宇宙天気現象に関するリスク-太陽フレアなどのピークに入っている今日この頃

2025年03月21日

(安井 義浩) 保険計理

1――はじめに

近年、暴風雨、洪水、山火事などの自然災害が、世界各地で頻発している。そうした自然災害は、すでに多くの被害をもたらしていることから、その対応として天気予報や警報、被害を軽減する方策や避難計画が講じられている部分もある。また被害を受けたあとの復旧計画もある場合があり、公的資金や民間保険などを活用した復興資金の準備なども考えられている。どんなに準備してもそれで万全ではないとしても、できる限りの対策が進められている。

今回は、まだあまり知られていない、あるいは上記のような自然災害に比べて、実際の影響がまだ明らかではない、太陽フレアによる影響などの「宇宙天気現象」と呼ばれるものについて紹介する。

これは宇宙では一般的な現象であり、温室効果ガス増加のように、人類の経済活動が災害の原因となるといったようなものではない。むしろ、通信技術の進化や、宇宙開発の進展等により、人類の進歩が宇宙環境に近づいていったために、被害が予想されるといった性質のもののようである。
 
宇宙天気現象の研究自体は古くから取り組まれているようだが、最先端の科学技術だけではなく、携帯電話の普及など社会全体に影響がある時代になって、ある程度注目され、影響も大きいとみなされるようになってきたもののようである。それでもなお、宇宙天気現象のもたらすリスクの社会的な認知度は低く、国際的にもこうした関心を高めていく必要があるとされる。

例えば、米国、英国では、国家全体で対処すべき「国家的リスク」として、宇宙天気を位置付けている。わが国においても、2022年6月に総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会」の報告書1(以下 報告書、と略記)が公表されている。以下では、主にその報告書をもとに、宇宙天気現象に関するリスクとその対応について、見ていくこととしたい。
 
1 宇宙天気予報の高度化のあり方に関する検討会報告書(2022.6.21)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000821116.pdf

2――太陽活動と、その地球への影響

2――太陽活動と、その地球への影響

1|太陽活動
まずは、そもそもの根源である太陽活動について概略をみておく。

太陽は、全体がガスの塊である。直径は地球の109倍の140万km、質量は地球の33万倍の2×1030㎏である。地球から1億5,000万kmの距離にあり、これは光の速さ(秒速30万km)でも約8分かかる。太陽の中心では核融合反応が起こっており、その温度は約1600万℃である。これによって膨大なエネルギーが生み出されており、これが太陽の表面に伝わる。そこでは様々に変化する様相が見られる。これらを太陽活動と呼ぶ。

太陽の表面温度は6,000℃である。表面近くでは、太陽の外側に炎のように揺らぐ「プロミネンス」(約10,000℃)、高温のプラズマである「コロナ」(約100万℃)、周囲より温度が低く磁場が強い「黒点」(約4,000℃)などが観測されている。

そして「太陽フレア」であるが、これも太陽活動の一つで、黒点の周辺で突然明るく光る爆発現象のことを指す。その大きさは1万~10万㎞で、太陽系内最大の爆発現象とされる。この爆発によって、太陽の大気に含まれるガス(CME:Coronal Mass Ejection コロナ質量放出)や高エネルギー粒子、放射線が発生する。

太陽フレアは、磁場が強い黒点の近くで発生することから、黒点近くの磁場の持つエネルギーが放出される現象と見られ、黒点の磁場の構造が複雑な場合に発生しやすいのではないかと考えられているが、こうしたメカニズムは、現在でも完全には解明されていない。
 
太陽活動は、約11年の周期で、活発になったり弱くなったりを繰り返している。これを、「太陽周期」と呼び、ピークを迎える時期を「太陽極大期」、弱まる時期を「太陽極小期」と呼ぶ。

こうした中、2024年10月15日、アメリカ航空宇宙局は、「太陽は極大期に入っており、今後1年はピークが続く可能性がある」と発表した。現在は太陽活動のピークの真っ只中ということになる。
2|地球への影響
太陽フレアなる爆発現象に伴って、電気や磁気を帯びたガス(CME)、高エネルギー粒子、放射線が周囲に放出される。前述の通り、太陽と地球の距離は約1億5,000万kmであり、こうした放出物が地球に到達するのに要する時間には、放出物によって違いがある。電磁波は光の一種であり、従って地球に到達するのに約8分かかる。高エネルギー粒子は30分~2日、太陽風(陽子、電子、アルファ線)は2~3日かかる。ある太陽活動が起こってから、地球にその影響が出るまでの時間には、現象によって、差があることになる。
 
一方、地球の周りには大気圏、電離圏、磁気圏、放射線帯があって、あたかも地球を保護しているかのような状態となっているが、上記のような太陽からの放射物との相互作用により、複雑な現象が超高度の上空で生まれている。例えばよく知られたオーロラもそのひとつである。

こうした、太陽からの放射物が地球に到来する現象や、地球周辺で発生する現象のことを「宇宙天気現象」と呼ぶ。これは太陽や地球ができた頃から「日常的に」起きていたのだろうが、現在までに人間の活動は、通信・放送・測位、人口衛星、航空無線、電力等の高度な社会インフラを作り出してしまっているので、まれに発生する大規模な現象は、地球上の活動に大きな影響を及ぼすことがある。(一般に、こうしたものを「文明進化型の災害」と呼ぶ。)。
3|自然災害全体の中での宇宙天気現象の位置づけ
国連防災機関(UNDRR)と国際学術会議(ISC)は2019年5月に、あらゆるハザードに対するリスクや脆弱性を評価するための方法を開発し、各国が自然災害等に対する取組を強化できるようにするため、ハザードの全容を明らかにするプロジェクトを開始した。

