位以下で差が開いていた。働く人に、専門技術や高度な職務経験があるかどうかで、転職機会に差がついていると考えられる。
40代女性の転職者数を職業別に見ると、1位は「事務従事者」。女性の場合、事務の就業者数が圧倒的に多いことが影響していると考えられるが、事務の中途採用を行った企業への調査では、採用理由の2番目に、「即戦力としての期待」が挙がっていたことなどから、事務の中でも、コーポレート職種のような専門スキルのある女性たちが多く転職していると考えられる。
50代前半男性は、そもそも団塊ジュニア世代で就業者数が多いこともあり、転職者数も40代後半より多い。職業別では、就業者数が3位の「専門的・技術的職業従事者」が転職者数1位となっており、やはり専門知識や技術があることが転職機会に関連していると考えられる。50代前半女性も、団塊ジュニア世代で40代後半女性より就業者は多いが、転職者数は少なかった。女性の場合、高度なスキルや職務経験がある人を除いては、一般的には50代では転職が難しくなるのが実態と言えそうだ。
また、いずれのカテゴリーでも「管理的職業従事者」(管理職)の転職者数は、就業者数の割に多く、やはり専門知識・技術や高度な職務経験の保有が、ミドルの中途採用では重視されていると言える。
一方、転職者数を産業別にランキングすると、いずれの性・年齢階級でも、人手不足の産業が概ね上位となっており、欠員補充のために中途採用を増やす企業が多いと考えられる。
転職によって賃金が増えたミドルがどれぐらいいるかを分析すると、性・年齢階級別では、「増加」が「減少」より多いのは、40代後半男性と50代前半男性。「減少」が多いのは、40代後半女性と50代前半女性だった。ただし女性の場合、転職の際に、賃金よりも、柔軟な働き方ができるかどうかを優先する人が多いと考えられるため、賃金面だけで評価することには限界がある。
産業別に、転職後の賃金変動の構成割合を見ると、「建設業」や「運輸業、郵便業」では概ね、賃金が増加した人の割合が、減少した人の割合よりも大きかったが、「医療、福祉」では概ね、減少した人の割合が大きいなど、同じように人手不足が深刻な産業であっても、賃金変動の状況には差があった。高度なスキルや経験を必要とする組織やポジションで求人を出す場合、転職者が条件を満たしていなければ、賃金は減少する可能性がある。
働く人の側から見れば、「人手不足だからミドルでも転職できるだろう」と安易に考えるのではなく、別組織でも応用できるスキルを養い、職務経験を積むことが重要だと言えるだろう。
■目次
1――はじめに
2――ミドルの就業状況
2-1│ミドルの人口と就業者数
2-2│就業者数の職業別ランキング
2-3│雇用者数の産業別ランキング
3――ミドルの転職状況
3-1│転職者数の職業別ランキング
3-2│転職者数の産業別ランキング
4――賃金アップした人が多いミドルの転職先
4-1│企業規模別にみた賃金変動の構成割合
4-2│産業別にみた賃金変動の構成割合
5――終わりに