タイパ時代の「脱タイパ」消費とは-「消費に失敗したくない」Z世代

2025年02月17日

(廣瀬 涼) 消費者行動

本レポートのポイント

「消費に失敗したくない」という志向が情報収集を慎重に行う動機となる
Z世代の64.0%がプレゼントをあげる相手に事前にネタバレをする
Z世代の半数が動画コンテンツをネタバレしてから視聴している
わざわざ消費する上で我々は、(1)価値、(2)動機、(3)比較、(4)効用の高次化、(5)正しく消費、を検討している

1――はじめに

1――はじめに

15歳~69歳の男女1,200人を対象に調査を行った「セイコー時間白書20241」によると、普段の生活において、調査対象の58.0%が「タイパ(タイムパフォーマンス)2を意識して行動している」と答え、78.5%が「なるべく早く正解にたどり着きたい」、71.5%が「なるべく無駄な時間は過ごしたくない」と回答している。
併せて、タイパを重視する考え方の社会への定着については60.5%が「社会に定着したと思う」と回答しており、労力や労働にかかる時間を短縮したり、動画の倍速視聴やマンガなどのコンテンツをネタバレしてから消費するなど、関係的価値や交流的価値(コミュニケーションのネタ)を求めて手間や時間を省く行為が、日常における消費の手段として浸透していることが伺える3。このタイパという言葉は、若者の「ファスト映画」視聴問題によって広く認知されたこともあって、若者の特徴的な消費行動として認識されてきたが、処理しなくてはいけない情報が膨大であったり、コミュニケーション相手(コミュニティ、界隈)ごとに必要とされる消費すべきコンテンツが異なるために、効率的にそのコンテンツをフックにコミュニケーションをとれる状態になる必要があり、ネタバレ消費(作品を楽しむ前にある程度の内容を把握しておく)や倍速視聴など、時間や手間を省いたコンテンツ消費が行われることになるわけだ。したがって、映画やマンガにしろ、本来ならば作品を通じて感動や楽しさを得る事が効用そのものであるが、効率化を求めるが故に内容を知る=消費した状態になることが、タイパ消費の基本となる。

若者マーケティング研究機関であるSHIBUYA109 lab. が15~24歳のZ世代を対象に行った「Z世代の映像コンテンツの楽しみ方に関する意識調査」4をみると、動画視聴の際に「倍速視聴」は48.6%、「スキップ再生」は51.5%、「ネタバレ視聴」は44.3%と、約半数がタイパを追求した視聴経験をしていることがわかる。
一方で、このようなタイパ時代と逆行するような「脱タイパ消費」の傾向も垣間見られる。本レポートでは3つのケースからZ世代における「脱タイパ」の背景と、その要因を検討していく。
 
1 https://www.seiko.co.jp/csr/stda/archive/2024/detail.html
2 この調査ではタイパを「生活のさまざまなシーンにおける時間対効果のこと(時短や時間効率のよさだけでなく、自身が豊かだと感じる時間の使い方も含む)」と定義している。
3 廣瀬涼(2023)『タイパの経済学』幻冬舎
4 SHIBUYA109 lab.「Z世代の映像コンテンツの楽しみ方に関する意識調査」2022/08/18  https://shibuya109lab.jp/article/220818.html

2――ケース1 慎重な情報収集とマイベストバイ

2――ケース1 慎重な情報収集とマイベストバイ

関西学院大学・鈴木謙介ゼミナールが、株式会社シタシオンジャパンとの共同で行った「Z世代のコスパ感覚」に関する調査5によると、コスメショップにおける来店客の滞在時間は平均12分、その内、テスター試用やパッケージを見るなど商品を立ち止まって手に取る時間は平均2分であったという。また、来店客はテスターの蓋をすべて開ける、比較のためにブースを3往復する、商品を決めてもまだテスターを試し続けるといった様子も観察され、店頭ではしっかりと商品をテストして確認する行動が見られた。これは、過去の筆者のレポート6でも論じている通り、Z世代の消費行動の特徴の1つとしてみられる「買い物に失敗したくない」という動機が情報収集を慎重にさせていると考えられる。

