マンションと大規模修繕(6)-中古マンション購入時には修繕・管理情報の確認・理解が大切に

2025年03月19日

(渡邊 布味子) 不動産市場・不動産市況

1.建築費の上昇は今後も続くことが予想される

マンションの大規模修繕を含む管理運営を考えるうえで、建築費の上昇は悩ましい問題の一つである。国土交通省の建築工事費デフレーター(2015年=100)によると、2024年12月の建築補修費は前年同月比7.2%上昇し、過去4年間の上昇率は24.2%に達している(図表1)。建築費上昇の要因である資材価格の上昇や円安の影響は足もとで落ち着きつつあるものの、職人の高齢化や働き方改革などに伴う人手不足と労務コストの上昇は避けがたく、建築費の上昇は今後も続くことが予想される。

2.工事時期の集中で、大規模修繕費がさらに上昇する可能性

2.工事時期の集中で、大規模修繕費がさらに上昇する可能性

今後は大規模修繕工事を迎えるマンションが増加し、工事費を押し上げてしまうリスクにも注意したい。図表2は、一定の前提条件のもとに推計した1大規模修繕工事を迎えるマンション戸数(全国ベース)の推移を示している2

2027年から2035年にかけて大規模修繕工事の増加が想定され、この期間の年間平均戸数は約59万戸と見込まれる。これは直近10年間の平均値(48万戸)を24%上回る水準である。工事時期の集中に伴い工事費がさらに上昇した場合、修繕積立金が不足し、修繕計画の先送りを余儀なくされるマンションが増加する可能性がある3
 
1 マンションの建築着工から完成までの期間を2年、大規模修繕の実施サイクルを13年とした。
2 実際には大規模模修繕工事は戸数単位ではなく棟数単位で実施。
3 なお、部材の高品質化やメンテナンス向上、技術革新などにより、大規模修繕工事の周期は長期化の傾向にある。

3.中古マンション購入は修繕計画・管理の情報を事前に入手し、理解し、判断を

3.中古マンション購入は修繕計画・管理の情報を事前に入手し、理解し、判断を

このように、大規模修繕費の上昇が見込まれるなか、中古マンションの購入者は事前に修繕計画や管理情報を入手し、その内容を十分に理解したうえで、意思決定することが大切になる。東日本不動産流通機構によると、2024年に売買された首都圏中古マンションの平均築年数は約24.5年(前年比+0.7年、2014年比+4.9年)と上昇傾向にある(図表3)。このため、マンション購入後間もなく、2回目の大規模修繕工事を迎えるケースが今後も増加すると予想される。
したがって、修繕積立金の不足による一時負担金の支出リスクなど、売買契約前に十分な説明を受け、不明点があればしっかりと確認することが望ましい。

仲介業者(宅地建物取引業者)は購入者に対して、「売買対象の土地や建物に関して知っておくべき最低限の事項(重要事項)」について、宅地建物取引士の資格を持つ者によって書面を用いて説明する義務4を負う。マンションに関する重要事項の説明では、以下の書類が添付される。
 
・ 管理規約
・ 使用細則
・ 管理組合総会議事録
・ 建物の修繕実施記録
・ 管理に係る重要事項調査報告書
 
これらの書類には、マンションの管理状況や修繕計画に関する重要な情報が記載されている。大規模修繕に関しては、主に「管理に係る重要事項調査報告書」5に記載があり、長期修繕計画の有無、共用部分等の修繕実施状況(10年以内に実施したもの)、大規模修繕工事実施予定(総会での承認状況、工事内容・期間・工事費・一時金の予定ほか)などを把握することができる。

また、上記の書類が揃わない場合は、その理由についても確認したい。将来的なリスクを見極めて、許容できないリスクがある場合は、購入を見送ることも検討すべきではないだろうか6
 
4 これを「重要事項説明」という。宅地建物取引業法第35条並びに同法施行規則第16条の2による。
5 一般社団法人マンション管理業協会「管理に係る重要事項調査報告書作成に関する ガイドラインの様式等の改訂について」(ひな形では、第8項に大規模修繕計画関係を記載)を参照されたい。https://www.kanrikyo.or.jp/report/pdf/gyoumu/jyusetsu_guide_20220408.pdf
6 法律上、重要事項説明は売買契約の直前でも問題ない。また、仲介業者の義務は説明までである。

4.中古マンションの資産価値は、修繕・管理情報がより重要に

4.中古マンションの資産価値は、修繕・管理情報がより重要に

もっとも、修繕・管理に関する情報がマンションの売買価格に十分反映されているとは言い難い。国土交通省が2023年8月に公表した「今後のマンション政策のあり方に関する検討会 とりまとめ」では、「マンションの管理状況が価格に反映される環境づくり(市場への情報提供の充実)」の必要性を指摘している。こうした課題解決に向けてスタートした「管理計画認定制度」7は、認定マンションの実績が5,082件(2024年7月末)と数を伸ばしており、さらなる普及拡大が期待される。

今後、中古マンションの取引が増加するなかで、修繕計画や管理状況の良し悪しに関する情報は買い手の重要な判断基準の1つとなる。また、マンション管理に関する法制度についても、新築時から適切な管理や修繕が行われるよう、分譲事業者が管理計画を作成して管理組合に引き継ぐ仕組みなど、様々な制度が拡充されている8

マンションの所有者や管理組合は資産価値の維持に向けて、計画的な修繕を実施し、積立金などの資金管理を行い、分かりやすい情報提供に努める必要がある。中古マンションを購入する人は、修繕計画や管理情報について、必要な情報を確認・理解することが、より大切になるだろう。
 
7 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/keikakunintei.html
8 2025年3月4日に「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律案」が閣議決定された。

金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子(わたなべ ふみこ)

研究領域:不動産

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴

【職歴】
 2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
 2006年 総合不動産会社に入社
 2018年5月より現職
・不動産鑑定士
・宅地建物取引士
・不動産証券化協会認定マスター
・日本証券アナリスト協会検定会員

・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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