プレコンセプションケア 男性こそ必要なワケ-男性の生活習慣やストレスは精液所見に影響、加齢は次世代の健康に影響、男性の健康支援も丁寧に-

2025年03月25日

(乾 愛) 医療

■要旨

本稿では、プレコンセプションケアに関する取組みの拡大を受けて、女性のみならず、男性の健康状態に焦点を当てることも非常に重要であることを示した。

男性不妊症の現状として、 WHOの調査によると男性不妊は48%、諸外国の精液検査の結果、精子数の顕著な減少が示され、2024年の日本の精液調査でも、年齢に関係なく10人に1~2人が乏精子症であることが明らかにされた。

2016年のインドの研究では、BMIが30以上の肥満である者において精液量・総精子量・精子濃度の減少が示され、2019年の中国の武漢での研究でも、BMI18.5~29.9の太めの者において同様の結果が得られた。日本では2024年に東大病院らの研究グループが肥満により精子産生を抑制するメカニズムを解明している。

また、習慣的に飲酒する男性の47%に精液所見の悪化が認められており、日本人の50.3%がアルコール代謝がうまくいかない遺伝型であるため留意が必要である。喫煙についても、様々な生殖能力に悪影響を及ぼすことが明らかにされており、電子たばこについても正常胚の発生率を減少させることが判明しており、30歳~60歳の3割以上が習慣的な喫煙者であることからも注意が必要である。ストレスについては、生殖機能に及ぼす影響に一定の見解が得られていない状況であるが、性交障害や射精障害、勃起障害などの性機能障害のリスクを高める可能性が考えられている。大麻の有害性は言わずもがなであるが、短期的な心肺機能への影響や、長期的な深刻な精神障害のリスクとのみならず、死産や子宮内胎児発育支援、低体重、発育不全など次世代への子どもへの影響が指摘されている。

さらに、東北大学のマウスを用いた研究にて、父親の加齢が子どもの発達障がいの発症に影響する可能性が指摘され、 生殖能力のみならず、次世代の子どもへの影響が示唆されている。

現在、日本では、東京都のプレコンゼミや、江戸川区の男性を対象としたタバコ・肥満・男性不妊の影響などの情報発信、兵庫県の不妊治療支援条例など様々な形で展開されている。企業では、外部講師を招いてプレコンセプションケアに関するセミナーや推進活動を展開したり、希望者に精液検査キットの配布をしている事例がある。今後は、これらの企業の様に、女性だけでなく男性の健康支援にも注目しながら、プレコンセプションケアを展開していくことを期待したい。

■目次

1――はじめに
2――男性不妊症の現状
3――男性の生活習慣やストレスは精液所見に影響
  1|男性の肥満は精子生産を抑制
  2|アルコール摂取は、個人の代謝能力の違いにより精子運動率に影響
  3|喫煙は様々な生殖能力に影響
  4|ストレスは性機能障害のリスクを高める可能性
  5|大麻は生殖能力への影響のみならず、次世代へ影響
4――男性の加齢は次世代の健康に影響
5――プレコンセプションケアの展開
  1|自治体のプレコンセプションケア
  2|企業のプレコンセプションケア

生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛(いぬい めぐみ)

研究領域:

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴

【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社

・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)

【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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