実際に商品に遭遇してから、購買に至るまでは、SNSやYouTubeなどの口コミや、インフルエンサーのレビューを参照する等、多くの情報源から慎重に商品を選ぶ傾向にある一方で、実際に店頭で商品を検討する際には、しっかりとテストをしたり、友達や家族と来店し意見を仰いだり、調べつくして何度も見たはずの口コミページを再度閲覧する等、最終的な購入までに時間や手間のかかる行動をとる傾向がある。また、ECサイトやメルカリなどで新品が低価格で出品されていないかなど価格を比較し、店頭で実物を見ながらインターネットを経由して購入するといった消費行動も珍しくはない。電通プロモーションプラス若者消費ラボの所長を務める五十嵐響介が、SNSネイティブであるZ世代は情報精査に費やす時間が短く、SNSではコンマ数秒で自分に必要な情報か否かを判断しているという見解7を示しているが、そのような日々流れてくる膨大な情報を瞬時に処理している一方で、消費に失敗しないために時間や手間をかける「脱タイパ」的な傾向が見られると言えるだろう。

イー・クオーレが行った「2022年Z世代の消費行動に関する調査」8では、Z世代と、それ以前のY世代の買い物する時の価値観を比較しているが、「失敗したくないという気持ちが強い」「決断する時は他人のアドバイスがほしい」などの失敗しない買い物を意識した項目への回答がY世代より多いことがわかっている。また、Y世代は、商品の売上ランキングなど、ある意味大衆からの支持や大衆が考える正解を購買動機や参考にしていたが、、Z世代は口コミの評価の高さや、情報ソースの信ぴょう性、自分にあっているかという、自分にとってのマイベストバイを求めている。筆者が以前大学生を対象に行ったグループディスカッションでも、

確かに商品に対する知識量は販売員や美容部員を信用するけれども、自分に似合うものは自分の方が知っているから、検討中に話しかけられるのは困る

という意見を多く耳にした。同様に成人式や卒業式など着付けが必要な際にヘアメイクや着付けはお店に頼むが、メイクに関しては自分でした方がいい、という意見がSNSで散見されたりする。人が薦めてくれたモノや、人気があるモノという「推奨」だけを購入の決定打にせず、自分にとっての正解に繋がる情報を取得するために手間を惜しまないのである。
 
5 関西学院大学・鈴木謙介ゼミナール「「Z 世代のコスパ感覚」に関する調査」2024 /08 /30 https://seminar.szk.cc/genz_research_20240830.pdf
6 廣瀨涼「Z世代の消費を読み解く5つのキーワード」基礎研レポート 2023/04/17
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=74574?site=nli
7 五十嵐響介「Z世代は0.5秒で判断する 買う選択肢に残るためのSNSの作法」2023年9月号販促会議 https://mag.sendenkaigi.com/hansoku/202309/sns-buying-intention/027111.php
8 伊藤真美[「Z世代の消費行動の特徴は? コンテンツ作りで意識すべき特有の"価値観"」web担2022/11/02 https://webtan.impress.co.jp/e/2022/11/02/43482

3――ケース2 サプライズを避けたい

3――ケース2 サプライズを避けたい

メルカリ総合研究所が2023年3月に18歳~57歳の男女600人を対象に実施した「Z世代の行動特性や価値観とクレジットカード利用に関する調査」9によると、想定外のことが起きた時、Z世代では30.0%が、バブル世代では21.3%が「失敗」と捉えると回答しており、Z世代はバブル世代に比べ、「想定外」を失敗やストレスと捉る傾向があるようだ。実際に同調査ではZ世代の6割以上が「想定外のこと/サプライズなことはできるだけ避けたい」と回答したという。同様にSEEDATAが2021年に19~25才の男女224名を対象に行った「ネタバレに関する調査」10では友人や家族にプレゼントをあげる際に中身をネタバレしてからあげたことがあるか聞いているが、64.0%が経験があると回答している。

