2024~2026年度経済見通し(24年11月)

2024年11月18日

(斎藤 太郎) 日本経済

1.2024年7-9月期は前期比年率0.9%のプラス成長

2024年7-9月期の実質GDPは、前期比0.2%(前期比年率0.9%)と2四半期連続のプラス成長となった。

住宅投資(前期比▲0.1%)、設備投資(前期比▲0.2%)は小幅な減少となったが、所得税・住民税減税による可処分所得の増加を背景に民間消費が前期比0.9%の高い伸びとなった。物価高による下押し圧力が残るなかで、南海トラフ地震臨時情報や台風の接近・上陸を受けた一部列車の運休、旅行のキャンセル、工場の操業停止等が夏場の消費を下押ししたが、6月から実施されている所得税・住民税減税で家計の可処分所得が大幅に増加したことが、消費の押し上げ要因となった。

輸出が前期比0.4%の低い伸びにとどまり、輸入の伸び(同2.1%)を下回ったことから、外需寄与度は前期比▲0.4%のマイナスとなったが、民間需要、公的需要がともに増加し、国内需要のプラス寄与(前期比0.6%)がそれを上回った。
(輸出は緩やかな増加が続く)
世界の貿易量は2024年入り後に前年比でプラスに転じた後、徐々に伸びを高めているが、日本の輸出は横ばい圏の推移が続いている。

輸出の先行きを左右する海外経済を展望すると、米国の実質GDP成長率は2023年の2.9%から2024年も2.7%と潜在成長率を明確に上回るが、累積的な金融引き締めに加え、トランプ次期大統領が公約としている関税引き上げ、不法移民の強制送還に伴うインフレの影響などから、2025年が1.8%、2026年が1.4%と減速が続くことが予想される。2023年の実質GDPが前年比0.4%の低成長にとどまったユーロ圏は、インフレの落ち着きなどから徐々に持ち直すものの、2024年に0.8%へ持ち直した後、2025年が1.4%、2026年が1.4%と回復するものの、コロナ禍の急速な落ち込みの後としては、緩やかな伸びにとどまるだろう。また、2023年の中国の実質GDP成長率はゼロコロナ政策終了の影響で2022年の3.0%から5.2%へ加速したが、不動産市場低迷や雇用・所得環境の改善の遅れなどから2024年が4.7%、2025年が4.2%、2026年が4.0%と減速傾向が続くと予想している。総じてみれば、今回の予測期間である2026年まで海外経済は緩やかに回復するものの、成長率は低水準にとどまることを想定している。
一方、グローバルなIT関連財需要の回復が続いていることは明るい材料だ。世界半導体売上高は2019年夏場以降、前年比で減少が続いていたが、2023年春頃に底打ちした後、足もとでは前年比で20%台まで伸びを高めている。

海外経済の低成長が続くため、輸出の伸びが大きく加速することは見込めないが、IT関連財を中心に持ち直しの動きが続くことが予想される。GDP統計の財貨・サービスの輸出は2024年度が前年比1.5%、2025年度が同2.9%、2026年度が同2.9%と緩やかな増加が続くと予想する。
(夏のボーナスが賃金を大きく押し上げ)
現金給与総額(一人当たり)は2024年4-6月期の前年比3.0%に続き、7-9月期も同3.1%の高い伸びとなった。33年ぶりの伸びとなった2024年春闘の結果が反映され、所定内給与の伸びが高まる中、夏のボーナスが大幅増となったことが現金給与総額を大きく押し上げた。

厚生労働省が11/7に公表した2024年の夏季賞与は前年比2.3%と3年連続で増加した。ただし、これは賞与が支給された事業所における労働者一人当たりの平均値であり、全事業所における労働者一人当たりの平均賞与額は前年比5.7%の高い伸びとなった。賞与を支給した事業所の割合が2023年の65.9%から73.0%へと急上昇した結果、賞与支給事業所に雇用される労働者の割合が2023年の80.0%から84.3%へ上昇したためである。企業収益の改善や深刻な人手不足を背景に、中小企業を中心にボーナスの支給に踏み切った企業が多かったものと考えられる。
名目賃金を消費者物価で割り引いた実質賃金上昇率は2022年4月からマイナスが続いていたが、2024年6月に前年比1.1%と2年3ヵ月ぶりにプラスに転じた後、7月も同0.3%と2ヵ月連続のプラスとなった。ただし、6、7月のプラス転化は特別給与(ボーナス)の大幅増加が主因であり、ボーナスの支給が少ない8月(同▲0.8%)、9月(同▲0.1%)は再びマイナスとなった。

「酷暑乗り切り緊急支援」による電気代・都市ガス代の伸び率鈍化を主因として消費者物価上昇率が低下する10月、年末賞与の高い伸びを主因として名目賃金上昇率が高まる12月には、実質賃金上昇率が再びプラスとなることが見込まれる。ただし、「酷暑乗り切り緊急支援」終了後には消費者物価上昇率が再び高まるため、実質賃金上昇率が持続的・安定的にプラスとなるのは2025年度入り後にずれ込みそうだ。
(2025年の春闘賃上げ率は2年連続の5%台を予想)
2024年の春闘賃上げ率は5.33%(厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」)と33年ぶりの高水準となった。2025年の春闘を取り巻く環境を確認すると、有効求人倍率は低下傾向にあるものの引き続き1倍を大きく上回る水準となっており、失業率が2%台半ばで推移するなど、労働需給は引き締まった状態が続いている。また、法人企業統計の経常利益(季節調整値)は過去最高の更新が続いており、消費者物価上昇率は高止まりしている。
賃上げの環境を過去と比較するために、労働需給(有効求人倍率)、企業収益(売上高経常利益率)、物価(消費者物価上昇率(除く生鮮食品))について、過去平均(1985年~)からの乖離幅を標準偏差で基準化してみると、3指標がいずれもプラスとなっており、その合計は過去最高となった2024年に近い水準となっている。賃上げの環境は引き続き良好と判断される。
連合は、10/18に発表した2025年春闘の基本構想で、賃上げ要求を2024年に続き5%以上(定期昇給相当分を含む)、中小労働組合は格差是正分を積極的に要求するとした。こうした状況を踏まえ、今回の見通しでは、2025年の春闘賃上げ率を5.20%と2年連続で5%台の高水準を維持することを想定した。
名目賃金は前年比で3%程度の伸びが続くことが予想されるが、消費者物価は政策変更の影響で振れの大きい展開が続くため、実質賃金の伸びは当面プラスとマイナスを繰り返すことが見込まれる。実質賃金上昇率が持続的・安定的にプラスとなるのは、現在3%程度となっている消費者物価上昇率(持家の帰属家賃を除く総合)が2%台半ばまで鈍化することが見込まれる2025年7-9月期以降と予想する。

2023年度の名目雇用者報酬は前年比1.8%と3年連続で増加したが、消費者物価上昇率が高止まりしたことから、実質雇用者報酬は前年比▲1.5%と2年連続で減少した。名目雇用者報酬は2023年度の前年比1.8%から2024年度に前年比3.5%へ伸びを大きく高めた後、2025年度が同3.3%、2026年度が同3.1%と高めの伸びを維持するだろう。実質雇用者報酬は、2024年度に前年比0.7%と3年ぶりに増加した後、2025年度が同1.3%、2026年度が同1.4%と伸びを高めることが予想される。
 
 

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎(さいとう たろう)

研究領域:経済

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴

・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職

・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員

レポートについてお問い合わせ
(取材・講演依頼)