3-1│転職者数の職業別ランキング
ここからは、厚生労働省の「雇用動向調査」より、シニアの転職状況についてみていきたい。先にお断りしておくと、同調査では、60歳などで定年を迎えていったん退職し、同じ会社から再雇用された人も「転職者」に含めて集計している。従って、「60~64歳」のデータについては、純粋な転職市場の状況を表しているとは言えないため、参考程度で数値を紹介する。
始めに、シニアでは、どんな職業の人が、転職が多いのかについて分析する。同調査より、常用労働者
2のうちパートタイムを除く「一般労働者」について、転職者数の職業を、男女別に順位付けしたものが、図表3である。
まず「55~59歳男性」では、全体の転職者15万7,000人のうち、「管理的職業従事者」が最大の約3万人である。図表1で見たように、母数となる55~59歳男性の「管理的職業従事者」は約17万人しかいないが、転職を果たした職業のトップを走る。
シニアになっても、高い能力や豊富な経験があれば、求人があると言うことができるだろう。働く人の側から見ると、特に大企業では、50歳代後半で役職定年を設ける企業も多いため、役職を降りて、処遇や役割が低下した人が、より良い条件を求めて、中小企業やベンチャーなどに管理職として移るケースがあると考えられる。このことは4-1でも説明する。
次に多いのが「事務従事者」と「専門的・技術的職業従事者」である。雇用動向調査では、転職した「事務従事者」のより詳しい内訳までは分からないが、
事務の中でも、高度な職務経験のあるシニアが転職を果たしている可能性がある。ここで、参考に、厚生労働省の「令和2年転職者実態調査」より、「事務的な仕事」の転職者を採用した事業所が「採用した理由」の回答を見ると、「離職者の補充のため」(58.5%)に次いで、「経験を活かし即戦力になるから」(42.0%)が多かった。この集計は、すべての年齢階級を対象としたものだが、単なる不足分の穴埋めであれば、より若い層を優先的に採用すると考えられるため、シニアに関しては、後者の「即戦力になる」が当てはまるケースが多いのではないだろうか。
次に、「55~59歳女性」を見ると、最大は「事務従事者」の1万9,000人である。女性に関しては、「事務従事者」の母数が圧倒的に多いこともあるが、前述したように、
事務の中でも、例えば経営管理や人事、財務、法務など、いわゆる「コーポレート職種」と呼ばれるような分野で専門スキルや実績がある女性が、転職を果たしている可能性がある。2位の「サービス職業従事者」には、「介護サービス職業従事者」や、「飲食物調理従事者」、「接客・給仕職業従事者」などが含まれる。医療・介護や飲食サービス業では人手不足感が強いため
3、転職しやすいと考えられる。3位は「専門的・技術的職業従事者」である。なお、
4位の「管理的職業従事者」は、母数が少ない割に、転職者数の順位が高い。筆者の前稿「女性管理職転職市場の活発化~『働きやすさ』を求めて流動化し始めたハイキャリア女性たち~」(基礎研レポート)でも紹介したように、女性活躍政策などの影響で、特に50代後半で上位管理職に就くような女性人材が、企業間で奪い合いになっている可能性がある。
「60~64歳」についても、参考として記載した。「60~64歳男性」は、上述したように、定年後再雇用の影響で、転職者数自体が21万4,000人と、「55~59歳男性」よりも多い。ただし上位の職業をみると、2-1で紹介した
「シニア男性三大職業」の中に「管理的職業従事者」が割り込み、2位となった。管理職に関しては、定年後の再雇用者は少ないと考えられるため、純粋に転職市場の中で、中小企業やベンチャーなどのニーズが大きいと考えられる。「60~64歳女性」では「専門的・技術的職業従事者」、「事務従事者」、「サービス職業従事者」が多かった。