従来の価値観で言えば誕生日や記念日などはサプライズが前提であるが、祝われる側からすると、サプライズで連れていかれた場所によっては、自身の服装やメイクがミスマッチなケースもあり、自身が満足しない装いで写真などを撮られSNSにアップされてしまったりすると、いくら素敵なプランだったとしても、祝われる側にしてみればネガティブな感想が生まれる原因になってしまいかねない。そもそも、サプライズは、成功すれば相手の期待値以上のものになるが、当然がっかりさせられる可能性もある。期待値以上をハイリスク・ハイリターンで狙いに行くより、相手が確実に喜ばせることに重きを置くのがZ世代的と言えるだろう。また、プレゼントをもらう側も、もらったプレゼントによい反応ができないかもしれないというリスクや、そもそもいらないモノを貰っても困るという事から、「ウィッシュリスト」と呼ばれる、誰かがくれる(購入してくれる)ことを期待して作ったリストを公開し、もらう側もハズレのないモノを期待する場合もある11

ちなみに、SNS用の写真を撮ることが大きな目的となっていることから、東京ディズニーリゾートにサプライズで連れていくことは、すでにご法度とされている。
 
9 メルカリ総合研究所「Z世代の行動特性や価値観とクレジットカード利用に関する調査」2023/04/17 https://about.mercari.com/press/news/articles/20230417_zgen-mercard/
10 牧島夢加「Z世代に流行する「ネタバレ消費」とは?"失敗したくない"若者のホンネ」LIFE INSIDER 2021/06/16 https://www.businessinsider.jp/article/236701/
11 あげる側もセンスが悪いと思われたくないし、もらう側もそれを貰っても困る。そのような不確定な要素によって生まれるミスコミュニケーションこそが、消費の失敗となるため、そのリスクを避けていると言えるだろう。

4――ケース3 リスク回避のためのネタバレ消費

4――ケース3 リスク回避のためのネタバレ消費

3つ目はコンテンツ消費におけるネタバレだ。冒頭で前述した通り、SHIBUYA109 lab.の調査によればZ世代の約半数がネタバレをしてからのコンテンツ視聴経験があると回答している。同様にSEEDATAの調査においても映画やドラマを視聴する際に事前に、ネタバレサイトや口コミサイト、考察サイトなど内容を確認してからの視聴経験があるか、という問いに対して54.1%が経験があると回答している。

メルカリ総合研究所の調査からも示唆されているように、Z世代は先の分からないことや想定外のことが起きて気持ちがアップダウンすることは、ある種の「ストレス」と捉える傾向が強い。日々消費しなくてはいけないコンテンツは極めて多く、その都度感情が揺さぶられること自体がストレスになるため、事前に物語の結末や道筋を知っておきたいのだ。ネタバレを肯定し視聴を楽しむ層にとっては、自身の持つ事前情報やそれに基づいて立てた予測と実際に視聴しているモノとを重ね合わせて答え合わせをするような視聴体験をしていると言えるだろう。体験しないとわからない事に対して費用を払う事が映画やレジャーを始めとした「コト消費」の本質であるのだが、体験しないとわからないという点が、わからない事に対して支出するリスクや、予期していない感情になることへのリスクとなってしまっているのだ。

生活研究部   研究員

廣瀬 涼(ひろせ りょう)

研究領域:暮らし

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴

【経歴】
2019年 大学院博士課程を経て、
     ニッセイ基礎研究所入社

・公益社団法人日本マーケティング協会 第17回マーケティング大賞 選考委員
・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

【加入団体等】
・経済社会学会
・コンテンツ文化史学会
・余暇ツーリズム学会
・コンテンツ教育学会
・総合観光学会

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)