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最新のトレンドは「月経を止める」ディナゲスト
しかし、近年、月経困難症や子宮内膜症の治療法に「月経を止める」という革新的な治療法が登場した。ディナゲスト(ジェノゲスト)は、従来の低用量ピルとは異なり、卵胞ホルモンであるエストロゲンが含まれておらず、黄体ホルモンであるプロゲステロンのみで生成されているという特徴がある。これによって、卵巣の働きを抑えて排卵を停止させ、月経を引き起こさないように働きかけることが可能となった。近年、月経そのものが子宮や卵巣にダメージを与えていることが判明しており、自身が分泌するエストロゲンによって子宮内膜症や子宮筋腫などのエストロゲンに依存する疾患が増幅することが分かってきた。前述した低用量ピルの内服についても、基本的に毎月月経を引き起こす周期投与から、3~4か月ごとに月経を引き起こす連続投与に移り変わりつつあり、これも月経の回数を減少させることで子宮や卵巣を保護することを目指したものである。その点、ディナゲストは、内服を開始すると完全に月経が停止されるため、子宮や卵巣を守る効果が非常に優れていると言える。月経の期間が長くなり回数が増加した現代女性に対して最適な選択肢となりうる。
また、低用量ピル同様に、子宮内膜や病巣に直接働いて増殖しないように抑制させる効果も期待できる。通常、子宮内膜が肥厚化すると排出しようと子宮を収縮させる痛みの原因となる物質が放出されるが、ディナゲストでは、子宮内膜の肥厚化を抑制させることで、内膜排出のために生じる過度な子宮収縮を緩和させることができる。また、低用量ピルでは、その重篤な副作用として血栓症の発症リスクがあげられ、高脂血症や高血圧の持病を抱える方や肥満の方、子宮頸がんや乳がんのある方、肝機能障害や腎機能不全の方などは内服できないなどの制約がある。しかしディナゲストでは、血栓症のリスクが生じない為、初経を経験したばかりの10歳代から閉経間近の50歳頃まで幅広い年齢層に適用できるというメリットがある。
一方で、生理が来なくなることに不安を抱く声も聞かれるが、排卵した結果、子宮内膜が肥厚し、その排出に伴い生じる毎月の出血や子宮収縮の痛みは、妊娠するためには不要な現象である。妊娠するか否かに必要なのは、生理ではなく排卵であり、その排卵を適切にコントロールすることで、無駄な排卵を抑制することができる。基本的に、妊娠のしやすさである妊孕性は、卵巣の卵子の数に依存し、毎月の排卵によって閉経までに徐々に減少していく。そのため、排卵を停止することで、無駄な卵子の損失を回避し、妊娠を望むタイミングで内服を辞めると再度排卵が再開され、効率的に妊娠に結びつく可能性がある。
また、不妊症リスク回避の他にも、低用量ピルと比較し鎮静効果が高いことが報告されており、月経が停止されるため体内のホルモン変動が消失するため、PMS(月経前症候群)などの症状も基本的には消失すると言われている。さらに、低用量ピルは内服開始後の「吐き気」が酷く、内服を継続できない事例が散見されるが、ディナゲストは嘔気が生じにくいため低用量ピルの副作用が生じた方にも勧められる。同様に、骨代謝回転
7を下げないデータもあり若年女性にも使用可能で、更年期症状も出にくいため50歳代の女性にも使用しやすい。その上、ディナゲストは、2020年5月から保険適用となり、同年6月からはジェネリック処方も開始されており、保険診療のため自己負担も軽減できる。
一点、ディナゲストの副作用として、内服開始後に9割の方が不正出血を経験することが報告されている
8。これは、内膜を偽脱落膜化させる作用と、卵胞の発育を抑制しエストロゲンの上昇を抑制させる作用が影響し、内膜が薄くはがれやすい状態になるからである。しかし、不正出血のリスクは低用量ピルの内服についても同様であり、効果と副作用について正しく理解した上で、必ずかかりつけ医と相談しながら治療薬の種類や内服可否を決定する必要がある。
本稿では、子宮や卵巣を積極的に守るために「生理を止めるという新しい選択肢」をご紹介した。しかし、いまだ日本では国際指標では当たり前である「かかりつけ婦人科を持つ女性の割合」や「低用量ピルの内服率」に関する実態調査さえも実施されていない。子どもの婦人科受診行動は、親のヘルスリテラシーに左右されるという文献報告もあり、適切なプレコンセプションケア教育を受けていない成人層から子どもへの知識伝聞の機会は少ない。また、親世代もかかりつけ婦人科がない場合も多く、本稿の様な最新の知識を得る機会も非常に少ない。今回ご紹介した新たな選択肢が、月経に伴う諸症状で苦しんでいる、もしくは受験や社会生活の中で不利益を被っている女性の一助になることを願うものである。