休会任命は前述のように合衆国憲法に規定されているが、想定されている状況は当時と近年では大きく異なっている。合衆国建国当時の連邦議会はほぼ通年で開会している現在とは異なり、半年ほどしか開会しておらず、閉会中に生じた欠員の任命を大統領に付与することは行政サービスを円滑に継続する上で必要と考えられていた。このため、休会任命はあくまで正規の手続きに対する補充的な暫定措置と位置付けられており、休会任命によって任命された公務員の任期は議会の次の会期の終わりまでと制限が設けられた。米国の議会の会期は1年となっているため、会期のはじめに休会任命された場合に任期は当会期と次会期末までの最大2年間となる。
これに対し、近年は党派性が強まる中、大統領と上院の多数派が異なる分割政府では大統領が指名する人事が上院で否決されるケースが増えているほか、上院での審査などの承認プロセスに時間を要し行政サービスに支障がでるケースも増えてきた。このため、休会任命が上院の承認プロセスを回避して大統領が望む人事を進めるための手段として活用されてきた。実際に、クリントン大統領は139回、ブッシュ(子)大統領は171回休会任命を行った。
一方、休会任命の濫用は立法府と行政府の間のチェックアンドバランスとしての上院の承認プロセスを形骸化し、大統領が本来なら資格のない候補者を上級職に任命するリスクを高める。なお、大統領の休会任命に対しては、上院も休会任命を防ぐ目的で議会の会期間や会期内の休会を回避する目的で上院議員1名が登庁して開会を宣言し、直ぐに散会することを繰り返すプロフォーマ(Pro Forma)議会によって通常の議事を進行せず形式的に開会することで対抗してきた。
このような状況に対して、法曹界では合衆国憲法が定める休会任命を可能にする休会の定義(会期間の休会か会期内の休会も含むのか、休会任命が許される休会の期間、プロフォーマ議会が開会とみなされるのか)や、欠員の定義(会期中に生じた欠員か、会期前から生じていた欠員も含むのか)等について様々な論争が行われてきた。
そのような中、オバマ政権下でプロフォーマ議会中に休会任命された公務員を巡って休会任命の合憲性が争われた裁判(国家労働関係委員会対ノエル・カニング裁判)の判決が14年6月に連邦最高裁判所で下され、全員一致で違憲と判断された。連邦最高裁は、憲法の規定に関して休会を会期間および会期内を含むと判断したほか、欠員の定義について会期中だけでなく会期前に生じた欠員も含むと幅広く定義した。このため、ここまでの決定は大統領の裁量を広げる方向の判断となった。しかしながら、連邦最高裁は休会任命が認められる休会の期間を基本的に10日以上としたほか、プロフォーマ議会は議会が開会中とみなせるとの判断を示したことにより、大統領が休会任命を行うには10日以上の休会が前提となったほか、議会が対抗手段としてプロフォーマ議会を活用できることが示されたため、全体的には大統領の休会任命を活用するためのハードルが上がった。
実際に同判決以降、上院議会はプロフォーマ議会によって休会任命を回避する議会運営を続けており、判決後のオバマ政権、トランプ政権、バイデン政権下で休会任命は一度も活用されてこなかった。
もっとも、今回の議会選挙を受けて共和党が上下院で過半数を確保するトリプル・レッドとなったことでトランプ次期大統領が休会任用を活用できるとの見方がでている。議会の休会に関して合衆国憲法は他の議院の同意が無ければ3日を超えて休会することができないと規定している
3。また、同憲法は休会に関して下院と上院の間で意見の相違がある場合に、大統領に議会を休会できることを認めている
4。このため、トランプ氏に近いジョンソン下院議長が下院で上院による10日以上の休会を求める動議を提出して、上院が同意する場合は10日間の休会となりトランプ氏による休会任命が可能となるほか、仮に上院が同意しない場合でも憲法の規定により、大統領による休会が可能となる。ただし、歴代大統領でこの規定を使って議会を休会させた例はなく、激しい法律論争を引き起こす可能性が高い。
3 合衆国憲法1条5節4項「合衆国議会の会期中、両吟は、各々他の議院の同意がなければ、3日を超えて休会し、または両議院が開会すべき場所以外にその議場を移してはならない」
4 合衆国憲法2条3項「大統領は、特別な場合には、両院または両院のいずれかを招集することができ、両院間で意見の相違がある場合には、休会の時期に関して、彼が適切と考える時期に両議院を休会することができる」