その結果、専門家によりハザードリストが整理され、2021年10月に「HAZARD INFORMATION PROFILES」2などが公表された。この中で、302種類のハザードが8つのクラスター(気象水文ハザード、地球外ハザード、ジオハザード、環境ハザード、化学ハザード、生物ハザード、技術ハザード、社会的ハザード)に分類され、詳細に定義されている。

宇宙天気現象に関わるものについては、「地球外ハザード」の中で、以下の通り、「地磁気嵐」「電離圏嵐」「太陽フレアによる電波障害」「太陽嵐」が定義されている。(報告書 p.13より)
 
〇地磁気嵐(Geomagnetic Storm)
・(定義)太陽嵐によって引き起こされる地球磁場の乱れ。宇宙天気現象による高エネルギー粒子、太陽フレア、無線障害を含む。
・(影響)地磁気誘導電流(GIC)による送電網への影響
 
〇電離圏嵐(Ionospheric Storms)
・(定義)太陽フレア等によって高度160㎞以上の電離圏(F領域)で発生する乱れ
・(影響)通信、航行、宇宙物体のレーダー追跡などに使われる電波の伝搬に影響。短波帯通信の途絶
 
〇太陽フレアによる電波障害(Radio Blackout)
・(定義)太陽フレアによる短波帯での無線通信のフェージングまたはフェードアウト
・(影響)短波帯通信に用いられる電波の途絶
 
〇太陽嵐(Solar Storm)
・(定義)太陽から地球近傍への大量の荷電粒子の到達
・(影響)人工衛星の電子回路の損傷、生物のDNAの損傷、短波帯通信の途絶、極域の航空機運航への影響
 
2 HAZARD INFORMATION PROFILES (2021 UNDRR )
https://www.undrr.org/media/73913/download?startDownload=20250312
4|過去の事例
以下のように、これまでにも太陽フレア等が社会インフラに影響を及ぼした例はある。
 
・カナダ ケベック州(1989年3月)
太陽フレアの磁気嵐によって電力会社の設備が影響を受けて、約9時間の停電が発生。これにより約600万人に影響が及んだ。
 
・日本(2000年7月~2001年3月)
2000年7月、日本の天文観測衛星「あすか」が、太陽フレアの磁気嵐により、姿勢が制御できなくなり、観測を中止せざるを得なくなった。その後も回復せず、「あすか」は徐々に軌道高度を下げ、2001年3月大気圏に突入し消滅した。
 
・日本 成田空港(2001年4月)
成田空港の管制塔と飛行中の国際線航空機との間で通信状況が悪化し、約2時間にわたって数分ずつ断続的に通信ができない現象が発生した。
 
・米国 フロリダ州(2022年2月)
スペースX社が打ち上げた人工衛星49機のうち40機が、太陽フレアの磁気嵐の影響で軌道から外れ、大気圏に落下し喪失した、と発表された。
 
地上では、雨や風などの状況すなわち天気が、人間(さらに広く生物全般?)生活に大きな影響を与えるので、前もってそれを予測し行動するための「天気予報」が重要となるのは周知のことであるが、それと同様に、宇宙及び地上の技術システムや人体に影響を及ぼす、太陽、太陽風、磁気圏、電離圏、超高層大気の状況、すなわち宇宙天気が我々の生活に大きな影響を与えるならば、前もってそれを知るための「宇宙天気現象の予報」を開発し、高度化する必要が高まっているということになる。

3――宇宙天気予報 と極端な宇宙現象がもたらす最悪シナリオ

3――宇宙天気予報3と極端な宇宙現象がもたらす最悪シナリオ

1|宇宙天気予報
通常の天気予報と同じように、こうした太陽フレア等を観測し、現状を知らせ、あるいは将来の予想を行うのが、「宇宙天気予報」である。これはわが国においては、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が2004年から一般に公表してきている。

例えば、この原稿を書いている日本時間3月12日午前の「概況・予報」には

「太陽活動は活発でした。引き続き今後1日間、太陽活動は活発な状態が予想されます。地磁気活動は静穏でした。今後1日間、地磁気活動はやや活発な状態が予想されます。電離圏は静穏な状態でした。引き続き今後1日間、電離圏は静穏な状態が予想されます。」

とあり、詳細な説明もあとに続く。

通常の天気予報で言うところの、気温、気圧、降水確率、風速、波の高さなどにあたるもの(と筆者が勝手にイメージしているもの)として、太陽フレア、プロトン現象、地磁気擾乱(じょうらん)、放射線体電子、電離圏嵐、デリンジャー現象、スポラディックE層、など4の活発さを示すレベルが表示されている。
 
3 これは、主要国で行われている事業一般の名称にも見えるが、日本では、この用語「宇宙天気予報」は、1991年に商標登録(現在はNICT)されている。
宇宙天気予報 国立研究開発法人情報通信研究機構
https://swc.nict.go.jp/
4 これら一つ一つの現象の説明に興味があれば、同ホームページなどをご覧頂きたい。ここでは様々な宇宙天気の種類があることを知っておけば充分と思われる。

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩(やすい よしひろ)

研究領域:保険

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴

【職歴】
 1987年 日本生命保険相互会社入社
 ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
 2012年 ニッセイ基礎研究所

【加入団体等】
 ・日本アクチュアリー会 正会員
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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