米国経済の見通し-25年以降の経済見通しはトランプ政権の政策が左右

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.335]

2025年02月07日

(窪谷 浩) 米国経済

1―経済概況

(7-9月期の成長率)堅調を維持
米国の24年7-9月期の実質GDP成長率(以下、成長率)は前期比年率+3.1%(前期:+3.0%)と前期に続き堅調な伸びを維持した。個人消費が+3.7%( 前期:+2.8%)と前期から伸びが加速するなど、個人消費主導の景気回復となっている。全米小売業協会(NRF)による24年の年末商戦売上高予想は前年比+2.5%~ +3.5%と底堅い伸びが予想されており、10-12月期も個人消費は堅調を維持するとみられる。
(金融政策)3会合連続の利下げ
FRBは24年9月のFOMC会合でインフレリスクが後退する中でこれ以上の労働市場の悪化は望まないとして▲0.5%ポイントを皮切りに、11月と12月会合でもそれぞれ▲0.25%ポイントと3会合連続で利下げを実施した。FRBは政策金利が依然として中立金利を上回っていると判断しており、時間をかけて利下げを継続する方針を示している。

FRBの政策目標のうち、労働市場は非農業部門雇用者数(前月比)の3ヵ月移動平均は24年12月が+17.0万人と年初の+24.3万人から低下した[図表1]。

また、失業率は12月が4.1%と23年4月の3.4%から上昇するなど、労働市場は全般的に減速傾向が続いている。
次に、インフレは消費者物価(CPI)の総合指数が24年11月の前年同月比+2.7%と2ヵ月連続で上昇したほか、物価の基調を示すコア指数は+3.3%と24年8月の+3.2%を底に低下が一服している[図表2]。

このような中、12月会合後に発表されたFOMC参加者の政策金利見通し(中央値)はインフレの上振れに加え、トランプ政権下でのインフレ上昇懸念を反映して、25年の政策金利見通しが3.9%と前回(9月)から+0.5%ポイント上方修正され、利下げ回数の見通しが前回の4回から2回に引下げられた。

2―経済見通し

(見通し前提)規制緩和の影響は見込まず
24年11月の大統領・議会選挙ではトランプ氏が再選を果たし、議会は上下院で共和党が過半数を確保してトリプルレッドとなった。このため、トランプ氏が掲げる政策公約の実現可能性が上昇した。

トランプ氏は主要な経済政策として、税制改革、関税引上げなどの通商政策、不法移民の強制送還などの移民政策、エネルギー分野をはじめとする規制緩和などを掲げている。当研究所はこのうち、税制改革や規制緩和が成長押上げ要因となる一方、関税の引上げや不法移民の強制送還が成長押し下げ要因と考えており、最終的な経済への影響はトランプ政権がどの政策をどのような優先順位でどこまで実行するのかによって大きく左右される。

当研究所は経済見通しを策定する際の経済政策の前提として、税制改革、通商政策、移民政策、規制緩和について[図表3]に示す前提を置いた。税制改革はトランプ氏の政策公約を実現、通商政策では対中関税30%が25年初から、全輸入品に対する5%関税を26年初から実施すると想定した。また、移民政策については不法移民65万人の強制送還を25年初から開始すると想定した。
一方、規制緩和については定性的には成長押上げ要因となることが見込まれるものの、定量評価が困難なため、経済見通しへの影響は見込まない。

これらを踏まえて、税制改革の経済見通しの影響については米シンクタンクのTax Foundationの推計*1を通商政策、移民政策についてはピーターソン国際経済研究所の各政策に対する推計*2を使って、ベースケースシナリオへの影響を試算した。
(経済見通し)成長率(前年比)は24年見込みが+2.7%、25年が+1.8%、26年が+1.5%を予想
当研究所はベースケースシナリオの成長率( 前年比)を25年、26年ともに+1.9%と想定した[図表4]。なお、税制改革のうち、17年の減税・雇用法(TCJA)で25年末を期限とする暫定措置の期限延長については、ベースケースシナリオに含まれている。
前期の試算からベースケースシナリオに対する成長率への影響は税制改革(新規提案分)が25年、26年をそれぞれ+0.1%ポイント押し上げる一方、通商政策は25年に横這い、26年を▲0.4%ポイント押し下げ、不法移民の強制送還は25年を▲0.1%ポイント、26年を▲0.2%ポイント押し下げると推計し、合計で25年を▲0.1%ポイント、26年を▲0.4%ポイント押し下げると予想した。この結果、成長率は24年見込みの+2.7%から25年が+1.8%、26年が+1.5%と予想する。

一方、CPIへの影響については、関税引上げがインフレを押し上げるほか、移民の強制送還も労働力不足に伴う労働需給の逼迫を背景にした賃金インフレの加速からインフレを押し上げることが見込まれる。CPI(前年比)のベースケースからの押し上げ幅は成長率と同様の試算で、ベースケースシナリオ(25年:+2.3%、26年:+2.2%)から25年は+0.4%ポイント、26年は+0.6%ポイント押し上げられると予想する。この結果、CPI(前年比)は24年見込みの+3.0%から25年が+2.7%、26年が+2.8%となろう。

金融政策は、ベースケースシナリオでは25年に四半期毎に1回の頻度で、年4回の利下げを見込むほか、26年は年2回の利下げを見込む。これに対して、トランプ氏の経済政策によるインフレ加速に伴いFRBは25年後半から26年後半にかけて政策金利を据え置く結果、利下げ回数は25年が2回、26年が1回に留まろう。

長期金利(年平均)はインフレ高進や利下げ回数の減少、財政赤字悪化懸念などを背景に25年が4.4%、26年が4.3%とベースケースの3.7%、3.4%からそれぞれ+0.7%ポイント、26年が+0.9%ポイント上振れしよう。
(リスク要因)インフレ高進と政策の予見可能性低下
上記見通しに対するリスクは、インフレ高進とトランプ氏の政策の予見可能性の低下が挙げられる。前述のようにトランプ氏が実現を目指す関税の引上げや移民の強制送還はインフレを押し上げる可能性が高い。関税の引上げは一時的なインフレ押し上げ要因とみられるが、不法移民の強制送還で労働力不足が深刻化し、賃金と物価がスパイラル的に上昇する場合にはFRBはインフレ抑制のために政策金利の引上げを余儀なくされる可能性がある。

また、トランプ氏がFRBに対して利上げしないように政治的な圧力をかける場合には期待インフレ率の上昇を招きインフレ高進リスクがより高まろう。この結果、早晩金融政策は引締め政策に軌道修正せざるを得なくなり、米国経済には下振れリスクとなろう。

一方、トランプ氏は24年11月25日にSNS上で薬物問題や不法移民問題を背景に中国からの輸入品に10%、カナダとメキシコからの輸入品に25%の追加関税を賦課する可能性を示唆した。カナダやメキシコに対する25%関税は選挙公約で言及されたことはなく、寝耳に水の政策であった。トランプ氏の1期目を振り返っても、SNS上で唐突に政策方針が示されることが多く、2期目も同様の事が繰り返され、政策の予見可能性が低い状況が続くとみられる。

政策の予見可能性の低下は家計や企業の意思決定に影響を与えるため、個人消費や設備投資が抑制される可能性が高まろう。

経済研究部   主任研究員

窪谷 浩(くぼたに ひろし)

研究領域:経済

研究・専門分野
米国経済

経歴

【職歴】
 1991年 日本生命保険相互会社入社
 1999年 NLI International Inc.(米国)
 2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
 2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
 2014年10月より現職

【加入団体等】
 ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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