新設された5歳児健診とは?-法定健診から就学までの期間における発達障がいや虐待リスクに対応、その後のフォローアップ体制には課題も-

2025年02月10日

(乾 愛) 医療

1――はじめに

2023年12月に閣議決定された「子ども未来戦略」における、今後3年間の集中的な取り組みである「加速化プラン」の具体的な施策のひとつとして乳幼児健康診査(以下、乳幼児健診)の推進が掲げられた。1その中で、切れ目のない乳幼児健診の実施体制を整備するため、2023年度補正予算により「1か月児」及び「5歳児」健康診査支援事業が創設され、2024年度現在では全国展開が進められている。

乳幼児健診の1歳6か月健診及び3歳児健診については、法定健診として母子保健法の12条第1項に基づき、市町村に実施が義務付けられているが、それ以外の健診は必要に応じて実施される体制となっている。

3歳児の法定健診から就学まで概ね3年間もの期間があり、かねてからこの期間の発達障がいの見過ごしや、育児負担感増大に伴う児童虐待リスクの高まりが懸念されていた。特に、幼児期は言語理解や社会性の発達が著しく成長する段階にあり、その間の保健・医療・福祉による対応の有無が、その後の子どもの成長・発達に多大なる影響を及ぼすことを考えると、5歳児健診は極めて重要な位置づけにあるとされている。また、養育環境や経済的困窮などの子どもの健康に影響を与える社会的決定要因に対して、適切な保健指導や子育て支援におけるサポートを行うことにより、より健全な学童期につなげる役割も期待されているのである。

本稿では、乳幼児健診に関する市町村の取組み状況や5歳児健診のポイント、課題について概説する。

2――乳幼児健診の位置づけと取組み状況

2――乳幼児健診の位置づけと取組み状況

1|乳幼児健診の位置づけ
乳幼児健診は、母子保健法において規定されており、第12条(義務)と第13条(任意)に区分される(参照:図表1)。第12条(義務)では、「市町村は1歳6か月児健診及び3歳児健診を実施しなければならない」とされており、それ以外の妊婦健診や新生児聴覚検査、3~6か月児健診や9~11か月健診などは、市町村が地域の実情に応じて任意で実施できるものと規定され、財源についても地方交付税が裏付けとなっている。
2|自治体の取組み状況
子ども未来戦略の加速化プランの中で言及がなされた1か月健診及び5か月健診については、市町村が任意で実施することはできるものの国の助成制度の対象ではなかったため、これまでにも一部の自治体でしか実施されていなかった。

2022年度の全国の自治体における乳幼児健診の実施状況について、図表2に示した。これによると、子ども家庭庁が1,793市区町村の実態を整理した結果、法定健診である1歳6か月健診や3歳児健診の実施率はいずれも95%前後(集団健診)であり、地方交付税で運営される3~5か月健診や9~11か月健診の実施率も高い水準であるのに対し、これまで公費で負担されていなかった1歳児健診や5歳児健診は低い水準に留まっているのが分かる。

新たに5歳児健診が、地方公共体が実施する特定の事業に対して国から交付される国庫補助の対象として創設されたことは、自治体の安定的な事業遂行のためにも大変重要な決定であったことは間違いない。今後、全ての市町村において5歳児健診の実施が想定されているため、そのポイントを概説したい。(本稿では、5歳児健診に併記されている1か月健診については取り扱わない。)

3――5歳児健診のポイント

3――5歳児健診のポイント

1|目的と意義
5歳児健診の目的は、「幼児期において幼児の言語の理解能力や社会性が高まり、発達障害が認知される時期であり、保健・医療・福祉による対応の有無が、その後の成長・発達に影響を及ぼす時期である5歳児に対して健康診査を行い、こどもの特性を早期に発見し、特性に合わせた適切な支援を行うとともに、生活習慣、その他育児に関する指導を行い、もって幼児の健康の保持及び増進を図ること」とされている。5歳児健診の内容としては、(1)身体発育状況、(2)栄養状態、(3)精神発達の状況、(4)言語障害の有無、(5)育児問題となる事項の確認(生活習慣の自立、社会性の発達、しつけ、食事、事故等)、(6)その他の疾病及び異常の有無等を確認することである。

特に、5歳児では社会的な発達状況を評価するのに最適な時期とされている。例えば、発達障がいは、明らかに顕著な特性があれば3歳頃から目立ち始めるため、法定健診でのスクリーニングにてフォローをすることができるが、いまだ集団生活を経験していない幼児において、家庭生活における発達状況のみの聞き取りだと正確にスクリーニングできずに支援につながらないことがある。

一方で、5歳児が保育園・幼稚園・認定子ども園のいずれかに就園している割合は、2020年度時点で99.3万人(98.1%)と報告されており2、いずれかの環境で集団生活を送っている状況であれば、遊びや人間関係を通して社会的な発達を評価することができるため、発達特性に偏りがあれば目立ちやすく非常にフォローしやすい。また、社会生活を経験していれば、食事・運動習慣や生活リズムがある程度固まってくるため、過度な偏食による栄養状態の偏りや肥満傾向、近年問題視されているメディア視聴状況などについても評価しやすい。これらを踏まえて、保健指導や養育相談の体制を整えることができれば、偏食による欠食問題や不規則な生活リズムによる不登校など、就学後に与える影響を低減させることに期待ができる。5歳児健診の導入は、義務教育期間の生活にスムーズにつなげるためにも非常に意義があるものと考えられる。
 
2 株式会社NTTデータ経営研究所(2023)「未就園児等の把握、支援のためのアウトリーチの在り方に関する調査研究」より、5歳児の就園率について算出 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/mishuuenji_kentou_iinkai/pdf/zentaiban.pdf
2|実施体制
そもそも乳幼児健診の実施方式には、市町村の保健センター等で実施する集団健診と、医療機関に委託して実施される個別健診が存在する。集団健診では、他児との関係性など社会性の発達を観察できること、多職種による保護者への保健指導や相談支援を同日に提供できることなどに大きな意義が認められている。個別健診は、就業している保護者の時間制約が緩和される、プライバシーに配慮しやすいなどの利点がある一方で、保護者が同年齢のこども達の発達・発育や遊びの様子を目にしたり、健診当日に多職種による保健指導や相談支援を受ける機会が少なくなる。

したがって、5歳児健診は、情緒、社会性の発達状況や育児環境の課題等に対する気づきの場としての役割があり、多職種によるこども・家族の状態に応じた支援を開始し、就学に向けて必要な準備を進めていく必要があるため「集団健診方式」での実施が推奨されている。集団健診は、医師や保健師、管理栄養士や心理相談員等の専門職に加えて、こども家庭センター、保育所等 、医療機関、療育機関、児童発達支援センター等の関係機関と連携する必要もある。健診当日の流れを図表3に示しているが、健診の結果や専門職の評価を踏まえて、その後の支援方針を決定する必要があるため、普段の幼児の生活の場に関わる所属機関との連携体制は非常に重要な役割を担うこととなる。

生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛(いぬい めぐみ)

研究領域:

研究・専門分野
母子保健・不妊治療・月経随伴症状・プレコンセプションケア等

経歴

【職歴】
2012年 東大阪市入庁(保健師)
2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了(看護学修士)
2019年 ニッセイ基礎研究所 入社

・大阪市立大学(現:大阪公立大学)研究員(2019年~)
・東京医科歯科大学(現:東京科学大学)非常勤講師(2023年~)
・文京区子ども子育て会議委員(2024年~)

【資格】
看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

【加入団体等】
日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

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