本稿では、(1)早食いと現在の肥満を確認した後、(2)将来の肥満を事前に予測できる指標となり得るか検討する。また、(3)早食いかどうかが自己申告であることによる影響があるかどうかについても考えたい。
使用したデータは、日本生命保険相互会社が許可を得た健康保険組合から取得した健康診断結果のデータ
4で、匿名加工が施されているため個人を特定する情報は含まない。
分析は2つのデータセットで行った。1つ目のデータセットは、2015年度、2016年度、2019年度の3年度とも健診を受けていてBMIのデータが取得できる、加入者資格が「本人」である男女を抽出した
5。なお、2015~2019年の全レコードのBMIの分布を確認したうえで、BMIが男女それぞれ99%信頼区間外のレコードを外れ値とみなして除外した
6。抽出されたのは、164,706人(男性131,027人、女性33,679人)で、それぞれの平均年齢は2015年度に男性47.2歳、女性46.5歳である。
肥満かどうかの判定には、BMI
7を使って、18.5未満を「低体重(やせ)」、18.5以上25未満を「普通体重」、25以上を「肥満」とした
8。
2つ目のデータセットは、2019年度に健康診断を受けており、「人と比較して食べる速度が速い(速い/ふつう/遅い)」に回答している男女を抽出した。加入者資格は「本人」と「家族
9」とした。抽出されたのは、829,686人(男性516,958人、女性312,728人)で、それぞれの平均年齢は46.4歳、女性46.2歳である。
4 39歳以下も対象とする労働安全衛生法に基づく法定健診と、40歳以上を対象とする高齢者の医療の確保に関する法律に基づく特定健診(特定健康診査、いわゆる「メタボ健診」)の結果。
5 男性は、ほとんどが「本人」だったことと、「本人」以外は、必ずしも職場に健康診断結果を届け出ているとは限らないことから健診結果以外のバイアスも考えられるため、ここでは、男女とも「本人」についてのみ分析を行った。
6 99%信頼区間は、男性[14.5-33.6]、女性[11.7-32.5]
7 BMI=体重(kg)/{身長(m)}2 で計算
8 WHO(世界保健機構)基準では、25以上30未満を「Preobese(過体重)」、30以上を「Obese(肥満)」としているが、日本は欧米と比べてBMIが低くても肥満に起因する合併症の有病率や発症率が高いことが知られており、(一社)日本肥満学会では25以上を「肥満」としている。(小川歩、宮崎滋「肥満と肥満症の診断基準」総合健診42巻2号(2051年))
9 本稿で使用するデータは、健康保険組合から取得しているため、「本人」の健診データはおおむね取得できているが、「家族」については健康保険組合に届け出られたものだけである。「家族」の健診結果を健康保険組合に届け出る理由としては、家族の健康診断へ補助を出している企業があるからだと考えられ、そのほとんどが配偶者への補助だと思われる。そのため、ここで取得できる「家族」のほとんどは「配偶者」であり、何等かの理由で家族の健診結果を健康保険組合に届け出ているケースだと考えられる。
3――分析結果