コラム

ファイナンシャル・ウェルビーイングについて(1)-基本的な概念と枠組み

2025年01月30日

(西久保 瑛浩) 消費者行動

1.はじめに

近年、金融界を中心に「ファイナンシャル・ウェルビーイング」という言葉が世界的に注目を集めている。ファイナンシャル・ウェルビーイングは、人々の経済的な豊かさを新たな観点から捉え直そうとする概念で、今後人々やその集まりである組織・地域などの経済状況を把握するための基本的かつ重要なツールとなり得る。

しかし、その定義や枠組みなど、現時点では研究途上の部分が多い概念でもある。そこで本稿では、「ファイナンシャル・ウェルビーイング」についての基本的な情報を整理したい。

2.ファイナンシャル・ウェルビーイングの定義について

現在、OECDや国連の主導により、世界的に「Beyond GDP」という取組みが推進されている。これは金銭的指標であるGDPのみでは測れない人々の認知に基づく豊かさ・幸福度(=ウェルビーイング)や持続可能性を評価し政策目標化していくというもので、その俎上にあるウェルビーイングの基準作りや計測は国際的な議論となっている。

本稿の主眼であるファイナンシャル・ウェルビーイング(以下「FWB」)は、Gallup(2010)1によってウェルビーイングを構成する5つの要素の1つとして初めて発表された概念である(図表1)。
FWBはその登場以降、人々の経済的な豊かさを評価する新たな指標として注目され、米国の金融界を中心に積極的に研究が行われてきた。日本においても金融庁が「2023事務年度 金融行政方針について」においてFWBの実現について言及しており、今後国内でもFWBに関する議論は拡大していくものと考えられる。
 
さて、各国では、FWBはそれぞれ以下のように定義されている。
 
  • 【米国】消費者金融保護局(Consumer Financial Protection Bureau、以下「CFPB」)
    「現在および将来の経済的債務を十分に果たすことができ、将来の経済状況に安心感を持つことができ、人生を楽しむ選択ができる状態」2

  • 【英国】金融年金サービス局(Money and Pensions Service)
    「安心感があり、コントロールできていると感じること。つまり、日々の支払いができ、不測の事態に対処することができ、健全な将来の経済状況への軌道に乗っていると認識していること」3

  • 【日本】金融庁
    「自らの経済状況を管理し、必要な選択をすることによって、現在及び将来にわたって、経済的な観点から一人ひとりが多様な幸せを実現し、安心感を得られている状態」4
 
まず、FWBを理解する上で最も重要な点は、FWBを含むウェルビーイングが人々の主観によって決まるものであるということだ。これまで人々の経済的な豊かさを評価する際には、収入や資産など客観的かつ物質的な豊かさに着目するのが一般的であったが、FWBは人々が自身の経済状況をどう捉え、どう感じているか、という精神的な要素を含む豊かさを指している。このことは、各国の定義において「安心感」というワードが共通していることにも表れている。

また、時間軸として「現在」と「将来」が挙げられていることも各国の定義に共通する重要なポイントといえる。FWBはある時点の物質的な豊かさではなく、その時点から見た将来までに亘る精神的な豊かさを意味しているのである。
 
1 Gallup(2010)"The Five Essential Elements of Well-Being"
2 Consumer Financial Protection Bureau(2015)"Financial well-being: The goal of financial education"p.18より筆者翻訳
3 Money and Pensions Service(2020)"UK Strategy for Financial Wellbeing"p.10より筆者翻訳
4 金融庁(2024)「国民の安定的な資産形成の支援に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」p.1より引用
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