就労世代の熱中症リスクと生活習慣~レセプトデータと健診データを使った分析

2025年03月28日

(村松 容子) 医療

4――熱中症受診が多いのは「女性」「睡眠による休養が取れていない」「運動習慣がある」

一般に、概ね筋肉(骨格筋重量)の80%、脂肪(脂肪組織重量)の50%を水分が占めている13とされており、筋肉量の低下が高齢者の熱中症リスクが高い理由の1つとされている。男女差については、女性の方が筋肉量が低い人が多いが、救急搬送される人や熱中症で死亡する人には男性が多い。その理由として仕事や運動で屋外で過ごす時間が長いことがあげられている14

そこで、同じデータの中から、18歳以上で、健康診断の結果が得られる人を抽出し、この7か月間に熱中症で受診したことを被説明変数とし、性別、年齢群、加入者本人か扶養家族かの別15、居住地の都道府県で4~10月でWBGTが30を超えた日数、BMIが25を超えること、運動習慣があること16、睡眠で十分な休養がとれていない17こと、4~10月の医療費、喫煙していること、毎日飲酒していることを説明変数としてロジスティック回帰を行った(図表5)。運動習慣があること、睡眠で十分な休養がとれていないこと喫煙していること、毎日飲酒していることは、健康診断や特定健診における問診の結果を使った。

その結果、男性を1.00とすると女性は1.17で、男性の熱中症になりやすさと比べて女性は1.17倍と高かった。年齢群では18~24歳と比べて25~39歳では0.58倍、40~64歳で0.57倍と低かった。健康診断の結果が取得可能な18歳以上に分析対象を限定したことでやや図表4とは違いがあるが、成人以上では女性の受診率の方が男性より高く、若年と高年齢で受診率が高い傾向は同じだった。性・年齢群以外の特徴をみると、運動習慣がある人と比べてない人は0.85倍と低く、睡眠で十分な休養がとれている人と比べてとれていない人では1.45倍と高かった。

医療費が高い人で受診する人が多かったことから、持病がある等、受診する機会が多い人や、持病がなくても体調不良等で受診をする傾向がある人が、熱中症においても受診すると考えられる。運動習慣については、筋肉量は運動習慣がある方が維持・増強すると考えられるが、今回の結果では、運動習慣がある人の方が熱中症による受診が多かった。これは、前述のとおり、屋外での活動時間が長くなる影響が考えられる。

その他、加入者本人か扶養家族かの別、BMIが25を超える、喫煙、毎日飲酒しているかどうかでは有意な差は見られなかった。
 
13 環境省「熱中症環境保健マニュアル2008」Ⅲ.熱中症を防ぐためには(https://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/manual/003-2.pdf、2025年1月20日アクセス)
14 国立環境研究所 環境儀No.32「熱中症の原因を探る」研究者に聞く!!(2009年4月)(https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/32/32.pdf、2025年1月20日アクセス)
15 健康保険の加入者本人とその配偶者がメインとなる。
16 「1回30分以上の軽く汗をかく運動を週2日以上、1年以上実施している」に対する回答で区分した。
17 「睡眠で休養が十分とれているか」に対する回答で区分した。
18 ある事象の起こりやすさを2つの群で比較した統計学的な尺度。オッズとは、ある事象が起きる確率pの、その事象が起きない確率(1 − p)に対する比のことで、オッズ比とは二つのオッズの比のこと。

5――熱中症予防に向けて情報が蓄積されることを期待

5――熱中症予防に向けて情報が蓄積されることを期待

以上のとおり、75歳未満のレセプトデータと健診データを使って、2018年の熱中症による医療機関受診者数を推計した。また、分析対象を、健診データを取得することができる人に絞って、熱中症による受診と生活習慣等との関係をみた。

その結果、2018年の熱中症による医療機関の受診者数はおよそ60万人と推計され、救急搬送者数の6倍にのぼった。受診した人は、救急搬送者と同様に、高齢者が多かったが、いわゆる就労世代も3割程度はいる。高齢者や乳幼児、児童と比べれば、一般的に体力がある年代であり、自分の判断で水分をとったり休息しやすい状態にあると思われる。今回の結果では、就労世代でも受診する機会が多い人や、運動習慣がある人、睡眠で十分な休養がとれていない人で、熱中症で受診をする傾向があった。運動時の水分補給や、しっかり休養をとることは、これまでも熱中症対策として度々言われていることであったが、就労世代においても改めて気をつけるべきだろう。

一般に、肥満や飲酒、喫煙でも熱中症リスクが高いと言われるが、今回の結果では、肥満であること(BMIが25以上)、毎日飲酒していること、喫煙していることで、受診しやすさに大きな差はなかった。ただし、今回使ったのは、特定健診や職場健診における問診の結果であり、運動習慣や睡眠による休養、喫煙や飲酒習慣は、熱中症リスクが高い時期に限定した回答を得られているわけではない。すなわち、飲酒翌日は飲酒していない日よりもリスクが高いことなどは十分に考えられるほか、必ずしも熱中症による受診のリスクを分析するのに適したデータではないため、今回有意差が得られなかった項目についても熱中症リスクへの関連がないわけではない。今後、熱中症予防に向けて情報が蓄積されることを期待したい。
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