2025年はどんな年? 金融市場のテーマと展望

2024年12月10日

(上野 剛志) 金融市場・外国為替(通貨・相場)

2.日銀金融政策(11月)

(日銀)変更なし(開催なし)
11月はもともと金融政策決定会合が予定されていない月であったため会合は開催されず、金融政策は現状維持となった。次回会合は、今月18~19日に開催される予定となっている。
 
なお、11月は植田総裁による情報発信が目立った。

まず、18日に名古屋で行われた経済界代表者との懇談における挨拶では、足元の経済・物価情勢について、「企業・家計の両部門で、所得が増加し、それが支出に回る前向きの循環メカニズムが徐々に強まってきている」、「物価上昇を牽引する力が、輸入物価上昇を起点とするコストプッシュ要因から、国内での賃金上昇に変化してきている」と前向きに評価。先行きを見通すうえでカギとなるものとして、「海外経済が緩やかな成長経路を辿っていくか」、「賃金の上昇が続き、物価との好循環が引き続き強まっていくか」という二点を挙げた。

今後の金融政策運営については、「(日銀が示している)経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」としつつ、「どのようなタイミングで進めていくかは、あくまで、先行きの経済・物価・金融情勢次第」と10月MPM後の会見の内容を踏襲し、具体的な手がかりを与えなかった。

また、講演の前営業日に円相場が1ドル156円台まで円高に振れる場面があったものの、講演では強い円安けん制姿勢は見られなかった。
 
続く21日に都内で行われたパリ・ユーロプラス ファイナンシャル・フォーラム 2024における挨拶では、テーマが金融仲介機能ということもあって手がかりが少なかったものの、記者会見において植田総裁が「次回12月MPMまでは1カ月あり、より多くのデータが得られる」との認識を示したことを受けて、市場で12月利上げの思惑が高まる場面があった。
 
また、日本経済新聞が11月30日に電子版で報じたインタビュー記事3(インタビューは28日に実施)において、植田総裁は米国経済の先行きを確認したいと付け加えつつも、追加利上げの時期については「データがオントラック(想定通り)に推移しているという意味では近づいているといえる」と発言。発言自体は追加利上げの時期を特定するものではないが、市場では12月の利上げ観測が高まることになった。
 
3 "植田日銀総裁、利上げ「賃金・米国見極め」 データ想定通り  植田和男・日銀総裁インタビュー"、日経電子版、2024年11月30日
(今後の予想)
日銀は国内経済・物価について「オントラックにある」との評価を維持しており、前回利上げから数カ月経過するなかで追加利上げのタイミングを模索している状況にあると推測される。

ただし、前回10月MPM以降、円安は進んでおらず、利上げを急ぐ必要性も高まっていないうえ、政府が補正予算や税制改正などで景気に配慮する取り組みを集中的に検討している時に景気を冷やす効果を持つ利上げを決めるということのハードルもありそうだ。

筆者の中心的な見通しとしては、日銀は将来「拙速であった」との評価を受けるリスクを低減させるためにも、カギとなる来春闘での賃上げの勢いをさらに見定め、来年1月23-24日のMPMにおいて、政策金利を0.50%程度へ引き上げると引き続き予想している。1月上旬に行われる支店長会議などを通じて情報を全国津々浦々から集約したと主張をしやすいこと、1月は展望レポートの改定時期にあたり、追加利上げに至った説明をしやすいということも1月利上げの利点となる。

ただし、春以降、日銀は利上げ判断に際して為替を重視する姿勢に傾いている。従って、もし今後12月MPMまでに円安が大きく進む場合には、7月利上げの際と同様、「物価の上振れリスクが高まった」として、利上げが12月に前倒しされるだろう。

3.金融市場(11月)の振り返りと予測表

3.金融市場(11月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
11月の動き(↗) 月初0.9%台半ばでスタートし、月末は1.0%台半ばに。
月上旬に行われた米大統領選でのトランプ氏再選を受け、財政拡張やインフレ再燃の思惑による米金利上昇が波及したほか、円安進行に伴う日銀の早期利上げ観測も加わり、7日に約3ヵ月ぶりに1.0%台へ乗せた。その後もトランプ氏再選の余韻が続いたうえ、日本のGDP上振れや植田日銀総裁の発言を受けて日銀の12月利上げ観測が高まったことを受け、21日には1.10%に到達。下旬には、米財務長官人事を受けて財政拡張観測がやや後退したほか、FRBによる12月利下げ観測の台頭もあってやや低下、月末は1.0%台半ばで終了した。
(ドル円レート)
11月の動き(↘) 月初152円台半ばでスタートし、月末は150円近辺に。
月初、152円台で推移した後、米大統領選でのトランプ氏再選を受け、財政拡張やインフレ再燃の思惑が台頭。米金利上昇を通じてドル高となり、7日に154円台半ばを付けた。直後に行われたFOMCを受け、利下げ継続観測によって一旦153円台に下落したが、米下院で共和党が過半を獲得し、トリプルレッドが成立したことや、パウエルFRB議長によるタカ派的な発言を受けて再びドルが買われ、15日には156円台に到達した。一方、下旬に入ると、植田総裁発言などから日銀の利上げ観測が高まったほか、トランプ次期大統領による関税引き上げ表明やウクライナ情勢緊迫化を受けたリスクオフの円買いなどで円が強含む展開に。月末は150円近辺で終了した。
(ユーロドルレート)
11月の動き(↘) 月初1.08ドル台後半でスタートし、月末は1.05ドル台半ばに。
月初、1.09ドル付近で推移した後、米大統領選でのトランプ氏再選を受けたドル高圧力によって、6日に1.07ドル付近へ下落。さらに米次期政権の関税引き上げによるユーロ圏経済下押し懸念や米物価指標の予想比上振れを受けて下落し、14日には1.05ドル台前半に。しばらく1.05ドル台で推移したが、ウクライナ情勢の緊迫化や欧州の景況感悪化を受けて、22日には1.04ドル台前半にまで下落した。月の終盤はドル高圧力がやや後退したことで下げ止まったものの、上値は重く、月末にかけて1.05ドル台での推移が続いた。
 
 

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経済研究部   主席エコノミスト

上野 剛志(うえの つよし)

研究領域:金融・為替

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴

・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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